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2008.03.07

戦極〜リアルな強さとは

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 非常に遅くなりましたが、感想やら思索やらを。試合結果などはカクトウログさんでどうぞ。
 まあ、便利な時代でして、お金を払わずともちょっと待てばこうして全戦鑑賞できるんですよね。ありがたい。で、ようやく全試合観ましたので。
 まずは御存知ない方のためにちょっと解題を。「戦極」とは、2007年に活動を停止したPRIDEの選手やスタッフの受け皿として発足した、ワールドビクトリーロードが主催する総合格闘技イベントのことです。ワールドビクトリーロードの中心になっているのは、木下工務店、ドン・キホーテ、日本レスリング協会です。
 いずれにせよ、なんとなくすっきりしない形で消滅してしまったPRIDEに対する、(私やカミさんなんかも含めた)ファンの愛情や情熱のようなものの、一つの行き場所として、この「戦極」という場所が生まれたわけです。そういう意味で、HERO'Sや昨年末の「やれんのか」、そして近く開催される「DREAM」との関係などを書き始めると逆に面倒なことになるので、今日は純粋に「戦極旗揚げ戦」についてのみ述べようと思います。
 まず、正直な一言。「プロレスラーは強いんです」…藤田和之選手とジョシュ・バーネット選手が、ああいう勝ち方をしてくれまして、プロレスファン(心のプロレスラー)としては、はっきり申しまして、かなり大量の溜飲を下げました。もちろんいろいろな見方があるのを承知でもう一度「極」言しますと、「プロレス最強」だということです。
 その象徴的なシーンが冒頭のバックドロップです。おそらくこの大会中、最も沸いたシーンでしょうね。そう、メインの試合開始早々、ジョシュが吉田秀彦に豪快なバックドロップを見舞ったのです。この美しいバックドロップを見て、私は「アントニオ猪木vsウィレム・ルスカ」と「三沢光晴・力皇vs小川直也・村上和成」を思い出しましたね。前者はプロレスラー対柔道金メダリストという意味で、後者は…まあいろいろな意味で(笑)…そうそう、この試合の解説者席に、なんと当の吉田秀彦さんが座ってるんですよ。なんの因縁でしょうねえ。
 戦極は「リアルな戦い」「本物の闘い」を見せるということを標榜しています。ここでいう「リアル・本物」と「プロレス」との間に違和感を抱く人もいるでしょうね。でも、私は今後、格闘技は再びプロレス寄りになってくると思ってますよ。その象徴がこのメインの試合だったと思うんです。
 「戦い」の本義が、優劣・雌雄・勝敗を決することであることはたしかです。しかし、その判断の基準は多様であっていいと思います。結局、ここ10年くらいのいわゆる総合格闘技ブームの浮沈を見ると、その多様性に選手や観客や運営会社や放送局がどう対処したかが問われているな、と感じるんです。
 あえて非常に分かり易い言い方をしますと、「いじめっ子」が本当に人間として強いのか、もしかすると「いじめに耐えている子」の方が強いのではないか、そういう視点も当然あるだろ、ということです。
 リアルな本物の強さの表現というのは、それこそ多様であって、ただ相手を打ちのめすだけではないはずです。プロレスには、そういう、単なる市場主義的なものではない、あるいは弱肉強食的ではない、優劣・雌雄・勝敗というものがあります。自然界で本当に一番強い生物は何かと問われて、皆さんならどう答えますか?ライオンでしょうか。人間でしょうか。ゴキブリでしょうか。目に見えない細菌でしょうか。いろんな基準や価値観が存在しますよね。
 そういう多様性を、あえて単純な図式の中で見せるのがプロレスであると、私は常々思っているんですよ。ですから、戦極が「リアル・本物」を標榜して、プロレス寄りの試合を見せてくれたことに喜びをおぼえたんです。総合の世界もようやく健全な状態に戻りそうだなと。
 三沢さんだっけかな、誰かが言ってましたっけ。総合格闘技には夢がないと。少年の頃憧れた、空を飛び、人間離れした動きをし、やられてもやられても立ち上がり、最後は必殺技で大逆転、というスーパーヒーローを体現する、そういう夢の実現がない。常人からは考えられない「非常性」…それは網野義彦的に言えば、まさに現実社会に対する「アジール」です…こそが「プロ」のスポーツの正しいあり方でしょう。お客さん不在の個人的な戦いは、私には「修行」にしか見えません。他人の修行を観ることに意味がないとは言いませんけど、お金を払ってまで観ようとは思いませんね、私は。
 ということで、今回のMVPは圧倒的大差でジョシュ・バーネットです。彼はいろいろな方法で強さを見せてくれました。現実に「夢」を混入させてくれた。そしてそれこそがリアルな強さの表現だった。
 彼は自身の中に自然に多様性を身につけた素晴らしい選手です。まあ、単なるオタクとも言えますけど(笑)。そんなところもまたカッコいいですね。こちらをご覧になれば彼がいかに「世界最強のオタク」であるか分かりますよ。
 しかし、皮肉なことですね。オープニングの煽りVにもありましたけど、対する「DREAM」を意識して、「まだ夢を見ているのか」みたいなことを言っている「戦極」が、こうして「夢」を継承してくれた。そう、そうした「夢」こそが「リアル」なんですよね。個人的に「夢を見る」のではなくて、「夢を現実にして見せる」ことこそが、プロとしての仕事だということです。
 私の「モノ・コト論」で言えば、私たちにとっての「物の怪」たちの仕業こそ、この世の本質を象徴してるってことですよ。そういう意味で、私は、プロレスラーであるジョシュや桜庭和志が総合の世界で頑張ってくれるのを純粋に応援したいんです。
 結局、長々と語り始めてしまいました。終わりそうにないんで、今日はこのくらいにしときますか。ジョシュのバックドロップはYouTubeの戦極ダイジェストでどうぞ。

 PS この前、アマレス関係の方と、そして教え子で総合をやっているヤツとも話したんですけど、やっぱりアマレス選手の就職先として、総合はあまりにハイリスク・ハイリターンなんだそうです。プロレス界を再興しないとアマレス界もジリ貧になってしまう。やっぱり60過ぎまでしっかり働ける場が大切ですよね。

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