『快楽なくして何が人生』 団鬼六 (幻冬舎新書)
読むべし。これは名著ですぞ。人生の課題図書。本当にものすごく勉強になりました。
これはもう聖典の領域です。何事も極めると悟りの境地に至るんですね。全編通して徒然草が引用されているんですけど、この本自体がもう現代の徒然草になってますよ。
兼好法師のみならず、あの高僧もあの高僧も、いや釈迦自身もある意味快楽を尽くした結果出家し、世の摂理を知るに至ったわけじゃないですか。私にはとうてい達することのできない境地ですね。
本当に読みながらウンウンとうなずくこと数百回。しまいには切なくて涙が出てきました。まさに「もののあはれ」…思い通りにならないことに対する嘆息ですよ。快楽の裏に切なさあり。
私は勉強不足でして、実は団鬼六先生の官能小説を一冊も読んでいないんです。なんでかと言われると難しいんですけど、そうですねえ、たぶんあの表紙とタイトルにひるんで、買う勇気がなかったんでしょう。
もうその時点で私には悟りの可能性はないとも言えますね。この本に書かれている驚愕の、そして抱腹の、しかし実に切ない団先生の快楽的人生に比べたら、いかに自分がスケールの小さいつまらぬ人間であり、また私の過ごしている時間というものがなんと希薄であることか。
この前の赤塚不二夫先生もある意味同様かもしれませんね。英雄色を好むと言えばそれまでだし、そう片づけることによって凡夫は一つの諦めを得るわけですけど、ちょっとそのあたりについては検討の余地がありそうです。
実はここのところ、私の周りでも数件、色を好む英雄とそこに関わる女性の話が続いていたんですね。そこに共通する要素というのもはっきりあったりして、では自分はどうかななどと考えたりもしていました。まあその結論はナイショとしまして(笑)、やはりこちらにも書いたとおり、創造的な仕事をする男の基本はそういう部分にあるんではないでしょうか。
こういうことはなかなか学校では教えられないことなんですけど、実は人生や世の中の基本であり、中心的な構造であり、ほとんどの人があからさまには表明しないがしかし本当は最も興味を持っていることなんですね。
今日はまた実に不思議なご縁があって、太宰治にゆかりのある方とお話をする機会に恵まれました。いろいろな意味であまりに幸運なことでびっくりしてしまったんですが、ちょうどこの本を読んだあとでしたし、場所も場所だったので、太宰の斜陽にあるこの一節を思い出してしまいました。
『この世の中に、戦争だの平和だの貿易だの組合だの政治だのがあるのは、なんのためだか、 このごろ私にもわかつて来ました。あなたは、ご存じないでせう。だから、いつまでも不幸なのですわ。それはね、教へてあげますわ、女がよい子を生むためです』
うん、この女の言葉に象徴されているように、実は女がこの世の中を堂々と回していて、我々男はそれに乗っかってちょこまかちょこまか動いているだけとも言えるなあ。団鬼六先生のこの自叙伝でも、そういう女の魔性的な部分と、男の狭小な嫉妬心と未練が繰りかえされていましたよ。
私のまわりの女性及び自分自身を観察してみましても、やっぱり女こそ「萌え=をかし」で生きていて、男の方が「もののあはれ」で生きているというのがわかりますね。男の坊さんが圧倒的に多いのもよくわかります。女は刹那的ですからねえ。あの変わり身の早さ、温度変化は、男には真似できません。女には悟りなんてどうでもいいんです。男はある意味悟りに逃げちゃうのかな。
それにしても、団先生の人生はすごいなあ。今も人工透析を拒否し続けてるんでしょうか。「鬼の快楽教」の設立は実現しないんでしょうか。相模湖のW荘には今も行っているんでしょうか。こんな方が中学校の教師をやっておられたとは…なんと素晴らしいことか。生徒に自習させつつ教室で官能小説を書く先生…私もやってみようかな(笑)。そんな本人の実態を知らない、同僚であるまじめな英語の先生を嫁にもらってるし。あっそこはウチも一緒か。
こういうスケールの大きな男が今絶滅しつつあるんじゃないですか?私思うんですよね。女はもともと生産力を持ってるんですよ。でも、女だけでは深化、進化はない。やっぱり彼女らの天性の強烈な生命力に太刀打ちできるくらいのパワーを持った男がたまに現れて、それでちょっとかき回してやらないと新しい世界は開けないんだと。天の沼矛でコオロコオロってやらんとね。
快楽を得る者は、その裏にある切なさに耐え得る者である…そんな気がしました。はたして自分は…これはまだ分かりません。ある意味只今検証中とも言えます。まだ諦めてない…かな?
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