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2008.03.25

『土方巽 絶後の身体』 稲田奈緒美 (NHK出版)

14081274 まさに絶後の力作!これはすさまじいデータベースであり、そして戦いの記録であります。
 先日「土方巽・生誕80年記念  HOMAGE TO HIJIKATA vol.1 舞踏・新研究フォーラム2008」の会場でお会いした稲田さん、こんな言い方は失礼とは思いますが、これほどのエネルギーをお持ちの方とはお見受けしませんでした。とても柔和な笑顔の女性で、私たち門外漢の不躾な話を優しく聞いて下さいました。
 この本を読み終えた今、私は稲田さんにもう一度お会いして心から敬意と謝意を表したい。本当に私の人生が変わってしまうほどの衝撃を与えてくれました。これは大げさでもなく冗談でもありません。
 誰もが陥る「土方を語る」という罠。これはいつも私が繰り返しているように、「モノ」を「コト」としてとらえる、すなわち、本来言語化できない「モノ」を「コトの葉」で「カタル」危険であります。今までも、多くの方々がそれに執着して、すなわち自ら土方を理解しようとして、深い迷宮にはまってしまいました。私は三島でさえそうだったと考えています。もちろん、私もこちらであるいはこちらで語らんとして恥をかいていますね。
 なぜ、人はそう語りたがるかと言いますと、結局「理解」「解釈」という安心を得たいのだと思います。不随意であり、言語化不能であり、未知であり、豊饒であり、無限である「モノ(物の怪)」に対する恐怖や畏怖がそうさせるのでしょう。
 稲田さんは、この600ページに及ぼうかという大作で、一つの戦いを挑み、そしてそれに勝利しているように感じます。今言ったような「土方巽」を「語る」ということ(「モノ」を「カタル」=「物語」)の危険性に対して、非常に冷静に一つの手段を徹底しているのです。それは、まず事実を事実として記述すること、まずは解釈抜きで「記す=著す=明らかにする」こと。そして、それぞれの事実について、最初に自ら「語る」のではなく、他者に語らせるということ。つまり、土方を取り巻く多くの天才たちが、土方という大天才にどう挑んでいるのか、あるいはどう対抗せんとしているのか、どう敗北しているのかを、これもまた事実として記しているわけです。
 もちろん、稲田さん自身の読解も控え目ながら記されています。それがまた秀逸であり、私も大いに刺激を受けたのですが、しかしやはり著者はあくまで謙虚です。あるいは自重している、あるいは巧妙に避けているとも言えます。これは私は闘い方として非常に正しいと思います。もし、もしも私がこういった無謀な戦いをせねばならない立場にあったら、やはり巧妙に(私の場合は狡猾にですか)逃げたでしょう。なぜなら、勝ち目がないからです。
 この本を通じて、私が再読した土方は、やはり「言葉」に対抗する存在でした。「言葉」を「西洋」や「都会」や「文明」や「社会」や「科学」や「論理」や「人間の営み」そのものに置き換えてもいいのでしょうが、それではあまりにも行儀の良い、それこそ今挙げたそれらの枠組みの中での思考に陥ってしまいます。だから、今回は、今私の頭が書きたがっていることはあえて書きません。無様な惨敗が確実だからです。ただ、ただ、感じて、その次に続けたいと思うだけにしておきます。
 次に…そうです。ちょうどいいタイミングですね。明日から秋田に行きます。「鎌鼬の里」を訪れます。そこでまた何を感じるのか。そして語りたくなるのか。語るのか。あるいはまた語れないのか。非常に楽しみです。
 それにしてもこの本はすごい。もちろんそこに息づく「土方巽」という「絶後の身体」…それは、私はこの国最後の「モノ」なのかもしれないと思うのですが…の得も言われぬエネルギーのおかげではありますが、しかしまた、それを見事な手法と見事な決意とで書籍の中に充填した稲田奈緒美さんの「思い」のおかげであることも忘れてはならないでしょう。
 最後に一言。土方はまるでもう一つの宇宙のように、我々の住む社会、我々の知る風景と戦い続けました。孤高の戦いです。私たちが彼を恐怖し、しかしどこかで共感するのは、彼をこの世の敵であると見なす自分と、しかし一方でこの世を救うメシアだと感じる自分を内在しているからです。だから、私たちは彼と戦い、そして彼とともに戦い続けなければならないのでしょう。少なくとも、今こういう形で彼に再会してしまった私は、そうして行くつもりです。

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