井伏鱒二からの年賀状
最近、何が起きても驚かないんですよ。あまりにいろいろな、思いもよらないことがどんどん起きるので。しかし、今日はさすがにびっくりしましたし興奮しました。いや、タイミングもよすぎですし。
ちょうど昨日、吉井和哉さんと太宰治を重ねて語っちゃったじゃないですか。そこにも登場した「富嶽百景」。太宰はそこに逗留していた師と仰ぐ井伏鱒二を頼って、御坂峠の天下茶屋にやってきたのでした。ですから、当地と太宰の縁は井伏が作ったようなものです。その井伏が天下茶屋の主人にあてた年賀状を、今手にしています。なんということでしょう。
今、ちょうどあるクラスで太宰をやってるんですね。そうしたら、そのクラスの女の子が「ウチに井伏鱒二から来た年賀状があるよ」と言い出したのです。「はぁ?!」ということで、よく聞いてみますと、なんと彼女、「富嶽百景」に出てくる「おかみさん」のひ孫だと言うじゃないですか!そうです。一昨年不慮の事故で亡くなった外川ヤエ子さんが、ひいおばあさんなんだそうです。驚きました。
いや、実は少し前に、「富嶽百景」に出てくる茶屋の娘さんの孫もウチの学校にいました。また、ヤエ子さんの孫にあたる方も、私は直接知りませんがウチの卒業生だということです。
地元におりますと、まあこういうことがいろいろあるわけですね。非常に有難いことです。昨日の吉井さんや、レミオロメンやフジファブリックもそうですが、もともと好きだった方々となんなとく空間的に近く接することができるというのは、これはもうファンとしては最高の喜びですね。あらゆる表現者にとって、風土とその土地の人との縁というのは、非常に重要なファクターですから。それをこうして少しでも共有できるというのは、本当に有難いことです。
で、彼女、今日3枚の年賀状とお手製の家系図を持ってきてくれました。年賀状はひいおじいさん(天下茶屋初代店主外川政雄さん)の遺品を整理した際にお父さんがもらってきたものとのこと。昭和63年、64年、そして平成4年のものです。上の写真は平成4年のもの。「御自愛専一に願い上げます」と一筆添えられています。うむ、宛名書きもそうですが、いかにも井伏という字で、ちょっとカッコいいというか、カワイイですね。面白いのは、それぞれの宛名書きです。いかにも井伏らしい、ある意味いいかげんな、いやあまり細かいことを気にしない大物ぶりを発揮しています。
昭和63年のものは「山梨県河口湖町河口○○」と、「南都留郡」は省略されているものの、しっかり番地まで書いてありますが、昭和64年のものは「山梨県川口町河口湖」という、とんでもない存在しない住所になってます(笑)。で、平成4年のものは「山梨県河口湖町河口」と、少し反省してか、やや正しい(?)ものに戻っていました。
単純には言えませんけど、こういうのを見ますと、ピカレスクでも触れられていた井伏の人柄、太宰に最期「井伏さんはずるい」と言わしめた井伏のキャラクターというのが、なんとなく分かるようなしてきます。私はそんな井伏が好きなんですよね。太宰も人のこと言えないでしょう、ねえ。
ちなみに彼女が書いてくれた家系図(親戚の皆さんで作ってくれたようです)によると、私が7年ほど前にその天下茶屋で太宰の霊にいたずらされ(?)こっぴどく怒られた、その時の怒り主は、初代店主の息子さんだということです。ははは。今となってはそれこそ有難い思い出ですなあ。
今度彼女を介して、その方とも和解したいと思っています。それこそ7年ほど天下茶屋に行ってませんので。てか、行けませんでしたので。
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コメント
井伏鱒二といえば、私の住む街ではそちらでいうジャンボ鶴田や富士桜のような存在。私の家の近くにも「ここで井伏と太宰が釣りをした」というような場所があります。いまでも、彼の存在が私の街の性格を象徴するといってもいいくらいです。
投稿: AH | 2008.03.01 08:46
AHさん、こんばんは。
なるほど〜、井伏さんの街ですね。
○○が○○した場所とかって、やっぱり何か感じますよね。
私、そういう聖地巡礼みたいなのけっこう好きです。
まあ、本人たちは何も考えてなかったわけですけどね。
音楽でも、憧れの人が上がったステージで演奏できたりするとうれしいですよね。
自分もいずれそう言われるように…なるわけないか(笑)。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.03.01 21:40