『漫画に愛を叫んだ男たち』 長谷邦夫 (清流出版)
昨日の続き。「トキワ荘の青春」を観てからこの本を読むと、また感慨もひとしおです。
この本は友人に借りて一度読んでいたんですが、もう一度読んでみたら、今度はかなり泣けました。前回はなんとなく(一級)資料として読んだっていう感じだったんですね。いや、資料としてもこれはすごいですよ。
長谷さんは、いわゆるトキワ荘通い組で、住人というわけではありません。しかし、赤塚不二夫のプレーンとして、ゴーストライターとして、それ以前に無二の親友としてほとんど半生をともにしていた人ですからね、客観的かつ濃〜く彼らを描写しています。
感心するのは、とにかくものすごい記憶量だということです。脚色の部分がどの程度あるかわかりませんが、私なんて10年前のことでもこんなによく覚えてないっす。あと、赤塚不二夫以外にもものすごい人脈をお持ちだということ。漫画界のみならず、SF界、映画界、ジャズ界などなど、なんか昭和を象徴するすさまじい面々と行動を共にしています。出てくる名前だけでもウォ〜っていう感じですよ(特にタモリ登場のくだりは圧巻)。まあ、当時は才能が才能を呼び、ジャンルを越えて一つのエネルギーの塊が出来ていたようですけどね。
そういう強烈な昭和へのノスタルジーというのも感じます。自分の少年時代と重ねての感慨というのもあります。でもなあ、やっぱり、寺田ヒロオの切なさかなあ。
この本によれば、寺田ヒロオは「トキワ荘の青春」に描かれた通り、優しく面倒見のよい人だったようです。新漫画党の党首だったというだけでなく、いろいろな意味で多くの天才たちの拠り所になっていたんですね。彼が彼らを支えた、生かした、導いたと言えるかもしれない。彼が手塚治虫以降の漫画文化を生んだ、いや育てたという感じすらする。孤独な天才たちの親代わりみたいにね。たぶん兄貴以上の役割でしょう。
そんな彼は、トキワ荘を出たのち、華やかに活躍を続ける子どもたちと微妙に距離を取ります。そして、漫画界、いやマンガ界に違和感を感じながらコツコツと地味な仕事を続けます。昨日も書きましたが、トキワ荘解体に際しての同荘会にも彼だけは参加しませんでした。そこに集まった、立派に成長した天才たちが、のちに寺さんの死を知った時の衝撃はどれほどのものだったでしょう。酒浸りの末の衰弱死…。
そんな寺田ヒロオの生と死が、長谷さんの気持ちを動かしたのかもしれませんね。ある意味この本を書くきっかけになったとも言える。長谷さんは、寺田ヒロオと同様に酒に依存する赤塚の姿を見て、彼との別れを決意します。
この本には赤塚不二夫の意外な一面が描かれています。それを書くための本とも言えるかもしれません。豪放磊落で楽天的で行動的で社交的だと思われがちな赤塚に潜む弱さと孤独…。もうそれだけでも切ないですよ。挫折、成功、栄光、凋落、逃避、友情、裏切り、家庭、芸術…天才たちほど、自らの人生に翻弄されるものです。自らの天才性に照射される自らの欠落部分。まさに「天才バカボン」ですね。自己矛盾こそ最も残酷な刃(やいば)となります。
私は漫画やマンガ、そして今どきのコミックにははなはだ疎い人間なので、あんまり偉そうことは言えませんけど、それでもなあ、やっぱり人間の、特に表現する人間の、大衆に愛される人間の切なさは感じますよ。まさに、予想外・不随意に対する詠嘆・嘆息…「もののあはれ」だなあ。究極の「もののあはれ」はですねえ、こうした自分に対する「もののあはれ」なんですよね。だって、自分こそが(プラス方向にもマイナス方向にも)不随意な存在(「もの」)であると気づかされるわけですから。
酒ってそういう「もののあはれ」を一瞬忘れさせてくれる魔法の薬みたいなものなんですね。あくまで一瞬ですが。と言いつつ今呑んでいます。今日は自分のと言うより、寺田ヒロオの「もののあはれ」に乾杯かなあ…なんか切ない酒です。
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コメント
大変なご無沙汰です。覚えていますでしょうか?ジョンレノン瓜二つなDVDを送ったもりやまです。いつもブログ楽しくみさせてもらっています。今回はまんが道。格闘技が好きだったりと何かと私と興味があるのが似ていると勝手に思っています(笑い)。さて、本題に。まんが道、すばらしいですよねぇ。私はまんがを全巻もっており時々読み返しています。なにか惹かれる物があるんですよ、あのまんが道には。NHKのドキュメントも最近再放送されて見ましたが映画は見たことが無いので探して見ます。「愛しりそめし・・・」ってまんが道のその後が発刊されているんですよ。これもお薦めです。
投稿: もりやま | 2008.02.17 22:06
もりやまさん、おひさしぶりです。お元気ですか。
まんが道、私も小学校時代、少年キングで読んでいたのを思い出します。
この映画とこの本は「裏まんが道」とも言われているものでして、だいぶトーンは違いますけど、これはこれで素晴らしいですよ。
「愛しりそめし…」は今連載されてるんですよね。
私はまだ読んだことがないので、探してみます。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.02.18 06:36