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2008.02.15

『トキワ荘の青春』 市川準監督作品

Akatuka0027 いい映画でした。しみじみ。あったかくも切ない。久々に静かに「日本映画」を鑑賞。
 昨年の9月、本当に偶然ですね、たまたま車を停めた町を散歩していてある路地を曲がったら「トキワ荘跡」に出くわしました。トキワ荘がどこにあったかなんて全く頭の中にありませんでしたから、それはビックリしましたよ。その時、この映画の録画がウチにあるな、帰ったら観よう、と思ったんですが、なかなかこういう静かな映画を観れるチャンスがない。子どもがギャーとか言ってる中ではなかなか…。
 そこでマイナス15℃にもなろうかという早朝4時に起きて観るしかありません。これならさすがに静かですね。
 う〜ん、いいなあ。この空気感いいなあ。特にストーリーがあるわけではない。いろいろな日常をつないでいるだけとも言える。それがある意味ではドキュメンタリー風でもあって、こちらの気持ちがそこの時代、場にすぅっと入っていく。
 皆さん淡々と演技していて、セリフも聞き取りにくいくらいボソボソしています。しかし、それがまたリアル感を増す要因になっている。市川準作品はそういう傾向がありますけど、それはある意味「言葉」に頼らない表現ということでしょう。実際、私たちの生活や記憶の、その「時」と「場」には、発せられた「言葉」というのは少ないものです。
Tanjo05 この映画はいわゆる「トキワ荘伝説」の数々とは違った視点による作品です。トキワ荘伝説のそうそうたるメンバーの中でも、決して主役とは言えなかった寺田ヒロオが、この映画では主役になっているのです。たしか、トキワ荘が取り壊される時でしたか、NHKの番組か何かで当時のメンバーが現地に集まった時にも、彼は参加しなかったんですよね。そういう複雑な気持ちがこの映画には満ちています。
 現実でも他の主役級のメンバーは皆「寺さん」をほめています。年長であり、面倒見がよく、優しく、正直で、漫画にもまっすぐな寺さんを、みんな尊敬していた。しかし、他の後輩たちが時流に乗って売れ出したのに、寺田はいつまでも古典的な少年漫画にこだわり、なかなか売れません。そして、彼はトキワ荘を出ます。
 「青春」という言葉に潜む残酷さといいますかね。切なさといいますかね。夢に満ち、同じ志に満ちた友情が微妙な形で崩れて行く。そこにはかない恋心やはかない命もかかわり、そして別れへ。
 これはある意味ではステロタイプの青春像なのかもしれません。形やレベルは違っても、私たち大人の全てが通ってきた道かもしれませんね。そういう共感も含めて、実にやるせない映画でした。
 この名作が、今DVDにもならず、ほとんど観ることが叶わなくなっているというのは実に残念なことですね。私の記憶では、赤塚不二夫を筆頭にトキワ荘メンバーからの評判も良かった(たぶん)。少なくとも銀河テレビ小説「まんが道」よりは味わい深いと思うんですが…。
 キャスティング的に、今だからこそ面白いのは、生瀬勝久や阿部サダヲの若かりし頃ですかね。あと原一男監督が編集者役で出ています。
 以下にスタッフ・キャストのデータを転載しておきます。

監督 市川準 (1996年)
脚本 市川準 鈴木秀幸 森川孝治
原案協力 『トキワ荘の時代』梶井純、『まんが道』藤子不二雄A、 『トキワ荘青春日記』藤子不二雄A、『まんがのカンヅメ』丸山昭、『トキワ荘の青春物語』手塚治虫他、『トキワ荘の青春』石ノ森章太郎

配役    
寺田ヒオロ  本木雅弘
安孫子素雄  鈴木卓爾
藤本弘     阿部サダヲ
石森章太郎  さとうこうじ
赤塚不二夫  大森嘉之
森安直哉  古田新太
鈴木伸一  生瀬勝久
角田次郎  翁華栄
水野英子  松梨智子
手塚治虫  北村想
石森の姉  安部聡子
つげ義春  土屋良太
棚下照生  柳ユーレイ
編集者・丸山  きたろう
藤本の母   桃井かおり
寺田の兄  時任三郎
学童社編集長・加藤  原一男
学童社編集者・本多  向井潤一
学童社事務員  広岡由里子
娼婦  内田春菊

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