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2008.01.15

PIANO SOLO やさしく弾ける『松田聖子 ピアノソロアルバム』 (ケイ・エム・ピー)

Sms222 昨年は初ライヴ(生神…なまがみ)体験もありました。また自らのライヴでも何度も演奏しましたね、松田聖子。いろんな意味で彼女の神っぷりを再確認させられました。
 もちろん、そういう彼女自身のすごさというのは、ワタクシなどには到底語り尽くせない(って結構語ってますけどね)わけですが、やはり忘れてはいけないのは、彼女に提供された楽曲のクオリティーの高さでしょう。
 そのへんに関しましても、今までいろいろな記事の中で語ってきましたからあえて繰りかえしませんが、一言結論として申しておけば、あのそうそうたる作曲家陣(男も女も)みんな聖子ちゃんに恋しちゃったわけですよ。だから彼ら自身の作品の中でも特に優れたものが生まれて彼女に贈られた。これは恋です。そして、それぞれの天才作曲家たちはお互いが恋のライバルだったわけですよ。そりゃあ「神」曲が生まれるはずです。もし、もしですよ、私が作曲家で彼女に曲を提供することになったら、おそらく歴史に残るとんでもない曲を作ってしまったことでしょう(笑)。
 で、そんな彼らの恋心の発露、すなわち恋の歌(雄叫び…もしくは雌叫び)はどんなふうに奇跡的なのかを知るためには、それらを音楽的に分析するのが一番よい。そして、私たちみたいに実際に演奏してしまうのが一番よい。よい、というか一番ショッキングですよ。ガツーンとやられます。
 ところが聖子ちゃんの楽譜というのはあんまり出版されてないんですよね。まとまったものとしては、このkmpのピアノソロ譜しかないんじゃないでしょうか。まあこの楽譜集には往年の名曲から最新のアルバム曲まで47曲も収録されていますからね、研究したり楽しんだりするには充分でしょう。
 私も昨年末に買ってみましたが、とにかく1ページ1ページすごいことすごいこと。感動しますし、とっても勉強になります。初心者用に移調してあったり、コードもずいぶんと簡略化されていたり、ポイントになるバックアレンジが割愛されていたりしますが、まあそれはそれで自分で補えばいいわけですし、ある意味シンプルな骨組みだけにされていることによって、よりそれぞれの個性が浮き彫りになっているとも言えます。
 それぞれの曲についていろいろと書きたいこともありますが、紙面が許さないのでここでも一言結論だけ。「意外にシンプル」。
 コード進行なんか本当に基本通りなんですね。たまにおやっ?ていうくらい。もちろん、アイドルの楽曲であるとか、イメージ的に(あるいは中森明菜との対比において)長調の曲に限られるといった制約があるため、比較的明瞭な作りにならざるをえないのは理解できます。しかし、その中でそれぞれがここまで深みのある、繰り返しの「消費」に耐え得る作品になっているのは、これはもうメロディーの生命力によるとしか言いようがありません。
 やっぱり、音楽は旋律ですね、最後は…いや最初から。シンプルなコードの上にどれだけ魅力的な旋律を乗せるか。これは実は一番難しいことであって、だからこそあの作家陣が必要だったわけですね。
Mie12 今、ウチの新参猫が発情期を迎えておりまして、一日中スバラシイ歌声を聞かせてくれています。彼女は楽器を弾きませんし、専属のバンドもおりません。ただただ自らの声で(猫にとっては)魅力的なな旋律を奏でるしかないんですね。歌の本質はそこにあるわけです。
 あとですねえ、痛感したのは松本隆の歌詞のすごさですね。阿久悠さんがうつろう時代性、すなわち「もののあはれ」を表現したとすれば、松本さんは時代性を超越したうつろわないイメージを表現していますね。阿久悠さんの「モノ」に対して、松本隆さんは「コト」というわけです。そこが永劫不変な松田聖子という神…「ミコト」を演出しているんですね。そして、その「コトの葉」に刺激された作曲家陣も、時代を超え古びないメロディーを生み出していったと。すごいなあ。まいった。
 では、最後にこのすさまじい収録曲をご覧下さい。これは宝でしょう。宝物館でしょう。四十七士、いや、八百万の神々が集結した出雲大社でしょう(笑)。ありがたく拝読いたしましょう。

【収録曲】秘密の花園/赤いスイートピー/青い珊瑚礁/小麦色のマーメイド/渚のバルコニー/瞳はダイアモンド/野ばらのエチュード/ハートのイアリング/時間の国のアリス /ピンクのモーツァルト/風立ちぬ/白いパラソル/風は秋色/裸足の季節/夏の扉/天国のキッス/天使のウインク/SWEET MEMORIES/ガラスの林檎/Rockn' Rouge/ボーイの季節/Photograph of Yesterday's~蒼いフォトグラフ/瑠璃色の地球/雛菊の地平線/Strawberry Time/制服/抱いて/旅立ちはフリージア/大切なあなた/時間旅行/輝いた季節へ旅立とう/きっと、また逢える…/あなたに逢いたくて~Missing You~/私だけの天使~Angel~/哀しみのボート/Unseasonable Shore/櫻の園/あなたしか見えない(Album Version)/逢いたい/素敵な明日/永遠さえ感じた夜/ウェディングロード/bless you/I'll fall in love/しあわせな気持ち/涙がただこぼれるだけ/蒼い雨/以上全47曲。

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コメント

Ars Imitatur Naturam ということで、鳥の鳴き声に学ぶものがあると思っていましたが、なるほど猫の「歌声」からも学べるのですね。

投稿: 龍川順 | 2008.01.17 10:10

龍川さん、どうも。
Ars Imitatur Naturam…ワタクシ流に言いますと、「コト」は「モノ」の「マネ」である…かな(笑)
つまり、「コト」は「モノ」に学ぶ、ということです。
しかし、あの猫の魂の叫びはなあ…不眠になりました。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.01.17 18:07

ご無沙汰しております。昨年のコンサートではお世話になりました。今年もご案内が行っていると思いますが、是非!
お待ちしております。

百度の検索をいろいろ試していて「東京クラシカルシンガーズ」でたどり着きました。
ちなみ検索結果は、OPTがトップで、本家は全く出てきません!?
モーツァルト・アカデミー・トウキョウは、しっかりトップに本家が出てきましたが。

で、本題。
KMPは、昔は協楽社と言ってましたが(倒産、再建で社名が変わった)学生時代、バイトで譜面書きをしていました。お買い求めになった楽譜ですが、当時書いたやつ、まだ使ってると思います。
「赤いスイートピー」「小麦色のマーメイド」「ガラスの林檎」等々、確かに書いた記憶があります。
ちなみに原稿は買い取りですので、印税はありません。

この手の「やさしく弾ける」シリーズですが、そのころの編集者から「出来るだけ易しい譜面を書いてくれ」との指示を、当時、古楽器科の学生だった私が、通奏低音と旋律みたいに配置して後は弾きやすい音があったら加える、という要領でアレンジしたものです。
「こんなんでいいんだろか…?」と思って提出したんですが、そのシリーズが売れちゃったんですね。「このパターンでお願いします!」と。
日経流通新聞に取り上げられたり、他社が追従したり、今に至るわけですが、その元にはバロック音楽があった、というわけです。

投稿: 坂本 徹 | 2008.01.25 00:36

坂本さん、どうもです!
うわぁ、こんなところでこんな形でお会いするとは(笑)。
昨年は本当にお世話になりました。
ものすごく貴重な体験になりました。
今年もワタクシ好みのプログラムですので、ぜひともと思っています。
よろしくお願いいたします。

それにしても、ビックリしました〜。
いやあ、この前も古楽関係の人と話してたんですよ。
この聖子ちゃんの楽譜、コレルリのソナタみたいだねって。
そしたらホントにコレルリのソナタだったんですね!(笑)

この前、ジャズ・ピアニストの人と一緒にこの楽譜であそびました。
テンションを足したり、メロディーを装飾したり…。
それって、考えてみればバロックそのものですね。

骨組みにする作業、けっこう勉強になりそうですね。
コードネームを書くんじゃなくて、数字を書きたくなったりしませんでしたか?w

いやはや、それにしてもご縁とは面白いものです。
私たち、古楽関係者を中心に歌謡曲バンドをやってます。
この楽譜もこれからたくさん活用されると思いますよ。
なんだか不思議な構図ですねえ。
というわけで、本当にお世話になります。
これからもよろしくお願いします!

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.01.25 07:57

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