『イチロー・トークスペシャル』(NHK プロフェッショナル仕事の流儀)
受け入れることと受け入れないこと。今日のイチローのトークは面白かったなあ。
私にとってはアイドルであり、神であり、物の怪であり、師匠であり、いや唯一無二のエンターテイナー・イチローである彼。彼の言葉は不快なほどに私を刺激しました。すごいなあ。
不快なほどに、と書きましたが、おそらくお相手した茂木健一郎さんもちょっとカチンと来たんじゃないでしょうか(住吉美紀アナはキャーキャー言ってただけ…笑)。だって、いきなり「茂木さん…本気で笑ってないですよね」ですから。年上の学者さん(タレントさん?)をつかまえていきなりこれですからねえ。いくらイチローと言えども失礼でしょう(笑)。いや、茂木さんがやられるのってあんまり見れないんで、こちらとしては楽しかったんですけどね。やれやれ〜みたいな感じで。
彼はとにかく自分流にこだわっています。自分の感覚を信じきっています。人のアドバイスをはなから拒否するわけではないと、自ら言い訳していましたが、本当のところはやっぱり自分の感覚のみを信じています。
その自分の感覚を信じるということの二面性を、私ははっきりそこに読み取りましたね。
どういうことか、またまた私の「モノ・コト論」で説明しましょう。
彼の言う感覚というのは、例えばバットという道具(物)から伝わってくる感覚です。すなわち自己の外部たる「モノ」ですね。それらから何ものかを受信して、イチローの脳の中で起きた何ものか、それが「感覚」です(クオリアなのかはよくわかりません)。これはワタクシ的に言うと、「モノ」と「コト」の中間に位置する状態です。何かあるんだけれど、言葉や理屈では説明できない。しかし、何モノかがあるコトだけは確かだ、という状態です。
で、突然茂木さんの方に行っちゃいますが、彼は彼の感覚をすぐに「言葉」にしてしまうんですね。これは実は私もそうなんでよくわかるんですよ(もちろんレベルは違いすぎますが…)。すぐに理屈をこねてしまう。言葉にするコト、言葉にできるコトに快感を覚えてしまう。これはまさに私の言う「コト化」です。情報化。内部化。不変化。人間のサガです。
イチローはそれを言葉にするんじゃないんですよね。いや、今日も言葉でたくさん語ってましたが、もういつもそうなんですけど、彼の言葉はほとんど「無門関」なみです。正直意味のあるようなないような。なんとなくケムに巻かれているような。実は答えがないような。まさに禅問答の本質に近いところがあるんです。お前らどうせ分からないだろ、そこから出発しろ、みたいな。
だから、彼は、たとえば茂木さんの言葉にいつも同意しないんです。同意する時は、「はい、そうです」とは絶対言わないで、「そんなの当たり前じゃないですか!」とか言ってしまう。否定したり、微妙に外したりするのはもちろん、同意する時でも、常に上に立とうとしている(実際上なんでしょうが)。これはまさに老師の恫喝にも似ていますね。一つの正解を出した途端、「そんなのは当たり前だ!もう一度坐り直して来い!」って言い出すんですよ(笑)。
さっき書いた通り、茂木さんは「コト化」が大好きな方です。で、イチローはそういう他人の脳に発生した「コト」は基本信じないし受け入れない人なんですね。一方、バットやボールが教えてくれる何ものかは信じて受け入れるわけです。つまり、「コト」は受け入れないが「モノ」は受け入れるということですよ。そういう意味では、まさに彼は職人に近いですね。モノによって成長させられていく。モノの中に自らの到達点を見る。自分の中じゃないんです。
今日は感心するとともに、ちょっと不快になりました。というのは、イチローはああいう神ですから全然いいんですけどね、最近の若者の傾向として、「はい、そうですね」と言えない人が多いものですから、私も日常において茂木さんが体験した不快感を得ることがたびたびなんですよ。「っていうか…」という返しが多すぎる。イチローレベルなら許せますけど、一般人は一般人らしくもっと謙虚になりましょうよ。「っていうか…」の後の内容が貧弱すぎるんで。なんてね。つい日頃思ってることを言っちゃった(笑)。っていうか、自分もそうじゃん。
さて、私、正月二日のスペシャルを不覚にも見逃してしまったんですが、来月再放送するということで少し安心しました。楽しみです。トークスペシャルを先に観たのは正解だったかもしれませんね。
| 固定リンク
「スポーツ」カテゴリの記事
- 全日本プロレス祭 アリーナ立川立飛大会(2024.08.17)
- オリンピックは◯◯の◯◯である!?(2024.08.07)
- 柔道混合団体銀メダル(2024.08.03)
- 祝! 舟久保遥香 銅メダル(2024.07.29)
- 静岡高校 vs 池田高校(昭和57年夏甲子園)(2024.07.22)
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- いかりや長介と立川談志の対話(2024.08.19)
- 九州人による爆笑九州談義(筑紫哲也、タモリ、武田鉄矢)(2024.08.18)
- 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』 武内英樹 監督作品(2024.08.16)
- 『大鹿村騒動記』 阪本順治 監督作品(2024.08.11)
- 凪良ゆう 『流浪の月』(Audible)(2024.06.25)
「心と体」カテゴリの記事
- 【戸塚宏】令和の今、体罰を語る(2024.08.20)
- 全日本プロレス祭 アリーナ立川立飛大会(2024.08.17)
- 模擬原爆パンプキン(2024.08.09)
- オリンピックは◯◯の◯◯である!?(2024.08.07)
- 柔道混合団体銀メダル(2024.08.03)
「モノ・コト論」カテゴリの記事
- ハイデガーVS道元…哲学と仏教の交差するところに、はじめて立ち現れてきた「真理」とは?(2024.06.03)
- 文字を持たない選択をした縄文人(2024.02.14)
- スコット・ロスのレッスン(2024.01.12)
- AIは「愛」か(2024.01.11)
- Re:Hackshun【目せまゆき&成田山幽輔】安倍さんは、あの解散をどう考える?(チョコレートプラネット チャンネル)(2023.11.21)
コメント
感覚や意識が脳においてどのように機能するのか知りたくて、茂木健一郎の本を何冊か読んでみましたが、今のところずばりそれについて書かれたものに行き当たりません。学術論文とかでは、そのようなことを発表しているのかもしれませんが。
マイケル・S・ガザニガとジャン・ドラクールという人がそれぞれニューロバイオロジーの本をだしているようなのでそっちのほうを読もうと思います。「クオリア」についてもそっちのほうがよくわかるような気がします。
投稿: 龍川順 | 2008.01.24 20:13
龍川さん、おはようございます。
私も茂木さんの本、けっこう読んでますが、
まあ一般向けのものはみんなああいう感じですね。
きっと論文もちゃんと書いてるんでしょう。
ニューロバイオロジー…難しいそうですが面白そうですねえ。
「クオリア」については、それ自身クオリアって感じで…笑
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.01.25 07:45