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2008.01.28

矢野沙織 『Little Tiny』

5125bs65rl_aa240_ 遅ればせながら聴いてみました。ずいぶん変ったなあ、というのが最初の印象。
 ジャズにおいて「若さ」というのが何を意味するのか、これはなかなか難しい問題です。日々、自分の学校のジャズバンド部の音や、その音を奏でる「若者」に触れている私は、その魅力というのがあるということは確実に言えるのですが、それがジャズの本質とどう関わるのかというのはなかなか分かりません。
 ジャズは老練な世界であるという印象があり、そこにその対極にあるような人や音が登場すると、大変に新鮮に感じられる、というのもあるかもしれません。なんというか、未来のジャズ・プレイヤーとして見るというか、何が足りないのかという観点で聴くというのではなく、私たちが「子ども」に対してそうであるように、理屈抜きに今「カワイイ」と思っているのかもしれません。
 まあ、これはジャズに限ったことではなく、いろいろな世界であり得ることです。そして、決して悪いことではないと思います。とにかく、日々の彼ら彼女らを見ていると、なんとも大人の「ジャズ」的な生活からはかけ離れてますし、知識やこだわりもいわゆる「ジャズ・ミュージシャン」らしくありません。しかし、たしかにそこに「楽しさ」があるのは事実であって、もしかすると、いわゆる老練な大人たちは、経験やら知識やら学術やら思い込みやらで武装してしまった自らのジャズ観をいとも簡単に崩し溶解してくれる若者の音に、ジャズの根っこの根っこを聴いているのかもしれませんね。
 しかし、これがですねえ、プロを目指す若者となるとちょっと難しくなります。あるいはもうプロである若者。
 矢野沙織はまさにもうとっくにプロである若者です。21歳になったのかな。21歳でもう7枚もアルバムを出しています。彼女の場合は、もう最初の頃からチャーリー・パーカー節を聴かせてくれたりして、まあ、単なる「カワイイ」ではなかった。10代の頃から大人なプロ顔負けの世界を作り上げていました。だからこそ、厳しい評価も受けました。「カワイイ」ではなく「ムカツク」対象にすらなっていたようです。野暮な大人がいるもんですねえ(笑)。ま、期待もこめての痛言だったのだとは思いますけど。
 しかし、彼女は強かった。まだ子どもだったのにねえ、そういう大人な試練をしっかり受け止めてですねえ、そしてちゃんと成長しました。そのあたりのプロセスというか、その強さを支える彼女の性根のようなものは、こちらの番組ではっきり分かりましたね、私は。
 結局は野暮じゃない立派な大人に出会った、いい師匠に出会ったってことでしょうね。ジェームズ・ムーディー。きっと彼に音楽だけでなく、人生といいますか、音楽とジャズと何十年もかけてどうつきあっていけばいいか教わってるんでしょうね。ムーディーの存在自体が身をもって教えてくれそうですね。
 というわけで、このアルバムは今までと大きく印象が変わっています。正直、彼女のアルバムというより、ロニー・スミス・トリオwith矢野沙織という感じで聴けます。つまり、単なるテクニックや音色だけでなくて、アンサンブルできているということですよ。意識がかなり高い次元にあるんでしょう。
 大御所の演奏という感じではありませんけれど、ベテランの伴奏に乗って落ち着いて吹いていますね。ある意味では、吹き飛ばすような若さは感じられなくなったのかもしれません。しかし、そこに物足りなさは微塵も感じませんでした。充実感ていうのかな、安心して全体像を聴いたなという実感。
 そして!しかし!最後のトラックは…。そう、あの美空ひばりとの共演ですよ。私も絶賛したジャズ&スタンダードに収録されている10代のAトレインですね。いやあ、うまい具合にミックスしましたね。けっこう自然な仕上がりじゃないですか。きっと痛いことになるんだろうなと思って恐る恐る聴いたら、案外よかった。
 で、やっぱり美空ひばりはなあ…天才ですわ。矢野沙織も天才の部類に入ると思いますけどね、ああやって絡むと,天才における「格」の違いを感じちゃいますね。なんだろ。やっぱりあのリズム感ね。スウィング感とかじゃなくて、リズム感。なんかなあ、矢野沙織のリズムが甘く聞こえてしまうのは、なぜ?w…もう、少女ひばりは全然「カワイクナイ」けど「ムカツカナイ」…天才少女という言葉はひばりのためだけにあるのかもしれません。ふぅ。
 よくこんな恐ろしいことに挑戦しましたね。原信夫を消して自分の音を入れちゃったってことですな。それだけでも恐れ多いっす。そんな無謀な挑戦を聴くだけでもこのアルバムは価値ありかもです。

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