今日は長くてつまらないネタです。すみません。興味のない方にはどうでもいいことです。でも、実は大変な発見だったりして(笑)。
今、新春合宿の真最中です。生徒たちは一日中黙々と勉強しております。偉いなあ。で、刺激を受けて私「も」久々にじっくりお勉強…ということで、今「も」という助詞を使いました。今日はこの「も」という助詞に関して、私の考えを発表しておきます。ま、考えというほどのものじゃありませんが。思いつきということで。
普通この「も」という言葉、係助詞や接続助詞、終助詞に分類され、次のように説明されます。手もと(パソコン上)に大辞泉しかないので、そこからコピペ。
も〘係助〙種々の語に付く。
1 ある事柄を挙げ、同様の事柄が他にある意を表す。…もまた。「国語―好きだ」「ぼく―知らない」
「み吉野の山のあらしの寒けくにはたや今夜(こよひ)―我(あ)がひとり寝む」〈万•七四〉
2 同類の事柄を並列•列挙する意を表す。「木―草―枯れる」「右―左―わからない」
「銀(しろかね)―金(くがね)―玉―何せむに優(まさ)れる宝子にしかめやも」〈万•八〇三〉
3 全面的であることを表す。
㋐ 不定称の指示語に付き、全面的否定、または全面的肯定を表す。「疑わしいことは何―ない」「どこ―いっぱいだ」「だれ―が知っている」
「何―何―、小さきものは皆うつくし」〈枕•一五一〉
㋑ 動詞の連用形や動作性名詞に付き、打消しの語と呼応して、強い否定の意を表す。「思い―よらぬ話」「返事―しない」
4 おおよその程度を表す。…ぐらい。…ほど。「一週間―あればできる」「今なら一万円―しようかね」
5 驚き•感動の意を表す。「この本、三千円―するんだって」
「限りなく遠く―来にけるかなとわびあへるに」〈伊勢•九〉
6 ある事柄を示し、その中のある一部分に限定する意を表す。…といっても。…のうちの。「中世―鎌倉のころ」「東京―西のはずれ」→もこそ →もぞ →もや
も〘接助〙
形容詞•形容詞型活用語の連用形、動詞•動詞型活用語の連体形に付く。逆接の意を表す。…とも。…ても。…けれども。「見たく―見られない」「努力する―報われなかった」
「いつしかと涼しき程待ち出(い)でたる―、なほ、はればれしからぬは、見苦しきわざかな」〈源•宿木〉
「身一つ、からうじて逃るる―、資財を取り出(い)づるに及ばず」〈方丈記〉
も〘終助〙
文末で、活用語の終止形、助詞、接尾語「く」に付く。感動•詠嘆を表す。…ことよ。…なあ。→かも →ぞも →はも →やも
「春の野に霞たなびきうら悲しこの夕影にうぐひす鳴く―」〈万•四二九〇〉
まあこんなものでしょう。どの辞書もこんな感じで説明してあると思います。で、今日ふと思ったんですよ。なんだかいろいろと分類されてるけど、「も」の持つ本来のニュアンスってどんなだろうって。たしかに古今の使用例を詳細に見ていけば、こういうふうに細分化されちゃうけれど、もともと「も」は一つの「も」であったわけで、そこんとこを知りたいなと。
実は私はそうやっていろいろな語のルーツを辿るのが好きなんです。ここには詳しくは書きませんが、古文の助詞や助動詞なんかも、そうやって自分流のイメージで教えているんです。単純な音義説や言霊論、誰かさんのようなトンデモ説には流されたくはないけれども、自分の実感の中にやはり音と意味との連関というのがはっきりとあるんで。
それでですねえ、この「も」なんですが、「モノ・コト論」から還元された私の考えでは、「もの」と同じように「外部」を表すんじゃないかと。面倒ですが逐一検証していきます。
係助詞
1 「他にある」というのが「外部」「想定外」。「(数学が好きだという情報に未知なる情報を加えて)国語も好きだ」「(あなたが知らないのに加えて)ぼくも知らない」。現代語の「も」は「もまた(too)」の意で使われることが多い。しかし、本来の「も」には並列・添加の機能はなかったと考える。よって万葉集の例はここに入れるべきでない。あくまでこれは不本意の「も」…「(不本意だが)今夜も一人で寝る」。
2 ここでの例も不適切。「木も草も枯れる」「右も左もわからない」の「も」は並列ではなく、「木や草でさえ」「右と左すら」という意味。万葉集の「銀も金も玉も…」も同様。特にこれは単なる列挙ではなく、次第に「予想外」ぶりが高まっていく演出効果を狙ったもの。最後に「子ども」という答えを持ってくる巧みさ。
3 ㋐不定の語につく点、すでに「外部」。いずれの例も相手の想定外(え~マジでぇ?)の状況。ちなみにDoCoMoは予想外にどこでもつながるのか、それともつながらないのか…(笑)。
㋑想定外そのもの。
4 相手にとって予想外に短期間だったり、高価だったり。
5 明らかに予想外なニュアンス。
6 「中世~」は「は」がいいような気がする。これは微妙。よくわからん。「東京~」の方は「も」でいい。限定するというのが、相手にとって想定外の部分。「東京も東京、新宿のど真ん中に住んでる」みたいな言い方の「も」も相手にとっては想定外、予想外。
「もこそ・もぞ」は古文の学習では有名な表現。強意の係助詞「こそ」「も」を伴って究極の想定外。「こんなことが起こったらもう大変!」「頼むから起こらないでくれ…」という強い懸念を表す。
接続助詞 これも想定外、不本意そのまんま。ついでに「とも」「ども」の「も」も同系。
終助詞 予想外のことに感動。ちなみに終助詞「もがな」は「ものかな」の転で、「無理だけど~だったらなあ」という、まさに不随意を象徴する語。
と、こんな感じです。お分かりになりましたか?
究極のことを言ってしまうと、和語の「マ行音」はそういう「もやもや」した不確実性(自己の外部)を表すと思ってるんです(って誰かのトンデモ説と同レベルですな)。したがって、推量・意志・婉曲の助動詞と言われる「む」、またその東国方言である「も」もまた基本的にそういう性質のものだと考えます。
その対極にあるのが「カ行音」。「かちかち」した確実性。過去の助動詞「き」「けり」や「こと」にもつながりますね。彦と姫、イザナキとイザナミにおける語尾の「カ行音」と「マ行音」もそのへんと関係があるのでは。男は論理、女は情緒ってことでしょうか。それとも、男の体は硬くて、女は軟らかいとかね。こじつけと言われればそれまでですが、実はこんなこと「も」あったりして。皆さんにとってはまさに想定外(トンデモ)でしょうね。
ついでですから、古語の例もいくつか考察しておきます。
・武蔵野はけふはな焼きそ若草のつまもこもれり我もこもれり(伊勢)→「あなたは知らないでしょうし、予想外でしょうが、妻(夫)も隠れている上に私までも隠れているんですよ。だから火をつけないで!」
・木の花は濃きも薄きも紅梅(枕)→「世間一般の意見では濃い紅梅はいいって言われてますね。でもワタシはね、信じられないかもしれないけど薄い紅梅にも萌え~!」
・潮も満ちぬ。風も吹きぬべし(土佐)→「ちょうど潮も満ちた。ついでに風も吹くよ、きっと。ラッキー!」
・家に預けたりつる人の心も荒れたるなりけり(土佐)→「(家はまだしも)まさか人の心までねえ…」
・夏は夜。月のころはさらなり。闇もなほ。蛍の多く飛びちがひたる(枕)→「月夜はみんな知ってるようにいいに決まってる。で、みんなにとっては信じられないかもしれないけど、闇夜だっていいんだってば!」
・家に行きて何を語らむあしひきの山ほととぎす一声も鳴け(万葉)→「無理かもしれないけど、一声だけでも鳴いてくれたらなあ(予想外の幸運を希望)」
・かかる人も世に出でおはするものなりけり(源氏)→「こんな素晴らしい人がこの世に…アンビリーバブル!」
・暑きほどはいと起きもあがり給はず(源氏)→「起き上がることすらしない…信じられない」
・いづれも木はものふり、大きなるよし(徒然)→「特定できない=不確定」
・うれしくものたまふものかな(竹取)→「全く予想外、ありがたいことです」
・熟田津に船乗りせむと月まてば潮もかなひぬ今はこぎ出でな(万葉)→「ラッキー(予想外)」
・やうやう天の下にもあぢきなう人のもてなやみぐさになりて(源氏)→「アンラッキー(予想外)」
・心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮(新古今)→「まさか心ない人まで感動するとはね」
・浪の下にも都のさぶらふぞ(平家)→「浪の下に都があるわけねえだろ」
・心あるも心なきも皆鎧の袖をぞぬらしける(平家)→「心ある人はもちろん、心ない人まで泣いた!」
・竜の馬も今も得てしか青丹よし奈良の都に行きて来むため(万葉)→「無理だとわかってるけどほしい…」
・信濃なる千曲の川の小石も君し踏みてば玉と拾はむ(万葉)→「あの小石が玉になっちゃうんだから、インクレディブル!でしょ?」
・あやしの鳥けだものも恩を報じ徳をむくふ心は候ふなり(平家)→「人ならまだしも鳥やけだものまで…」
いずれも想定外な感じですね。自分の判断や相手の常識の外にあったことが起きている感じです。なお、上で見るように、古文での「~も~も」の文型は、後者の方が話題の中心なんですね。現代語のような単なる並列はないように思えます。
と、今日はなんとなくこんなことを考えましたので、備忘のために書いておきました。これが単なるこじつけなのか、はたまた大変な発見なのかは、全然わかりません。もう誰か言ってることかもしれないし。ああ、「かもしれない」の「も」も「外」って感じですね。
不二草紙に戻る
最近のコメント