『太陽』 アレクサンドル・ソクーロフ監督作品
The Sun
これは名作でしょう。久々に来ましたよ。小津以来かもしれません。結局DVDも買って何度も観ました。そして今日も観ました。今日は特別な日ですから、また特別の感慨がありましたね。
昨日は「神の子」という言葉を連発しましたっけ。考えてみれば、今日は「神の子」から「人の子」になった「人」の誕生日ということになりますね。どこかにも書きましたけれど、世界史上「私は神だ」と宣言した人は案外たくさんいますが、「私は人間だ」と宣言した人(神?)は裕仁さんだけだと思うんですよ。たとえば私が「私、実は人間だったんです」と言えば、頭がおかしいと思われるだけですよね。
そんな昭和天皇が主人公の映画。もうその時点でありえないわけですね(いろいろな意味で)。それもイッセー尾形が演じてしまった。もうこれは不敬罪にあたります…いやイッセー尾形さんがじゃなくて、観た私たちがですよ。だってヤバい似てるって心の中で笑っちゃうんですから。
これほどの適役はありません。形態的に似ているだけではないんですよね。存在も似ている。そう、一人芝居ですよ。孤独に耐えながらひたすら演技しなくてはならない。本当の自分とは何だったのか分からなくなるくらいに一人芝居なわけです。だけれど、その声を聴きたい人はたくさんいる。そして、その責任は全部背負わねばならない。
ソクーロフ監督の素晴らしさは、この世にも奇妙な事実を、美しい物語に昇華させてしまったところです。歴史上たしかにあった事実ではあっても、もともとそれ自体が多分にフィクションとして構成された「コト」であったのですから、この映画(物語)に対して、やれ史実に忠実でないとか、時代考証はどうなってるんだとか、ロシア人に何がわかるんだとか、いろいろ文句をつけるのは、それこそ芸術に対する不敬罪です(笑)。即刻逮捕し収監して勉強しなおさせた方がよろしい(冗談ですよ、冗談)。
私は、そうですねえ…出口王仁三郎のファンであるのと同じようなレベルで、昭和天皇のファンでもあるんです。両者はいろいろな意味で対照的、相容れない存在であったようですが、しかし考え方によってはグルっと回って一つの何かに統合されるのかもしれないし、あるいは合わせ鏡のようになっているのかもしれません。まさに「モノ」と「コト」。「モノノケ」と「ミコト」。
この二人の神のような人を検証することによって、日本の近代、いや古代から連綿と続いてきた「日本」という国を明らかにすることができると、私は真剣に考えています。もちろん、そこに自分も絡んでくるわけで、そういう意味では自分のライフワークとも言えるかもしれない。
そのためには、伝説だけでなく、まさに人間としての生身の彼ら、私と同じ体を持つ人としての彼らに思いを馳せることが必要不可欠なのです。それは彼らと融合することでもあるし、彼らと闘うことでもある。
天皇裕仁に対して、それを見事になしとげたのがソクーロフ監督でした。そしてイッセー尾形でした。本当に見事に天皇と対話しています。だからそれが芸術であれ、物語であれ、フィクションであれ、美の力を持つことができた。これは人間の生き方のお手本のような作品です。史実を追う姿勢、言わば学問の姿勢だけでは、この美は生まれません。この静かな力、この暗い輝きは、生命の佳きアンサンブルによる奇跡と言ってもいいでしょう。
どのシーンも見事に作られています。観るたびに新たな意味が生まれてくる。発見だけでなく、創造もそこにある。観る自分もまた、そのアンサンブルに参加させてもらえる。無数の意味が立ち上がってくる。そして、自分も豊かになってくる。一つ一つのシーンに、あらゆる喜怒哀楽、愛憎や、幸不幸や、生き死にや、「もののあはれ」や「ことのあはれ」が表現されていきます。
内容的なこと、技術的なことは、とにかく作品を観てもらうのが一番だと思いますので、私は特に書きません。もう少し具体的に知りたいという方ちは、このインタビュー記事やこちらの脚本を含めたレポートが大変に参考になりますのでご覧下さい。
さてさて、せっかくですから、ちょっと天皇の戦争責任について私見を述べておきましょうか…と思って書き始めたら、これが長くなってしまった。そしてかなり世間的に痛い内容になってしまったので、全面的にカットしました。ごめんなさい。ただ、ここだけは残しておこうっと。私の発想は単純なんですよ。
「…もし、極論するとして、先の戦争やそれに伴う悲劇が天皇一人の責任だとしたら、戦後の平和や繁栄の責任も天皇一人に負っていただきたい。仮に戦争の全責任量の5%が彼のせいだとしたら、やはり戦後の平和についても5%ほど彼のおかげだとしたい。私の感覚ではそういうことになるのです。神であれ象徴であれ、いずれにしても我々国民が演じさせているコトです。私もそうですが、悪いことは人のせいにし、いいことは自分の手柄にしたい、というのが人間の本質ですよね。これは天皇個人の問題でなくて、私たちの問題なのです…」
Amazon 太陽
楽天ブックス 太陽
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 『大鹿村騒動記』 阪本順治 監督作品(2025.05.17)
- 『砂の小舟』 丹波哲郎 監督作品(2025.05.08)
- 追悼 大宮エリーさん(2025.04.28)
- 『新幹線大爆破』 樋口真嗣 監督作品(2025.04.23)
- 『アルプススタンドのはしの方』 城定秀夫 監督作品(2025.04.01)
「歴史・宗教」カテゴリの記事
- 乙姫さま降臨(2025.05.26)
- 岡崎市円山の神明宮と古墳群(2025.05.24)
- 光明寺さん(小山市)で思う(2025.05.23)
- 榮山寺のカオスとコスモス(2025.05.22)
- 吉野〜南朝の幻影(2025.05.21)
「モノ・コト論」カテゴリの記事
- 地震と大相撲(2025.03.30)
- ハイデガーVS道元…哲学と仏教の交差するところに、はじめて立ち現れてきた「真理」とは?(2024.06.03)
- 文字を持たない選択をした縄文人(2024.02.14)
- スコット・ロスのレッスン(2024.01.12)
- AIは「愛」か(2024.01.11)

コメント
前略 薀恥庵御亭主 様
「天皇制」・・・「軍隊」・・・・
「うぅぅぅぅん。」
とても難しい問題ですね。苦笑
「軍隊」といえば・・・愚僧が小学生の頃
映画「陸軍中野学校」がテレビで・・・
再放映されておりました。
「市川雷蔵」様 主演の「スパイ」映画でした。
「加東大介」様は「草薙大佐」を演じておられました。
何となく・・・暗く 怖い映画でした。苦笑
それでも ただ ただ「ピストル」がカッコよくて
「駄菓子屋」さん で 「銀玉鉄砲」を買って
「寺の境内」で・・全く無意味な・・・
「諜報活動」を繰り広げておりました。笑
愚僧 諜報活動に失敗し「友達」に撃たれると・・
「うぅぅぅぅん・・ヤラレタ。」
と墓石に倒れ掛かって 絶命しておりました。笑
世界中が「銀玉鉄砲ゴッコ」で・・・
決着がつけば・・・・一番「安全」ですね。
合唱おじさん 拝
投稿: 合唱おじさん | 2007.12.27 14:45
申し訳ありません。
草薙大佐 ×
草薙中佐 ◎
謹んで 訂正させていただきます。
投稿: 合唱おじさん | 2007.12.27 15:58
合唱おじさんさま、いつもどうもありがとうございます。
境内での諜報活動、最高です(笑)
なぜ人は大人になるとシャレがわからなくなってしまうんでしょうね。
遊び心を失いたくないですね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.12.28 11:40