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2007.12.18

『蹴る』の命令形

写真はおおみそか参戦が決まった田村潔司が蹴っているところ。
Tamura 突然ですが、皆さんは「蹴る」の命令形をなんと言いますか?本日ある教室で生徒に聞きましたところ、半数が「蹴れ」半数が「蹴ろ」となりまして、どっちが正しいかを巡って大変な騒ぎになりました。みんな口々に言ってみるんですが、言ってるうちにどっちかわからなくなってしまって、さらに騒ぎは拡大。なんか質問したワタクシもわかんなくなっちゃった。
 ちょっと聞いた話では、東日本では「蹴れ」西日本では「蹴ろ」が多いとか。実際どうなんでしょうね。方言だとまた違うバージョンがあるでしょうし。で、私の生まれた静岡や、今住んでいる山梨は、フォッサマグナ付近にありますから、いろんな面で東西がせめぎ合っている。混ざり合っている。重なり合っている。言葉もご多分にもれず、語彙、アクセントなんかかなり揺れています。
 「蹴る」の命令形って、たとえば格闘技を観戦してる時なんかよく使いますよね。日常でもサッカーやってる時に、トロトロしてるヤツに対して「早く〜」って具合に使います。それなのになんでこんなに不安定なことになってるんでしょう。ことは山梨や静岡に限ったことではないみたいです。
 皆さん、高校の古典文法の授業を思い出してください。下一段活用ってヤツがあったの覚えてますか?そう、「蹴る」だけがこの下一段活用に属していました。というか、「蹴る」のためだけに下一段活用が設置されていました。変な活用するんですよね。
 変なら、いわゆる変格活用にすればいいのに。そう、カ変(来)、サ変(す)、ナ変(死ぬ)、ラ変(あり)みたいに。でも、すでにカ行変格活用は存在するので、それも叶わなかったのかな。いや、それ以前に変格活用って、英語の不規則動詞と同様に古くからある語、すなわち日本人にとって重要な意味のある動詞なんですよね。その点「蹴る」はいまいち重要度が低い。なのに、活用表にはこうあります。
 け(ず) け(て) ける(。) ける(こと) けれ(ども) けよ(!)
 私もそれこそ高校時代から、なんでコイツだけ変なんだよって疑問に思ってきました。まあ結論としては、kickを表す日本語は昔からいろいろと揺れていて、下二段で活用していたものが、だんだんと一段化し、しまいには現代文法でいう五段活用になったらしい。で、今学校で教えられている活用表なんてものは大変に無責任に誰かが決めたものでして、ある時期のある地方に残っている文献の例をただ組み合わせただけのものですからね、まあ、こんな下二段と四段の混ざったような変な表になっちゃったんだと思います。それを丸暗記させられる生徒もかわいそうだし、それを無思慮にテストに出す現代の教師たちも困ったものです(私は出しませんよ。第一、活用表は覚えるな派ですので)。
 で、ですねえ、いちおう学校文法に従うと、古語での命令形は「けよ」です。ほかに「〜よ」となる動詞を考えてみますと、「見よ(見る)」とか「受けよ(受く)」とか「起きよ(起く)」ですね。それが現代語ではどうなっているかといいますと、「見ろ」「受けろ」「起きろ」となっているわけです。そういう発想からしますと「けよ」も「けろ」になっておかしくない。しかし、五段活用的に言えば当然仮定形「けれ(ば)」と同じ形「けれ」になるわけでして、そういった理由もあって今でも大揺れに揺れているんでしょうね。
 ついでに言いますと、古い連用形「け」も今でも使うんですよ。我々は日常的に使ってます。「蹴飛ばす」「蹴散らす」「蹴落とす」「蹴躓く」…本来の現代文法に従えば「蹴り飛ばす」のようになるはずです。
 さて、それでもっと面倒な話をさせていただくとですね、実は文献に従えば平安時代には「こゆ」「くゆ」と言っていたこともあるみたいなんです。ヤ行下二段ですね。あるいは終止形は「く」だけだったり。もうこうなるとはっきり言えるのは「カ行」すなわち「k」の音素がkickの意味を表していたということだけでして、そうすると「くつ」という名詞の「く」もまたそれに通じるのかななんていう新しい考えも出てくるわけです。ついでに言えば「ける」の発音も「kweru(クェル)」だった可能性もあり、もうわけわからんどころか、どうでもよくなってしまいますね。
 さてさて、最後に秋田出身のカミさんに聞いてみました。「蹴るの命令形ってなんていう?」そしたら…
「はえぐけってけれ(早く蹴ってくれ)…『蹴れ』だ!」
…おいおい、その「けれ」は違う「けれ」だろって(笑)。

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文学・言語」カテゴリの記事

コメント

 ご無沙汰ですが、こちらのブログは毎日ストーキングしている LUKE です。

>…おいおい、その「けれ」は違う「けれ」だろって(笑)。

 ここ、面白すぎる!

 そうそう、少年時代を青森で過ごした先輩の話。
 家の都合で小学生の時に青森に引っ越したそうで、当時は言葉の違いに戸惑うこともしばしばあったとか。ある時、校庭でサッカーをしていたとき、自分へボールが回ってきたので、シュートするかパスするか躊躇していたところ、仲間が一斉に
「ふめ~っ!」
と叫んだため、何のことか分からず、ボールを踏んでみたとのこと。蹴っ飛ばす(←おお!私は蹴り飛ばす派でも蹴飛ばす派手もなかった!)ことを「ふ(踏?)む」というらしい。
 活用形とは関係ない話でした。

投稿: LUKE | 2007.12.19 17:08

LUKEさん、いつもどうもです。
いやはや、言葉というのは面白いですね。
このあいまいさ、多様性こそ「コトのは」の「モノ性」、つまり言葉自身の自己矛盾ですよね。
なんか人間の心の中そのままです。
そうするとやっぱり「文は人なり」というか、言葉を持つのは人間だけというか、結局「言葉」っていろんな意味で人間の「わがまま」の象徴ですね。
だから可愛いんですけど。
言葉が好き、書くのが好きっていうのは、実は自己愛なのかなあ。
…なんか変な方向に行っちゃいましたね。すみません、ちょっと酔っぱらってまして…笑。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.12.19 20:09

というわけで。。文法嫌いのたこたよです。。
お久しぶりです。。
謎ですね。。

で、落ち着いて考えたところ、意外に
「早く食べれ!」「早よしれ!」とか使っているような。。。
(確か「食べる」とか「する」は五段活用ではなかったというあやふやな記憶で話を進めてますが。。)
正しい(?)日本語とするならば、
「早く食べろ!」「早よしろ!(早くしなさい!)」とか。

それが方言なのかどうかはちょっと自信がないですが。。。

数ある言葉を5つに分けた時点で間違っている気はするわけで。。
そもそも誰が分けたのでしょう?まったく迷惑な話だ。。ww


分類したほうが、わかりやすい。
確かにそれはあるのでしょうが、それによって失われるものも多い。。
言葉に限らず、世の中そんなものが多いですね。

(どんなまとめ方だ。。)


投稿: たこたよ | 2007.12.19 23:04

たこたよくん、お久しぶりです。

そうそう、「やめれ!」とか言いますし、
「しゃべる」の命令形もちょっと難しい。
迷いますね。

分類して失われるもの…その通りですなあ。
切ないです。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.12.20 08:01

こんにちは。
昔、水島新司氏の野球漫画を読んでいたら、走者に「スライディングしなさい」という意図で「すべろ!」と写植がなされていたのを覚えています。当時は、「編集が直さなかったのね」としか思わなかったのですが。

投稿: TKJ | 2007.12.21 14:23

ついでにもうひとつ。
最近、よく○○暦という言葉が使われているのを目にするのですが(特に某大規模掲示板において)、この暦という字は本当は歴という字が正しいと思うのです。しかし、歴という字が使われているのはほとんど見ません。ここでもまた日本語は変わっていくのでしょうか。

投稿: TKJ | 2007.12.21 14:27

TKJさま、お世話になってます。
なるほど、「すべろ!」ですか。
たしかに間違ってますね。
でも、「すべれ!」もなんだか変な気がしてきました(笑)。
「暦」もたしかにありますね。
ネット世界は誤字で遊ぶことも多いですし、
漢字をそれこそ図形として遊び道具にしちゃったりしますからね。
そのあたりの感覚というのは、日本古来のものかもしれません。
変体仮名が廃止され、漢字も制限される中で、なにかが湧き上がってきているようにも感じますね。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.12.21 17:52

 先日のこと。

“蹴る”の命令形、私は“蹴ろ”の方がしっくり来るのですが、はて、嫁はどうなのかしら? と、思い、

LUKE:「あのさ、“蹴る”の命令形って何?」
嫁:「“蹴れ”でしょ?」
LUKE:「うん、だけど“蹴ろ”もあるでしょ?」
嫁:「(笑)はぁ? 何言っちゃってんの? それは訛りでしょうよ。(笑)」
LUKE:「訛りってなによ?」
嫁:「ほら、何々してけろ! とかの...。」
LUKE:「だぁっはっは!」(←某ご夫妻の会話を思い出し、大笑いしている様子。)
嫁:「あれ?(汗) 何? 私おかしいこと言った? ねぇ?」
LIKE:「いや、...かっかっか! あ、合ってる、かっかっかっか! 間違いじゃ、か、ありません...かっかっか!」

あーおかしかった。

 なに!“すべろ!”は、間違いですか。私には“すべれ!”よりしっくり来るんですがね。

投稿: LUKE | 2007.12.22 01:28

LUKEさん、おはようございます。
そうそう、訛りですよ。まさに。
宮城出身の友人からメールをもらったのですが、
秋田や岩手では「〜けれ」「蹴れ」「やめれ」「起ぎれ」だけど、
宮城では「〜けろ」「蹴ろ」「やめろ」「起ぎろ」だそうです。
南に行くと「〜ろ」になるのかな。

私もなんだか「すべれ!」は抵抗があるんですよ。
あんまり日常じゃ使いませんしね。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.12.22 08:07

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