宝塚に見る「女の嫉妬」の行方
今日は法学部で学ぶ卒業生が学校に遊びに来ました。彼女はいわゆるヅカファンです。特に月組がごひいき。
私、今までも半ば強引に宝塚のDVDを見せられてきました。最初は正直よくわからんなあ、と思っていたんですけど、やはり世の中で素晴らしいと言われ何十年も生き残っているいるものには、その生き残る理由があるんですね。ジャニーズも実際観に行ったらたしかに素晴らしいエンターテインメントだった。
で、来年はいよいよ宝塚も観に行くことになりそうです。例によってファンの方々なんかの様子も含めて楽しんでこようと思います。
今日強引に見せられたDVDは「MAHOROBA/マジシャンの憂鬱」であります。まあ、MAHOROBAの一部だけしか観てませんけど、もうとにかくそれだけでも濃過ぎて最高に面白かった。もう瀬奈じゅんがイザナギとして登場して、いつのまにかヤマトタケルになってる時点で笑えたわけですけど、そうだなあ、やっぱりオウス(ヤマトタケル)が熊襲征伐するシーンかな。そう、オウスが女装してカワカミタケルをだまして殺すところです。
とっても興味深いですねえ。現実世界では女性である瀬奈じゅんが、まずオウスという男に扮し、そして、そのオウスが女装しているわけですから、えっと、女が男になって女になってるんですね。二重のフィクションです。面白いですね。そして、その女装してめでたく女に戻った(?)瀬奈じゅんは、妙にエロチックに踊り歌います。宝塚ではだいたい巧妙に女性性が消し去られているんですが、このシーンは珍しく女性性が強調されていました。それが実にウソくさくて良かった。
歌舞伎は男が男と女の両方を演じます。舞台にはリアルには男しかいません。女性不在です。女形は記号化され象徴化された女であってリアル女ではありません。宝塚はどうでしょう。歌舞伎の逆ですね。舞台にはリアル女しかいません。男性不在です。男役さんは記号化象徴化された男ですね。さらに面白いのは女役、娘役さんも記号化されているということです。彼女たちの女性性は巧みに隠蔽されているんです。彼女たちは決してエロチックではない。ボディーコンシャスすら許されません。
ちょっとそのへんについて考えてみました。
観客としての女性、市場経済における消費者としての女性を成立させるため、継続成長させるためには、女性に内在するドロドロ、すなわち「嫉妬心」を消し去らねばならない。リアル女性にとって、リアル世界の男女関係における「嫉妬心」は、基本的に不快な感情です。消費者たる女性はそんな不快な感情に対してお金を払ってくれるわけがありません(実はもうちょっと複雑なしくみなんですが、今日は割愛)。
で、面白いのはですねえ、日本でそういう「嫉妬心消去」のシステムが発達したということですね。世界の中でも特別だと思います。それがそう、歌舞伎や宝塚やBL(ボーイズラブ)なんです。これは、日本の女性が特に嫉妬心が強いということではなく、自らの嫉妬心をシステム(フィクション)の中で消去できてしまうくらい、日本の女性が賢いのだと、私は思います。あるいは、女の嫉妬心の処理方法を各種考案した日本の男が賢かったのかな。ま、とにかく日本はこの点に関しては特別ですし、それらを芸術にまで高めてしまったわけで、まったくすごいことだと思います。
今日も教え子に聞いてみました。「お前さあ、ほら大好きな瀬奈さまがさあ、こんな可愛い女の人とからんでるけど、嫉妬とかしないの〜?」そしたら、彼女「あっ、言われてみると全然嫉妬しません」って。ほらね。彼女、言われて初めて気がついたのか、リアルな自分と比較して不思議だ不思議だと言っておりました。面白いですね。
ちなみに、8月に関ジャニ∞に行った時には、こちらに書いたように、5万5千の女の嫉妬心が大爆発して東京ドームを揺らしましたっけ。これは実は見事な演出だったわけですが、そうですねえ、ジャニーズにおける「ホモ伝説」もやっぱり嫉妬心除去システムの一つなのかもしれませんね。
女の嫉妬心はどんな場合も女に向かいます。ある共通した嫉妬を中心に女が一群をなして盛り上がる場合もありますけど、基本的には彼女たち、そんな自己に内在する「鬼」はなるべく外に出したくないようです。そのためにリアルな「性」を消し去る文化が、それこそ源氏物語あたりから日本では見事に発達したということですね。
というわけで、そんなフィクション(「コト」)世界に、こいつホントは女じゃんとか、女が男になって女になってるよとか、イザナギがブーツはいてるよとか、歌詞が文語なのに音楽は思いっきり洋楽じゃんとか、そういう野暮なツッコミを入れず、上手にだまされるのこそ大人な世界ですよね。
そうそう、最後は彼女の専門である法学にまで話が発展しました。私にかかれば、宝塚も法律も全く同じです。そう、法律なんて最たるフィクション(「コト」)ですからね。全てのルールはフィクションです。それに野暮なツッコミを入れたりせず、なんとなくみんなでそれを遵守していく。なんで赤信号は止まれなんだ、オレは進むぞ、とか言わないで。そう考えると、法律は我々国民をある方向に動かしていく演出であることがわかります。そのへんについてはまたいつか。
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コメント
前略 薀恥庵御亭主 様
「宝塚歌劇団」の皆様方・・・・
とても姿勢よく 美しい「作法」であられます。
舞台に立たれる・・「役者」様「音楽家」様の
の御方々様は やはり「品格」があります。
愚僧には最も縁遠い「部分」であります。笑
たとえば・・・・・えぇぇぇ・・
山中貞雄監督「人情紙風船」にも
御出演の故「原ひさ子」様(前進座)などは・・
「品格」があり「ブレ」のない女優様でした。
尊い御人生を終えられ「大往生」なさいました。
まさに完成された「御人柄」です。
まさに「女優の鏡」であらせられます。
美しく 見事な「品格」ですね・・・・
まさに「名画」の如し・・・・ですね。
画家の「東山魁夷」様の絵画のように
尊い「品格」「清潔感」が滲み出ておられますね。
俳優様・女優様では・・・うぅぅん。
笠 智衆 様(俳優)
植木 等 様(俳優・ギタリスト)
美空ひばり様(女優・歌手)
高倉 健 様(俳優)
美輪明宏 様(俳優・歌手)
岸辺一徳 様(俳優・ベーシスト)
上記の「御方々様」には「ぶれ」が無く
「方向性」が確立されておられます。
愚僧の尊敬いたしております御方々様です。
輝く「品格」をお持ちであらせられます。
それこそ・・・
「ゴム風船」のように・・「ふらふら」と
当ても無く・・・彷徨う愚僧には
「太陽」のような存在であります。
合唱おじさん 拝
投稿: 合唱おじさん | 2007.12.27 11:20
申し訳御座いません。
岸辺一徳 ×
岸部一徳 ◎
謹んで訂正いたします。
投稿: 合唱おじさん | 2007.12.27 11:29
合唱おじさん様、こんにちは。
挙げていただいた素晴らしい品格を備えた方々、
ほとんどを私も不二草紙で取り上げてまいりました。
サイト内検索していただければそれぞれの記事を見つけていただけるのでは。
私の思いを共有できますこと、たいへん有難く思います。
また因縁浅からぬものを感じます。
ありがとうございました。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.12.28 11:38