『世界を信じるためのメソッド』 森達也 (理論社)
ぼくらの時代のメディア・リテラシー
先ほど香川坂出の事件の容疑者が逮捕されました。この事件に関しても世の中では興味本位の犯人探しが横行しました。その発端になったのは、いつものとおりマスコミの報道の姿勢と内容です。
昨日の霊感商法の話も本質は同じです。その団体の主催者の書いた書物を読みましたが、本当に噴飯もので、呆れる以前に大笑いしてしまいました。宗教的、霊的、言霊的な誤謬が甚だしいだけでなく、これはもう地獄への落ち方の教本ですよ。なんでも「お金」ですから。金が全て。ありえません。さっさと地獄へ落ちてもらいましょう。ま、地獄の沙汰も金次第と言いますが…(笑)。
我々はなんでこんなに愚かなんでしょうね。いわゆるリテラシーの欠如です。与えられた情報を吟味することなく受けいれてしまう。批判能力のない大人は危険な社会を生みます。歴史を繙く必要もありませんね。わかりきったことです。
我々教育関係者の責任は重いですよね。学校でそういうことを教えないんですから。ただこれを覚えろというばかり。大学入試でも問われるのは「いかに鵜呑みにして丸暗記したか」です。いやだなあ。
ここのところ一段落しましたが、そういう意味では小論文の指導というのは大変な反面、実に楽しいものです。私が一番教えたい世の中の見方をじっくり教えることができるからです。数ヶ月の指導で生徒たちは本当に変身します。自分でもビックリするくらい世の中が違って見えてくるとのこと。
さて、そんなリテラシーについての名著がこれです。これは来年度から新入生の課題図書にしようと思っています。基本的に中学、高校生対象の内容ですが、ぜひ大人にも読んでもらいたい。
森達也さんは私の最も尊敬する映画監督、ドキュメンタリー作家、論者の一人です。このブログでは、森氏が企画として参加した『ミゼットプロレス伝説〜小さな巨人たち〜』しか紹介していませんけれど、実は私に大きな影響を与えている人です。
上記の作品も小人プロレスという放送業界のタブーに挑戦した作品でした。その後も森さんはさまざまなタブーに挑戦していきます。結果としてそのためにテレビ業界を追われることになってしまう、いや、様々なタブーや利害関係によってあまりに偏った報道や放送がなされていることに嫌気がさして、自ら業界と距離を置くようになったというのが正しいかも。その後オウムの信者の実態を追った自主製作映画「A」のシリーズを制作し高い評価を受けました。
そんな、世の中の裏も表も知り尽くした彼が、子どもたちのために書いたのがこの本です。だまされてはいけない、メディアは人であり、だからこそ間違うこともある、では何をどう信じればいいのか。
実体験や実例が生々しく、それだけでも充分大人にとっても刺激的ですし価値あるものです。そういう世の中の事象の最先端(先っぽ)にあえて身を置くのは勇気のいることですよね。しかしそこからしか見えない「真実」…それはすなわち世の中が多様で豊かであるということ…もあるわけです。
そういう努力を、あるいはそういう努力の真似ごとさえもしない私たち。検証能力を失うことは盲目的な原理主義を生む基礎を作ります。
それにしても、どこを見ても「金」「金」「金」。「金」がなければ幸福になれないって、バカが書いた1万円の本に書いてありました。自分の本は本当なら1兆円で買ってほしいとまで書いてありました。もう噴き出すべき飯もないほど情けないことです。そんなものを信じて金づる探しに奔走する主婦たちがいることに、本気で哀しみを感じてしまうのでした。地獄へ落ちろなんて、本当は冗談にも言いたくないんですよ。一番嫌いな言葉なんです。でも、あえてそう言わなければならない時もある。毒をもって毒を制す。
昨日と同様、お前が一番怪しい、危なそう、と言われるかもしれませんね。でも大丈夫。私は「自己リテラシー」はしっかり鍛えてますから。いつも自分の先っぽに立ってますのでご心配なく。
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