モミジとカエデ
秋山尓黄反木葉乃移去者更哉秋乎欲見世武
いきなりですが、万葉集の歌です。「秋山に もみつ木の葉の うつりなば さらにや秋を 見まく欲りせむ」…「秋の山に黄色く色づいた葉が散ってしまったら、もっと秋を見たくなるでしょうね」といった感じでしょうか。山部王という人の歌ですが、まあ別段優れた作品というわけではありませんね。
注目すべきは、万葉集において「もみつ」すなわち現代の「もみじ」の語源になった動詞には「黄」の文字が当てられることが多いということです。「紅」ではないんですね。当時は赤い葉よりも黄色い葉の方が人気があったのでしょうか。
写真はウチの裏のカエデの木です。いや、正確に言うと「ウチの裏」ではなくて「裏のウチ」ですね。とっても立派なカエデの木でして、毎年まばゆいばかりの黄に色づきます。
山部王ではありませんが、たしかにこうして葉が木の根元に落ち始めて、次第に枝の葉が少なくなってきますとね、ああ秋も終わりかと思います。本当に春の桜が散るのと同じ「もののあはれ」だなあ。私もしっかり日本人してるなあ。自分のDNAをこんなところで意識したりして。
今年は、いや今年もまた、その色づきが今一つでした。温暖化の影響でしょうね。たしかにこの近辺の紅葉が冴えなくなってきました。紅葉も黄葉もみんな茶葉になって散っちゃうんですよね。この近辺は別荘地で、みんな大枚はたいて高級な紅葉木を庭に植えるので、ちょっと人工的とはいえ、かなり美しい秋の景色を堪能できるのですが、ども最近イマイチなんですよねえ。ここに住む楽しみの一つなんですけど。
だいたい、11月に入っても霜が降りないなんて信じられません。20年くらい前、世の中が寒冷化だとか騒いでいた頃は、ホント山梨の紅葉はきれいでした。当時の写真なんか見ますと、今とはまさに雲泥の差であります。赤も黄も実に鮮やか。
黄色はカロチノイドでしたっけ。赤は、えっとヘモグロビン…じゃなくて、アントシアンか。なんか忘れてしまいましたけど、そういった物質がうまく生成されないんでしょう。つまり、うまく「もみつ」ことができない。古文で言えば「もみたれず」ということです。ちなみに、奈良時代は「もみつ(タ行四段活用)」、平安以降は「もみづ(ダ行上二段活用)」です。つまり、平安以降で言えば「もみぢれず」ということですか。
ついでに、もう皆さん御存知と思いますが、「もみじ」と「かえで」の違い分かりますか?私はなんとなく小さい葉っぱのが「もみじ」で大きいのは「かえで」だと思ってました。あるいは赤が「もみじ」で黄色が「かえで」なんていうイメージもあります。でも、本来は「かへで」は「蛙手」で、「もみぢ」はさっき書いたように「紅葉(黄葉)する」という意味ですから、全然違うわけです。まあ、世の中では「かえでともみじは同じもの」と説明されたり、葉の先が五つに割れているのが「もみじ」、三つが「かえで」とか、いろいろあるようですし、日本の学名は「○○カエデ」「○○モミジ」となっていても、それらはほとんどが「カエデ属」に属していたり、英語では全部メープルだったり、ああ面倒くさい(笑)、とにかく自分のイメージでいいということでしょうし、そんなことで悩むのはヒトという動物だけでしょうから、どうでもいいかもしれませんね。
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