『21世紀を夢見た日々〜日本SFの50年〜』(NHK ETV特集)
「センス・オブ・ワンダー」…今の私を育ててくれたのはSFだったのかもしれません。
おととい放送されたこの番組の録画を観ました。なんかものすごく感激してしまいました。今まであまり意識してこなかったことに、少し情けないような申し訳ないような気さえしてしまった。もっとSFに感謝すべきだったのかもしれません。
60年代70年代、高度成長の中で未来に希望を持ち、あるいは科学に懐疑的になりながら、そして純文学界からの蔑視に堪えながら、素晴らしい作品とジャンルを作り上げていったSF作家の皆さん。彼らのエピソードやインタビューを中心に、さらにお宝映像、音声などもまじえながらのこの番組。出てくる人たちや作品たちの懐かしいこと、そして濃いこと。星新一、小松左京、筒井康隆、手塚治虫、半村良、眉村卓、豊田有恒、光瀬龍、福島正実…。
SF(Science Fiction)というジャンルが生まれて50年。今や世界に誇るジャパニーズ・カルチャー(オタク文化とも言える)はほとんど全てここに端を発しているのでした。なんか説明されると当たり前なんだけど、どういうわけか自分の意識はそこんとこにあんまり意識的じゃなかった。バカだなあ。
それにしても面白かったのは「SF作家クラブ」のものすごいパワーですね。たしかにあの時代、いろんな分野でああいう若者の集団があって、新しいことに挑戦し、世の中に挑戦し、大いに語り、大いに働き、大いに遊び、大いに呑んでましたね。世の中全体がそういう雰囲気でした。
私はまさにそういう時代に育てられた少年だったわけでして、小学校の図書室で彼らの本を片っ端から読みましたし、特撮ものやアニメのお世話になったのはもちろん、NHKの「少年ドラマシリーズ」なんかにも大きな影響を受けました。影響を受けたというのは、そう、日常生活が完全にそれらに侵されていたということです。日常の風景をそういうSFの舞台と見紛うていたし、自分は実は地球人ではないとか、そういう妄想を抱いて生きていましたからね(ヤバイ)。
なんかそういう自分のベースメントの部分というか、血や肉というか、いや骨かな、いや脳の中枢部分だな、とにかく自分の中心にそういうものがあったということに、今回遅まきながら気づかされましたね。あまりに自然に自分に染みついているんで(洗脳されてるってことか)、意識し忘れてたんでしょうね。それほど自分そのものだということです。
その後、私はいちおう大人になっていったわけですが、その途中を思い出してみますと、SFから理系分野に興味を持ち、特に天文学ですね、将来はそっちに進もうとしました。しかし数学的センスのなさがアダとなり、研究者への道は諦めまして、じゃあセンス・オブ・ワンダーの面白さを伝えようと理科の先生を目指すことにしました。しかしとんでもない理由で受験に失敗し、なぜか国語の先生になるという、全くワケわからん過程を経て今に至るわけです。
また一方では、いわゆるオタク文化の方には行かず、違う意味での(文系的かな?)センス・オブ・ワンダー世界である「宗教」「芸術」に興味を持つようになりました。そして今、外側からオタク文化を観察し研究する立場に至っています。
ま、自分の復習はいいとして、とにかく私みたいな私の世代って多いんじゃないでしょうか。特に男。実はSFの血が流れている。SF的世界を生きている。あの頃のSF的未来、SF的21世紀の幻想の中に生きている。逆に言えば現実に対峙できないってことですが。
彼らSF作家たちは実は予言者だったのかもしれません。だって、あの頃の作品に描かれた未来や21世紀の通りになってるじゃないですか。もちろんそこに描かれていたのは明るい未来ばかりではありませんでしたよね。結局あそこに登場していた宇宙人や異次元人、狂った人間たちは、今の私たちなのかもしれませんね。
ところで、この番組をチラチラ見つつポケモンカードに熱中している娘たち、彼女たちにとっての未来ってどんな感じなんでしょうね。いや、現在も、あの幻想的高度経済成長の現在とは全く違うものでしょう。私は早く大人になりたいと思っていましたが、娘たちは子どものままがいいってよく言います。ま、男と女という違いもあるでしょうが。
いずれにせよ、大人がまず現在や未来に期待してないといけませんね。つまり「センス・オブ・ワンダー」の心を忘れないってことです。また、いつものやつが出てしまいますが、「モノ」ですよ。未知のもの。自分の外部の「モノ」へのセンスですね。それは近代合理主義においては「妄想」とか言われますが、やっぱり人間にとって大切なものなんじゃないでしょうか。そう考えますと、現代の若者が熱中するオタク文化もまたとっても健全なものに思えてきますね。
いやあ、面白かった、この番組。特にああいうはちゃめちゃなパワーですね。みんなどうかしてますよ。疲れを知らない暴走族ですな、ありゃ。昔は良かった的な言い方はしたくありませんが、でもなあ、やっぱり明らかにあの時代はすごかった。
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