『認知科学への招待−心の研究のおもしろさに迫る』 大津由紀雄, 波多野誼余夫 (研究社)
生徒とお勉強するために買った本です。たしかに入門としてはいいかもしれません。でも、門に入れないで終わる人も多いだろうなあ。私はその面白さをじゅうぶん理解できる立場なんですが、でも入店しないでしょうね。まあパチンコに行かないようなもんだな(失礼)。
日本認知科学会が設立されたのは、たぶん1983年です。その頃、私は何回かそういう学会に参加しました。そういえば、その頃はやっぱりパチンコにも行ってたっけな。この一致は科学的にはどういうことなのだろう(笑)…で、私はその時大学生で、「国語学」なんていう古くさく、しかし自分にはけっこう合っている学問を志していました。合っているけど、でも昔の私も今と同じように奇を衒う傾向が強かったものですから、バリバリにチョムスキーとかやってた友人に誘われるままに、そういった会合にも参加していました。ゼミの教授にそのことを言うと、「なんだ?認知って。避妊に失敗したのか?」ってマジ顔で言われました(笑)。そういう時代だったんです。
それから四半世紀。認知科学もだいぶ世の中に認知されてきました。というか、ある意味においては、最先端のカッコイイ学問になりつつあります。25年たっても(世界的に見ればもう半世紀くらいかな)まだまだ新鮮であるというのは、いかにも認知科学らしい状況であります。
その25年前の率直な印象は、これはダメだな、でした。いくつかの言語や音楽の認知に関する発表なんかを聴きましたけど、どうもやりたいことをやりたいようにやってて、それもどうでもいい部分を取り上げてどうでもいいレベルで論じていた(ように若かりし私は感じた)ので、ガッカリした記憶があります。
今思えば、それこそが何でもありの、いやかっこよく言えば学際的な認知科学の特徴そのものであったわけで、また、それこそがいつまでも旬であることができる理由なのでした。ノーマンが言ったという「おまえが認知科学だと思えば、それが認知科学なんだよ!」という、認知に関してあんまり科学的でないとも取れる名言こそが、認知科学のよって立つところだったわけです。
さて、この本、そんな意味も含めて実に若々しく面白かったのですが、特に巻末の編著者お二人による対談がエキサイティングでした。なるほど、認知科学はそれまでの「絵日記」「採集」で終わっていた学問に対して、「理論」があることが、その面白さと優位性の理由なんですね。「So what?」の姿勢があると。なるほど。「で?」っていうわけですね。
実は私が入店しない理由はそこにあるでした。もちろんそれは彼らからすれば私の怠慢や無気力さ、非勤勉性から生起する言い訳にしかすぎないのでしょうが、どうも生理的にダメなんですよね。最近の私がパチンコに気持ちが向かないのと同じです。
彼ら頑張り屋さんすぎるんですよ。ちょっとついていけない。「理論」とか「So what?」というのは、いつものワタクシの言い方で言いますと、「コト」です。自分の思い通りになること。人間中心の「納得」なんですね。自分の外部(自分自身も実は外部です。もちろん自分の心も)である「モノ」を手なずけようとしすぎのような気がするんです。ですから、私は彼らの「理論」に対して、ちょっと彼らとは違う表情で「So what?」=「で?」と言いたいんです。わかりますかねえ。
私自身は、「絵日記」と「採集」を極めるような純日本的な(オタク的な)世界が好きなものですから。理論づけという能動的な姿勢ではなく、受動的な姿勢からも、世の中の真理を発見することはできると思います。私はどうもそっちの道を指向するようです。単なる勉強嫌い、怠け者だとも言えますが、認知科学のどうにも欧米的な「はじめにロゴスありき」の出発点に違和感を覚えるのも事実なのです。
うん、でもこういう世界が嫌いなのではありません。人がやってるのを観るのは好きなんです。人にやらせるのも好きなんです(笑)。だから教え子にやらせようとしているわけですし。まったく困った先生ですねえ。
Amazon 認知科学への招待
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