『コマ大数学科特別集中講座』 ビートたけし・竹内薫 (扶桑社)
ひそかに人気だという番組「たけしのコマネチ大学数学科」。もう一年以上、60回もやってるんですね。大学レベルの数学の問題を、マス北野(ビートたけし)、コマ大数学研究会(たけし軍団)、そして現役女子東大生二人が解きあうという一見地味な内容ではありますが、たけしの天才的なひらめきによる解法、たけし軍団の力技による原始的な解法、東大生による受験勉強的な解法という、三つの個性的な知性(?)の激突が面白い。ちなみに今日の深夜放送された番組の問題は
「1辺の長さが1の正方形の折り紙を1本の線分に沿って折り曲げ、二重に重なる部分が線対称な五角形になる時、その五角形の面積の最小値を求めなさい」
でした。
折り紙好きな私ではありますが、こういうのは正直苦手です。といいますか、私の数学神経のなさは本当にイヤになるほどでして、もうまったく高校時代のあの苦しさは思い出したくありません。ただ、数学的な世界の面白さ、美しさ、そして胡散臭さみたいなものの存在は充分わかっているつもりでして、つまりは、私の「モノ・コト論」的にいうと、数学は最も「コト」的であり、人間の論理を徹底しつくしていくことによって、人間的でなくなってゆき、しまいには神の領域に近づいていく。これは、宗教の世界に近いと思っています。
特に数学の天才たちについては、かなり興味を持っています。以前数学の先生にお借りして読んだ『天才の栄光と挫折−数学者列伝』は、最近読んだ本の中で最も私に興奮をもたらした本の一つでした。なんとなく憧れるんですね。来世は数学者になって孤独死したいな、とか(笑)。
数学ってたしかにヒマつぶしにはいいのかもしれません。なんか浮世離れしてますよね。完全に現実逃避できる。社会とか、政治とか、お金とか、人間関係とかと最も遠いところにあるような気がします。こういう楽しみってあるよなあ。ある意味で完全なるフィクションなのかもしれません。人間の脳の中だけの世界。でも、どこか宇宙につながってるような気もする。ってことは、宇宙ってフィクションなのかも!?
さてさて、今回のコマネチフィールズ賞はなんとコマ大チームでした。実際に折り紙を折って求めた数値が非常に正解に近かったということです。マス北野は実質的に正解したのですが、最後に2で割るのを忘れていたので減点。東大チームは微分に苦戦して途中で放棄という形でした。
まあ実際にはたけしさんだけが正解したということですね。この本を読んでもわかりますが、たけしさんはホント天才的ですよ。ラマヌジャンとかワイルズの世界に近い。ある意味プロセスを通り越して結論に至っちゃうんですね。私たちには見えない世界が見えているのでしょうね。藤原正彦さんの言う、「富士山とエベレストの間に、実は虹のかけ橋がかかっている」「二つの無関係な分野が結びつく、というのは数学者にとってもっとも心躍ること」そのものです。
この本では、北野武の映画作りにも数学的な要素があることが紹介されています。なるほどと思わせると同時に、それこそ自分の世界とは違うところにいるんだなということを実感します。しかし、それに触れて感じる能力は我々凡人にもあるんですよね。そこが救いであり、また辛いところでもあります。
まあとにかく、ビートたけしの天才性を証明する面白い番組であります。私なんか、竹内さんの解説を聞いても全然わけわからんし、この本を読んでもチンプンカンプンなんですけど、それでも先ほども述べたように、なんとなくこの世界に憧れがあるのは確かなようです。ホント生まれかわったら今度は数学の才能を手にしたいなあ。
あらゆる才能を持つビートたけしという男、やっぱり天才ですな。私にとっては神です。神って憧れであり、また嫉妬の対象でもあります。このジェラシーはどこに向ければいいんでしょうかねえ…。
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