『すごい「実行力」』 石田淳 (三笠書房 知的生きかた文庫)
なんか、この本を読んでる自分の図がおかしい。かなり変だ。自他共に認める「すごい実行力のなさ」を誇るワタクシが、なぜ敵方の兵法書を読んでいるのか…。
単にですねえ、学期末から引きずっていた仕事がたまりにたまってですねえ、自業自得、自縄自縛(自爆)なんですが、かなりシアワセ…ではなくてシワヨセが押し寄せて来てまして、で、それをまた波乗りの要領でやりすごしたりして、結局ものすごくうずたかく積もりに積もってですねえ、泰山のごとくなりまして、どうにも微動だにしなくなってしまったという、実に情けない状況になっていたのです。そこにプライベートでもいろいろと頼まれ事が重なりまして、今年の方針、というか、人生の方針ですね、「頼まれたことは断らない」という座右の銘に従いまして、それらを全部引き受けていったら、そりゃあ大変なことになってしまったわけです。泰山の上に大雪が降って、万年雪になって標高が高くなってしまったって感じ(?)。
もうこうなったら、やるしかない。実行力なんてものの存在を、もう数十年も前からすっかり忘れている私ではありますが、背に腹は代えられぬということで、奥深くしまい込んだ「実行力」とやらを取り出してくる…かと思えば、さにあらず。あえて、引き出しに鍵をかけて、そして現実逃避です。関係ない本を読み出したり、無駄にネットしたり、酒をたらふくいただいたりして、本当にこりゃあ「すごい実行力のなさ」だ。これはこれで極めている。「欲のなさ」とか「執着心のなさ」ならカッコいいが、実行力のなさ、それも「すごい」という形容詞までついている。こいつはかなりカッコわるいし、タチも悪いぞ。
しかし、さすがにこれでは破綻すると思ったのか、私、いきなり知り合いからこの本を借りて読み始めたのです。そう、もうこうなったら神頼みしかない。奇跡を起こすしかない。これを読めば「すごい実行力」が突然目覚めるかもしれない。引き出しの鍵をはじき飛ばして、中からものすごい勢いで「実行力」が噴き出すかもしれない。そう信じた私は、普段ぜったいに読まないビジネス書、いや自己啓発書を読んでしまったのでありました。
本書、基本的には「営業マン」のために書かれているようです。大変だよなあ、営業マン。時代も変わって、私のような仕事でも営業は大切な要素になりつつありますし、実際私がそのへんを担当しているとも言えるのですが、別に毎日100人生徒をゲットしてこいと言われるわけではありませし、いつかも書いたように、学校というのは市場原理の外にあるべき存在なので、会社経営とは違う感覚や技術が必要です。しかし、こういうピンチの時には実社会のマネジメント法が役立つかもしれない…。
読んでて面白かったっすよ。「have to」じゃなくて「want to」で仕事しようとか、自分を乗せるために専用のポイントカード作ったりとか、目標達成を妨げるものを排除したりとか、成果をビジュアル化したりとか、スモールゴールをたくさん設定したりとか、緊張をほぐすためにまず全身に力を入れたりとか、自分を根本から変えるには精神論ではなくまず行動を変えろとか…日常の勉強や、受験本番で使える考え方やテクが満載で、これは学校用にアレンジして使えるなと思いながら読んでました。
本屋に並ぶ自己啓発書やビジネス書をチラッと見ると、ああ普通の大人はこうして仕事してるんだなあ、自分を常に鼓舞して、ある意味自分を洗脳してやってるんだなあ、と思います。これは疲れるよなあ。こんなこと言ってしまうと元も子もないかもしれませんが、結局そうして求めているのは自己満足という気もしないでもありません。この本でも、ノルマを達成し、お金を得て、自分が幸せになるということしか想定されていないようでした。
教師という、特殊で、ある意味甘やかされている仕事をしてるからでしょうか、なんとなくそういう「仕事」のあり方に違和感を抱くのも事実です。「仕事」は「コトを為す」ということですから、自分の思い通りにすること、自分のために食べ物を得ることが基本とは思いますし、実際今世界の経済や政治のシステムというか、人生のシステムが「お金」の原理で動いているというのも分かるわけですが、本当に「自分のため」が「人のため」「世の中のため」になっているんでしょうか。
とりあえず、私は生徒をどういう大人、すなわち「仕事人」に育てていけばいいんでしょう。やはり、「すごい実行力のなさ」を伝授して、瞑想しながら、常に世の中とは何か、自分とは何かをじっと問い続けるお坊さんでも養成すべきなんでしょうか…。
な〜んて、考えていたら、三日経ってしまいました。この本の表紙には「『結果』は3日で出る!」って書いてあったんですが、たしかに結論が出ました!
私はやっぱり「すごい実行力のなさ」で行きますわ。そして、大いに怠けて、逡巡して、瞑想しながらやっていきます(笑)。
というわけで、本日がしめきりだった多くの仕事たち、どうなったかと言いますと、なんとかなりましたよ。でも、これは「すごい実行力」ではなくて、「すごい実行力のなさ」が生み出した「すごい火事場の馬鹿力」のおかげです。
私も本でも書こうかな。「怠惰力」とか「逃避力」とか「逡巡力」とか「馬鹿力」とかね。「老人力」とか「鈍感力」とかも流行りましたし。「優柔不断術」というのはありましたな、「瞑想力」もあったかも。あっ、あと最近ウチではやりの「突撃力」ってのもいいな。「実行力」と「突撃力」は全然違う。
まあ、結局、3日で何も変わらなかったということで。そんな、私が40年以上かけて培って来たものが、3日で変るわきゃあないっしょ。変ったら困りますよ。ああ良かった、変らないで(笑)。めでたし、めでたし…と。
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