会長さんとアニメ談義…そして「オンリー・ユー」
『パトスが感じられないものは映画じゃない』…押井守
今日は、某有名大学の某有名アニメ研究会の会長職を務める卒業生が遊びに来ました。たっぷりとアニメ談義…まあ、私は基本アニメに関しては無知なんですが、理屈だけはいろいろと言えるもんで(笑)。いやあ、面白かった。なんか、今のアニメ界、いや今の世の中を象徴するような話で、とっても勉強になりましたよ。
簡単に言えば、アニ研の世界も大きな変革期を迎えていると。以前にも大きな変革期…すなわち研究会内でいろいろと衝突があるということですかね…があったそうです。作業のデジタル化が一気に進んだ時だそうです。すなわちデジタルセルが導入され、彩色や編集が格段に容易くなった時ですね。コンピュータが庶民の物になった頃でしょう。そう、想像されるとおり、アナログ派とデジタル派の対立です。これはどの世界にもありましたし、今もあると言えばありますね。
もちろん、プロの世界でもそういうことがありました。いろいろな分野で。もう今ではデジタルが当たり前になった、そのいろいろな分野で、最近再びアナログの見直しが起きています。「無理・無駄・ムラ」の見直しですね。完全にアナログに戻ることは難しいでしょうが、うまい具合に共存させていくことは大切なことだと思います。
で、そういう懐古的リバイバルが起きる原因の一つが、やはり新しい方の世界のクオリティー低下でしょう。会長も言ってました。正直、デジタル世代の自分たちの作品の質は下がったと。手軽で、多くのシロウトが多くの作品を作ることができるようにはなったが、しかし、どうしても粗製濫造になると。それはそうですね。また、個人的な作業が増え、集団の共同作業、それも徹夜でフラフラになりながら、励ましあい、ケンカしたりしつつ夜明けを迎えるというような、まあ変と言えば変ですが、そういうノスタルジックな青春風景はなくなりつつある。そういう風景と作品のクオリティーとの関係がどういうものかよく分かりませんが、何かが影響しそうな気はします。
で、そういう第一の変革期があってからずいぶん経ったわけですが、さてさて、最新の変革はある意味もっと深刻なものになりそうですよ。
え〜まず、今年の新入生、女子がいきなり増えたとのこと。で、彼女たち何をやってるかというとですねえ、やっぱりBLなんだそうです。ものすごい熱意でBL系アニメを作る。やっぱりそうか…(笑)。で、男子はそういうのにどう反応してるんだ、眉をひそめてるのかって聞いたら、なんと、男子も「いいねえ」とか言いつつ、積極的に制作に参加したりするそうです。あちゃあ、世も末だ…。
というのは冗談で、いやBLの台頭は事実ですが、それをもって「世も末」というのは冗談です。私は基本「腐女子文化」マンセーですので。「腐女子文化」は平和な世の象徴です。平成が、「腐女子文化」満開の平安、江戸に次ぐ豊かで平和な世になることはたしかです(そうなることを祈ります)。それも大衆が平等にそれらを享受できるという意味において、両者を凌駕することはたしかです。
なんていう濃いのか薄いのかよくわからん話を楽しんで帰宅しましたワタクシ、おととい録画しておいた「とことん!押井守」の第4夜を観ました。うる星やつらの初劇場映画である「オンリー・ユー」と、それに関する押井守さんのインタビューです。
これがまたいろいろと考えさせられる内容でした。映画自体はそれこそ制作者の熱意が爆発、アナログ的世界にほんのちょっぴりデジタルが食い込む(たとえばあのフェアライトの音はたまらん…)という絶妙の感じが、実に心地よかった。監督さん自身や同業者からは「失敗作」と評価されているようですが、観る者にとってはそれなりに楽しめる作品ではないでしょうか。エネルギー(パッション)は強く感じられました。
押井さんの「自作を語る」コーナーでは、やはりこの作品は「失敗作」「映画になっていない」「大きなテレビ」「おいしい団子をたくさん串にさしても映画にならない」とか、いろいろ言われていましたが、私はそういうコテコテななんでもありのサービス作品というのも大好きですので(この前の関ジャニ∞のコンサートもそんな感じでした)、そこまで言わなくてもと思いました。実際、ファンは喜んだわけだし、珍しく原作者も気に入ったようですしね。
たしかにそういう作り手と受け取り手の意識やベクトルのギャップというのは、どの分野にもありますが、そうしたブレが両者を動かして次の作品に向かうエネルギーを生むというのも事実だと思います。完全にお互いが「コト」化しないところが、「物語」の原動力、生命力になっていくのでしょう。実際、この作品があって、あの「ビューティフル・ドリーマー」が生まれたわけですからね。
それにしても、デジタル化が招いたお手軽さが、いろいろな意味で文化の生命力を奪っているんですね。近代は「無理・無駄・ムラ」を排除する方向に驀進してしまった。私の言葉で言えば、それこそが「コト」への指向、「モノ」の排除であったわけです。実は「無理・無駄・ムラ」がパトスを生み出していたのであって、我々は一見スマートにはなりましたが、本来のアニマなエネルギーは失ってしまったのです。
と、今日はアニメを通じていろいろな文化や人生について考えた一日でありました。「アニメ」…やはりそれは私たちに「アニマ」を与える存在なのですね。納得。
長文ついでに今思ったこと。テレビに帰省ラッシュの映像が映りました。ああ、この「無理・無駄・ムラ」こそ、日本古来の文化伝承の儀式なんだな。お父さんのパトスが発揮される唯一の場なんだな。渋滞がなくなったら、帰省のクオリティーが下がります(笑)。
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