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2007.07.24

『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』 松永和紀 (光文社新書)

33403398 (ココログメンテナンスのため更新が遅れました)
 私は全く先生らしくない(いわゆる先生らしい自意識を持たない)先生らしいのですが、いちおう先生という名前の仕事をしている者として、これだけは教えておきたいということがあります。また、私は全く国語の先生らしくない(いわゆる国語の先生らしい授業をしない)先生らしいのですが、いちおう国語の先生という名前の仕事をしている者として、これだけは教えておきたいということがあります。
 それは、「だまされない人になりなさい」ということです。今風に言えば情報リテラシーを身につけろってことにもなりますかね。世の中の「言葉」を鵜呑みに資するなということでもあります。
 たとえば、この本でも糾弾されている「みのもんた」の言葉。まあ、みのさんの言葉はいかにも胡散臭いのでまだ罪はない方かも。バラエティーですからね、存在自体が。それより罪なのは、やっぱり新聞やテレビでしょう。いわゆるマスコミの言葉です。生徒は、新聞やテレビのニュースは本当のことを語っていると信じています。てか、それ以前に学校の先生の言うこと、あるいは教科書に書いてあることが正しいと思っていますね。
 ということで、まずは私の言うことを信じるな、疑えというところから始まりますが、私はどういうわけか初めから信用されてないので、そこんとこは軽くクリアーです(笑)。次は小学校、中学校の先生の言うことを検証します。続いて、テレビのニュースや新聞記事、ネット上の情報やなんかを俎上でぶった切ります。と言いますか、つまり同じ話題にしてもいろいろな視点や表現の仕方があるということを教えるわけですね。そして、なんでそういうふうにいろんな「コト化」が行われているかを教えます。
 特に女子生徒には、そこんとこを強調します。みんなが大好きなアレやコレは実はね…って。そうすると、女の子たちはなんか怒りだすんですよね。面白いことです。つまり、彼女らが信用し切っていた、あるいはそれを越えて信仰していたことから、突然ウサンナ(ポルトガル語…怪しいの意)の臭いがプンプンしてくるからですね。
 うん、確かに最近のテレビ番組やら、広告やら、CFやら、つまり様々な情報は、女性をだますことを目的にしていものが多い。なにしろ、今や女性は男性よりもお金持ちですからね。欲望が強い上に金持ちですから、それは金もうけをたくらむ男どもの餌食になりますよ。ダイエットにアンチエイジングにスピリチュアルにコスメにファッションに育児に恋愛に。いろんなウサンナ餌がばらまかれてます。
 そういう餌をしかける男は、単に市場の原理に則って行動してるだけですから、そんなに責められません。でもやっぱり、それにだまされて食いつく女性にしっかりしてほしいと思うのは私だけではないでしょう。
 この本でまな板に乗せられている、「白インゲンダイエット」「納豆ダイエット」「寒天ブーム」「レタスの快眠作用」「タマネギが糖尿病にいい」「シナモンが糖尿病にいい」「リンゴダイエット」「環境ホルモン」「ダイオキシン」「化学物質過敏症」「添加物」「化学物質無添加」「有機栽培」「オーガニック」「無農薬」「マイナスイオン」「水からの伝言」「遺伝子組み換え大豆」…これらは、たしかに女性が敏感に反応するコトノハばかりですね。
 しかし、この本の矛先は女性たちには向かいません。あくまでもマスコミや科学者など発信者に向かっています。筆者自身が女性ですし、記者生活の長かった方ですので、そのへんは微妙と言えば微妙でして、あくまで矛の向かう先にも表向きと裏向きがあって、それこそメディア・バイアスがかかっているかもしれませんけどね。
 だからという訳ではありませんが、この本は生徒に、特に女子生徒に読んでもらいたいわけですけれど、また逆に彼女たちにはこの本の内容もまた鵜呑みにしてほしくないわけです。つまり、最終的にはいろいろな立場からの情報(コト)を仕入れて、しっかり仕分けして、自分の「コトノハ」「コトワリ」で判断してほしい。そして、もちろんその自らの「コトノハ」「コトワリ」にも懐疑的であってほしい…。
 私自身も、いつも「原理主義はいかん」と言いつつ、でも、いつまでも懐疑論者でいるわけにもいかず、線引きというか、妥協際というか、視座の置き場というか、そういったいつもフラフラして固定されないモノとのつきあい方に苦労しているわけでして、最近もいろんな人に指摘されていますが、このブログの記事の言葉もどこか歯切れが悪かったりする(この文自体かなり気味悪い)。
 こんなことを繰り返していると、結局お釈迦さまのおっしゃる「空」という究極の 「ことわり方」、すなわち「事割・言割」を否定する「ことわり方」に至ってしまうような気もするんですね。でも、またそれが人として(特に現代日本人として)逃避になっていないかという検証も必要なような気もする…と、またまたずいぶんと話が飛んで、トンデモナイことになっていますが、えっと、つまりは、「だまされない人になりなさい」、しかし「上手にだまされる人にもなりなさい」ということかな?そうじゃないと大好きなプロレスも音楽も映画も演劇もコントもトンデモ世界も楽しめませんからね。
 「世俗の人として生きるなら、真に賢いだまされ役も引き受けなさい」ということでしょうか。う〜む、悩める日々の繰り返しでつ。
 すんません、なんか変な独り言になってしまいました。とにかくいい本でした。皆さん読みましょう!

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コメント

先生、大丈夫ですよ!
どういう不二草紙でもアリです。
全部私の勉強になってマス!
というか凄く勉強になります。
悩んで歯切れの悪い不二草紙も、かわいいです^^
(失礼!)

投稿: カズ | 2007.07.25 21:03

おお、カズさん、ありがとう!
まあ、これが今の本当の自分なので、このまま行きますよ。
また、変る時が来るでしょう。
なんか作家みたいだなあ、身を削るって、こういう感じなんでしょうか。
なんて、ただ単に最近公私共々忙しすぎるみたいです。
自分の処理能力を完全に超えてます。
よって、全てまとまらないうちに発信しちゃってるんですよねえ。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.07.25 21:14

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