『フューチャリスト宣言』 梅田望夫・茂木健一郎 (ちくま新書)
「談合社会をぶちこわしたい」「談合社会相対化同盟」…表紙にもこうあります。ここ数日、「談合社会」を必要悪とし、アメリカ的ガチンコを否定して論じてきた私にとっては、お二人は敵であるはずですね。でも…。
お二人とは、「ウェブ進化論」の梅田さんと「クオリア」の茂木さんです。彼らによる、インターネットを俎にしたポジティヴな未来対談であるこの本、正直とっても面白くて、ワクワクして、そこらじゅうドッグイヤーしました。ああ、私も基本的にこういう生き方、行き方に賛成する人間だな、自分も各パートの関係性を俯瞰して全体の構造を知りたい、そういう指向性のある人間だな、と思いながら読んでしまいました。
そこんとこの矛盾ですね。まあ簡単に言えば、「ネット」世界と「リアル」世界とを、どう折り合わせていくのかってことです。フューチャーであるネット世界に生きる自分と、旧態依然たるリアル社会に生きる自分、今たしかに自分が二人いるんですが、それをどうすり合わせていくか。一つの自分に統合していくか。いや、別に自分に多様性があってもいいんですけど、その根っこは一つにしたいんですね。
リアルでは、私はかなり談合的な生き方をしています。第一、私の職場、学校なんてのは、お二人も完全に否定されてますが、もう異様なほどにフューチャーじゃないことをやってる世界です。特に私は、お二人が大嫌いな大学受験のプロですからね。ある意味どうしようもありませんよ。だからこそネットでバランスとってるのかもしれませんが、とにかく、こういう自分の中の齟齬をどう解決していくかが、私の当面の課題なんです。
たしかにインターネットの普及というのは、人間にとって「言語獲得」以来の革命的な地殻変動であり、また私にとって非常にありがたい自己実現の環境の実現であります。正直、インターネットのおかげで人生ガラッと変りました。彼らが言うように、ネットというもう一つの地球は、「公共性」と「利他性」という素晴らしさに満ちています。私もネット上のある部分には「仏教的理想社会」が実現しているとさえ感じているほどです。そこでは近代が醸成した様々な階級や差別や種々の障壁が、いとも簡単に取り払われました。まさに革命です。そして、そこには基本的に「善意」が満ちている。私がネット社会にどっぷり漬かって感じ取った「クオリア」は「性善」なんです。自分も他者も案外「いいヤツ」だということを確認する日々なんですね。
この本を読み終わって、ちょっと分かってきたこと、それは彼らの主張とは少し違う方向性を持っているのかもしれません。彼らはリアル側の「談合社会」や「エスタブリッシュメント社会」を否定しますが、私はそこまでは言い切れません。私はリアルでの「知恵」たる「談合」や「エスタブリッシュメント」をネット上にも活用していますし、逆にネット上に復活した「公共性」「利他性」「非市場性」というものを、リアル社会になんとか還元していきたいとも思っています。結局、二つの地球を対峙させるのではなく、一つに重ね合わせていく、それがすなわち、二つに分裂しそうな自己を統合することにもつながると予感するからです。そして、もう一歩進めて言いますと、私が今妄想している「モノ・コト論」もそういう着地の仕方をしたいと思っているのでした。脳の、情報の、人知の、つまり私の言う「コト」の象徴とも言えるウェブ世界と、やはりいつまでたっても人知の及ばない「モノ」であり続けるリアル世界とを、社会に、そして自分に有機的に共存させたいのです。
こちら『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?』もご覧下さい。
Amazon フューチャリスト宣言
| 固定リンク
「パソコン・インターネット」カテゴリの記事
- AGIが世界を変える(2023.02.15)
- エアロバイク一体型デスク(2023.01.07)
- 湯木慧 『心解く』(2023.01.04)
- ポメラ DM250 (キングジム)(2022.11.17)
- コヤッキースタジオが「不二阿祖山太神宮」訪問!(2022.11.05)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『禅語を生きる』 山川宗玄 (春秋社)(2023.03.01)
- 仲小路彰 『昭和史の批判史』より「二・二六事件の本質」(後半)(2023.02.28)
- 仲小路彰 『昭和史の批判史』より「二・二六事件の本質」(前半)(2023.02.27)
- 仲小路彰 『昭和史の批判史』より「二・二六事件」(2023.02.26)
- 臨時特別号「日刊ニャンダイ2023」(2023.02.22)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 「温故知新」再び(2023.03.16)
- 『RRR』再び!(2023.03.14)
- 中西圭三 『Choo Choo TRAIN』(2023.03.09)
- 武藤敬司 引退試合(東京ドーム)(2023.02.21)
- 追悼 松本零士さん(2023.02.20)
「教育」カテゴリの記事
- 「温故知新」再び(2023.03.16)
- 『禅語を生きる』 山川宗玄 (春秋社)(2023.03.01)
- 「や〜だ」はどこから来るのか(2023.02.24)
- 追悼 松本零士さん(2023.02.20)
- AGIが世界を変える(2023.02.15)
「文学・言語」カテゴリの記事
- 「温故知新」再び(2023.03.16)
- ハジ→ 『来年の夏。』(2023.03.13)
- 『禅語を生きる』 山川宗玄 (春秋社)(2023.03.01)
- 「や〜だ」はどこから来るのか(2023.02.24)
- ヤマグチ社(2023.02.19)
「モノ・コト論」カテゴリの記事
- 『東京画』 ヴィム・ヴェンダース監督作品(2023.02.10)
- 『光を追いかけて』 成田洋一監督作品(2023.01.05)
- 女性配偶者を人前でなんと呼ぶか(2022.12.06)
- 釈迦に説法(2022.12.03)
- シンギング・リンとシルク・ヴァイオリンの共演(2022.11.10)
コメント
性善説にはちょいと違和感があります。例えばウィキペディアが上手に機能しているのは、人々の善意のお陰なんでしょうか? 情報が追加されたり間違いが自然と修正されるのは、善意と言うより間違いを放置しておくことが気持ちが悪いとか、もっと原始的な動機(条件反射みたいなもの?)だと思うんですよ。丁度体内に細菌が侵入した時、抗体がそれを取り囲んで退治するように。
ではなぜ現実世界では偽装事件が後を絶たないのか。それは悪意と言うより、目先の利益を得ることに盲目的になってしまうからでしょう。悪貨は良貨を駆逐するといいますが、ネット社会が悪意に駆逐されないのは、直接的な利害が絡まない部分が多いからに過ぎないのだと思っています。
投稿: LUKE | 2007.07.13 18:28
LUKEさん、ただいまです。
そう、ちょうど次の記事に書きましたけど、
けっこうマイナス面も感じますよ。
第一、自分にもちょっと悪意がありますから(笑)。
てか、なんとなく自己顕示欲というか、自慢大会というか。
そんなかわいらしさも感じますね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.07.17 10:15
お帰りなさいませ!
>てか、なんとなく自己顕示欲というか、自慢大会というか。
>そんなかわいらしさも感じますね。
そうそう! そんな感じです。
投稿: LUKE | 2007.07.17 15:52
そういう自己顕示欲、自慢大会の機会を我々は得たんですね。
特にブログというのはそういう無責任かつ恥知らずが許されるというか。
もちろん私もそこに魅力を感じているわけですが…。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.07.17 16:30