『神々の軍隊 三島由紀夫、あるいは国際金融資本の闇』 濱田政彦 (三五館)
冒頭の三島の自決、少し遡って「英霊の声」を聞くシーンは、今までにも充分すぎるほど語られてきましたので、別段感慨もなく読み始めたのですが、続く、美輪明宏が三島由紀夫の背後に磯部浅一の霊を見るシーンに鳥肌してから、新しい物語が一気に動き出しました。「国際金融資本」と「神々の軍隊」の戦いの行方は、すなわち私自身の存在そのものに関わるものでした。
こちら「昭和天皇伝説」もなかなか刺激的でしたが、こちらはその数倍面白いノンフィクションでしたね。すごい本です。人物関係と流れを復習するために2度読みました。昨日のシェーファーに負けず劣らずのヴォリュームなんですが、思わず引き込まれました。
著者の濱田さん、私よりずっとお若い方のようですが、知識も豊富、独自の視点によるそれらの結びつけ方も絶妙、文章もなかなか達者で、感心しきりです。
「貨幣(かね)」という無表情でウイルスチックな「神」に、本来の「神」の象徴であったはずの天皇さえも感染し、国が亡んでいく。そんな国を、天皇を、人民を憂え、必死に抗しながらむなしく散っていった人々。神風連の乱の太田黒伴雄や2.26事件の磯部浅一、大本の出口なお、そして三島由紀夫ら。彼らが紡いだ「縦糸」は、今本当になくなってしまったのでしょうか。
私はこの本を読んでいて、たいへんに胸苦しくなってしまいました。明らかに新しい「神」の理論の上に生活し、先生という仕事を通じて、それを次の世代に「縦糸」として紡ぎ出している自分の存在に、そら恐ろしささえ感じました。出口なおの言う「われよし(利己主義)」「つよいものがち(弱肉強食)」世界でのうのうと生きている私。
この本の一つの特徴は、本来の「縦糸」の中心人物として、出口なお(この本ではナオと表記されています)を置いている点でしょう。彼女の素朴にして重厚な純日本的存在感は、確かに非近代そのものでした。彼女の言葉「お筆先」は、ある意味言葉(ロゴス)にすらなっていません。
さらに面白いのは、彼女の後を継いだ出口王仁三郎を、徹底的に「横糸」として描いていることですね。彼は常に「贋作師」「政治屋(フィクサー)」「経営者」「無軌道な男」として登場します。彼にはたしかにそういう側面もありましたからね。いや、ある方向から見れば、まさにそのとおりであったと思います。しかし、あまりに多面的な王仁三郎のことです。濱田さん、「横糸」にこだわりすぎて、王仁三郎に関しては描ききれていなかったかもしれません。
ここでまた私の勝手な「モノ・コト論」になってしまいますが、なおが近代化の波の中で吐き出した糸は、まさに「モノ」でした(もちろんこの「モノ」は物質という意味ではありません)。それに対して、貨幣(=かね)は「コト」の象徴であります。王仁三郎は「モノ」も「コト」も併呑し、結局「モノガタリ」を吐き出した。彼があえてなおとぶつかり合ってみせたのは有名な話です。そうして、彼女の吐き出した「モノ」を、自らがメディアになって世間に提示して見せた。まさに物語ったわけです。
そして、再び自分を省みてみますと、私たちは今、完全に「モノ」より「コト」に生きているということになりますね。ある意味、三島由紀夫がああいう形で物語ったのを最後に、私たちは「神話」を失ってしまった。あの時三島が絶望した、市ケ谷の若い自衛隊員の姿は、すなわち私たち自身のそれだったのでした。
いやあ、それにしてもこれはすごい本でした。軍部や天皇家と財閥、宗教団体の関係など、私が今まで知らなかったことが、もちろんたくさん書かれていまして勉強になったんですけれども、それ以上に、ああやっぱりあの戦争が大きな分岐点だったのだな、ということを改めて痛感しましたね。戦争がいけないことだというのは単純に知っていますが、あの時、日本人が(正確に意識しなかったにせよ)何と戦ったのか、何に負けたのかを、いろいろな視点から考えてみることは、とても重要なことでしょう。
この本が、今絶版になっていて手に入りにくいというのは、実に残念なことです。どうでもいい本が書店に山積みにされ、こういう本が消えていくこと自体、新しい「神」のシステムがしっかり機能していることを証明しています。今回、この本を貸してくださった伯爵さま、本当にありがとうございました。
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