『スポーツとは何か』 玉木正之 (講談社現代新書)
夏の甲子園出場校がそろそろ出そろいますかね。私の勤務する高校の野球部は、結局優勝校に負けてしまいました。ウチは秋の優勝校、先方は春の優勝校ということで、あの試合が実質上の決勝戦だったのかもしれません。また、私の母校は春の全国制覇校に延長戦で惜敗いたしました。今年はいずれかで甲子園に応援に行けるかと思っていたので、ちょっと残念です。
しかし、この高校野球というのは不思議な世界ですね。もう充分に議論し尽くされているとは思いますが、どう考えても純粋なスポーツとは言えませんね。一番暑い時期に、一番蒸し暑い地方で、一番暑い時間帯に決勝戦が行なわれる。偶然性の高い球技にもかかわらずトーナメント方式である。軍隊式の行進が行われる。原爆の日、終戦記念日、お盆、郷土愛、汗と涙、連投、連帯責任…全てが、日本人の好むノスタルジックなドラマ性を準備しているように思われます。
まあ、野球自体不自然なスポーツですからね。いろいろな意味で不均衡ですし、ボールデッドの時間が異様に長い(間が多い)。団体球技のくせに、まるで戦国時代の名乗りあいのように、あるは仮面ライダーとショッカーのように一騎打ちだし。
この本では、そんな野球に限らず、イギリス発祥のもの、アメリカ発祥のものなど、様々なスポーツやその周辺の事象を取り上げられています。そのルーツや文化的背景、さらに日本での問題点などについて解説が施されていきます。結果としてなかなか面白い比較文化論になっていると言えるでしょう。
内容的にはどこかで聞いたことのある話ばかりですが、それらをこれだけまとめて提示されると、たしかに読んでいて飽きない。ちょいと牽強付会ぎみなところもありますが、「へえ〜」というトリビア的なネタ本として、あるいは高校生などに「別の視点」を与える教材としては、けっこう使える本でしょう。
この本のもう一つの面白さというか、読みやすさの原因というのは、筆者が自らに課した「型」にあります。筆者は、「スポーツ用語からスポーツを読み解く」として、用語(テーマ)を最初から最後まで「あいうえお順」に並べています。50音順に並べるということによって、内容に流れがない、すなわち辞書的な構成になるかと思いきや、途中まで(最後までかも)その並べ方に気づかないほどに、前後のテーマがうまくつながり、全体にわたるメインストリームもできているという離れ業、ウルトラCを筆者は実現しています。さらに一つの用語の記述が全て1ページぴったりに収まっている(それぞれ600字くらいの小論にまとめられている)。これは面白い書き方だと感じましたね。
私のブログもたいてい同じくらいの長さ(長過ぎさ?)ですし、全然違う対象を取り上げつつ、けっこう前後のつながりがあったり、全体としてのテーマ性があったり…してるかな?…いや、自分としてはそういう感じがしてるんですけどね、この本はそれを徹底していますね。まあ連続コラムをまとめた感じなのかもしれません。とにかく、長いフツーの本を読むのが苦手な私には、実に読みやすかった。
あとがきで筆者も書いている通り、その「あいうえお順」スポーツ用語は「す」までしか進んでいません。「せ」以降も早く読んでみたいところですね。
ところで、筆者はスポーツライターとして有名ですが、もう一つの顔、音楽ライター(音楽評論家)としても重要な仕事をしています。「スポーツ」にせよ、いわゆる「音楽」にせよ、明治にどっと流入した西欧文化なわけであって、それらがどのように日本に受容されたか、そしてそれらがどのように日本的に変容せられたか、その歴史の中に、玉木さんは「日本とは何か」を見ようとしているように感じますね。
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