『プロレス スーパースター外伝−ザ・リアル・ヒストリー』(宝島社)
これは渋いけれども重い一冊ですね。本屋さんで立ち読みして思わず泣いてしまった。特に最後の劇画『ラッシャー木村が南国の居酒屋で呑んだ「涙酒」』はたまりません…。ううう、ラッシャーさん、男だなあ、いやいや神か仏か。
別冊宝島のプロレスシリーズはいつも面白いんですが、特に今回は80ページに及ぶ劇画ということで、さらに魅力が増しています。プロレスと劇画って似合うなあ。考えてみればタイガーマスクも漫画じゃなくて劇画だよなあ。もともと、プロレスって劇画なんですよね。劇画的存在。リアルとデフォルメの中間を行ってるわけですから。
前半の劇画は『「アンドレ対ハンセン」の舞台裏』です。これもすごい迫力ですね。1981年、伝説の田園コロシアムです。そう、その数年前まで、私は田コロのすぐ近くに住んでいたので、よく侵入して遊んでましたが、あそこでまさかアンドレとハンセンが激突するとはねえ、夢にも思いませんでした。だってものすごく閑静でオシャレでしたから。
当日は残念ながら静岡で高校生やってましたので観に行けなかった。でも、その後何回もビデオで観ています(ここでちょっと観れますね)。その上でこの舞台裏も含めた劇画を見ますとね、これまたものすごい迫力なんですよ。内容的には例のミスター高橋本の内容に基づいているようですが、なるほどプロというのはこうして何万人もの人々の心を動かすんだな、ということが分かりますよ。
さてそれでラッシャー木村の方です。これは泣けるなあ。「不滅の国際プロレス」(結局買っちゃいました)の対談でも、木村さんは絶対に人の悪口や愚痴を言わない人だったとありましたが、ここでもその「仏っぷり」が見事に描かれています。田コロの「こんばんは事件」から例の猪木との「1対3」に至る話です。劇画の後に「ラッシャー木村が教えてくれた人生を生き抜くことの深奥」という小林照幸さんの文があるんですが、これがまた出色。どんな宗教書よりも教えられることが多い。もう完全に老師の域だな、ラッシャーさん。
さて、ほかの部分でなるほど!と思ったのは、GK金沢克彦さんの「長州本」に関する文章ですね。全体に興味深い内容だったんですが、思わず膝を打ったのは「プロレスはモザイク入りのAV、総合格闘技は無修整作品」という部分ですねえ。な〜るほどです。「AVのモザイクはプロレスのファンタジーの部分と共通する」だと。「プロレスファンは想像力が豊かであり…モザイクがあるから面白いし語れる」と。その通りだと思います。なんでもホントのことを開示するのが正しいとは限りませんし、そういう判別困難な「モノ」、判然とした「コト」ではない「モノノケ性」、虚実皮膜の間の「物語性」こそが、人生を豊かにするんだと思います。
総合ブームにせよ、氾濫する無修正作品にせよ、現代人の想像力(およびそこから発する創造力)の貧困さを象徴してるとしか思えませんね。私なんか、どっちもすっかり食傷気味です。だから今こそ国際プロレスであり、日活ロマンポルノなのです!…って何を力説してるんだ(笑)。これ以上想像力が暴走しないよう、このへんでやめときますわ。
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コメント
ラッシャー木村は何度か間近で見かけました。以前住んでいた家の近くに国際プロレスの練習場があって、弟の通っていた幼稚園にレスラーが送り迎えに来ていました。そんな国際プロレスの練習場にタクシーが突っ込み、プロパンガスボンベが大爆発。それからまもなくして、国際プロレスはつぶれました。東京12チャンネルと国際プロレス。子供の頃の思い出です。
投稿: AH | 2007.07.11 01:23
AHさん、おはようございます。
うわぁ、なんとも味のある話ですねえ。
ぜひウチでDVD観賞会しましょう。
伯爵さまもまじえて。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.07.11 06:25