『1枚の写真が…横浜事件65年目の証言』(NNNドキュメント'07)
戦中最大の言論弾圧事件と言われる「横浜事件」。私はまったく勉強不足で、その名は知っていても具体的にどのような事件だったか、ほとんど知らずに今まで生きてきました。ここのところ、戦中の、特に昭和18〜20年あたりの日本に興味を持つきっかけがあり、少しこの事件についても調べ始めていたのですが、ちょうどいいタイミングで、今日の未明、ドキュメントが放送されました。
横浜事件の内容については、以下の平凡社大百科事典の説明が簡潔でわかりやすいでしょう。
太平洋戦争下の特高警察による,研究者や編集者に対する言論・思想弾圧事件。
1942年,総合雑誌《改造》8,9月号に細川嘉六論文〈世界史の動向と日本〉が掲載されたが,発行1ヵ月後,大本営報道部長谷萩少将が細川論文は共産主義の宣伝であると非難し,これをきっかけとして神奈川県特高警察は,9月14日に細川嘉六を出版法違反で検挙し,知識人に影響力をもつ改造社弾圧の口実をデッチ上げようとした。
しかし,細川論文は厳重な情報局の事前検閲を通過していたぐらいだから,共産主義宣伝の証拠に決め手を欠いていた。そこで特高は細川嘉六の知友をかたっぱしから検挙し始め,このときの家宅捜査で押収した証拠品の中から,細川嘉六の郷里の富山県泊町に《改造》《中央公論》編集者や研究者を招待したさい開いた宴会の1枚の写真を発見した。
特高はこの会合を共産党再建の会議と決めつけ,改造社,中央公論社,日本評論社,岩波書店,朝日新聞社などの編集者を検挙し,拷問により自白を強要した(泊共産党再建事件)。
このため44年7月,大正デモクラシー以来リベラルな伝統をもつ《改造》《中央公論》両誌は廃刊させられた。一方,特高は弾圧の輪を広げ,細川嘉六の周辺にいた,アメリカ共産党と関係があったとされた労働問題研究家川田寿夫妻,世界経済調査会,満鉄調査部の調査員や研究者を検挙し,治安維持法で起訴した。
拷問によって中央公論編集者2名が死亡,さらに出獄後2名が死亡した。その他の被告は,敗戦後の9月から10月にかけて一律に懲役2年,執行猶予3年という形で釈放され,《改造》《中央公論》も復刊された。拷問した3人の特高警察官は被告たちに人権じゅうりんの罪で告訴され有罪となったが,投獄されなかった。
事件自体をげっちあげ、獄死者を出すほどの拷問を行なった特高。これはもちろん許されざることですが、時代も時代、国全体が異常な状態であったことを考えると、彼らだけを責めるわけにはいかないとも言えます。しかし、終戦後、都合の悪い裁判記録を自らの手で焼却し、今に至る戦後裁判の中で、「裁判記録がない」という理由をもって何度も再審請求を棄却していきた司法のあり方には、私も怒りや恐怖を感じます。
法に疎い私は「免訴」という言葉を初めて知りました。公訴権がないことを理由に裁判を打ち切ることだそうです。裁判所は自ら記録を消し去り、裁判はできないから、まあなかったことにしよう、免訴は無罪みたいなもんだ、有罪じゃないからいいだろう、と言っているわけです。免訴を言い渡された一人木村亨さんの「日本は人権小国、人権後進国」という言葉が重く響きます。
ドキュメントの中では、事件の発端となった(なってしまった)写真が撮られた富山県泊町の人々がクローズアップされていました。いきなり神奈川の特高に呼び出され、拷問に近い取り調べを受けながら、「あったこと」しか語らなかった彼ら。あのような状況の中で、彼ら善良な一般市民は、よくぞ「誠」と「真」を貫き続けましたね。たしかにそこには一つの救いがあったような気がしました。
もしかすると、まだ戦後は終わっていない、いや戦中も終わっていないのかもしれませんね。最初に書いたように、今私はある時代の日本に興味を持ち始めています。現代の私たちが、あの時代をそれぞれ自分たちなりに検証していかなければならないのかもしれません。歴史が単なる過去の記録や記憶になってしまわないためにも、それぞれが今の自分と過去とを結びつける作業をしてゆくべきなのでしょうね。
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