『生物と無生物のあいだ』 福岡伸一 (講談社現代新書)
評判の書。そうですね、なかなかいい本でした。
ただ、Amazonのレビューほどは感動しなかったかな。ものすごい名文…というわけでもないような…たしかに上手な文ですが。
内容はけっこう刺激的でしたね。知的な刺激と言うんでしょうか。学問の世界、それも最先端の理系の世界を垣間見ることができる、それだけでも興味深かった。
砂浜の小石と貝殻はいったい何が違うのでしょうか。生物と無生物のあいだにどういう違いがあるのでしょうか。半ば哲学的とも言えるこの問いにどのように答えようか、福岡さんはじっくりゆっくり、いろいろなエピソードを交えながら、私たちといっしょに考えてくれます。
細菌とウィルスの違いも分からないワタクシが、この最先端の、おそらくは最も難しい領域に属するであろう問題を、それなりに噛み砕いて自分のものに出来たのは、まさに福岡さんのそうした姿勢、つまりは御本人の人柄と才能のおかげてあると思います。
結論的には、「自己複製」と「動的平衡」という言葉が鍵になるわけですが、そこに至る様々な研究過程と人間模様が面白い。まさにそうした時間の流れの中でのダイナミズム(スキャンダルも含む)こそが、生命の本質であると実感できるんですね。無機質な論文とは違い、それこそ文が生きている。そして、それを読む私も生かされる。
研究の質感、ピア・レビューの危険な香りなど、現場の生々しさにも思わず興奮させられましたね。アカデミアの世界も大変ですねえ。ドロドロしてますわ。ガチンコ勝負だけれども、けっこうルールぎりぎりのところでの攻防があるんですよね。反則すれすれ…いや、バレてない反則もたくさんありそう。
ところで、私はこの本を読んで、いかにもワタクシ的なことを考えてしまいました。また、あれです。「モノ・コト論」。
全ての「モノ」の本質は「変化」であり、それに抗するのが生命とも言える。つまり生命は「コト」化を企てるわけですね。「永遠」や「不変」への憧れです。エントロピー増大に抗い、自己複製によって疑似的な不変性、永遠性を得る。私に言わせてしまうと、無生物はジャスト「モノ」であります。すなわち「変化」「無常」「拡散」でしかありえません。それに比して生物とは、「モノ」でありながら、「コト(不変・永続・固定)化」の本能と機能を持ち備えた存在だというわけです。
福岡さんは、「時間」にも注目しています。『時間という乗り物は、すべてのものを静かに等しく運んでいるがゆえに、その上に載っていること、そして、その動きが不可逆的であることを気づかせない』…その通りですね。それにふと気づいた時、私たちは「もののあはれ」を感じるのです。ある意味、自分たちが「モノ」であることに気づいてしまうんですね。生物はあくまで「なまもの」なわけですから。本当は時間の流れに逆らえず拡散していくべきものなのです。それを、私たちは疑似的に避けようとしている。自己複製をしたり、「コトのは」などのメディアを使って情報として、作品として、芸術として固定しようとしたりする。そういうことなんだなあと、この本を読んで嘆息したわけです。それこそ「もののあはれ」ですなあ。
いずれにせよ、時間という「神」に、異常なほどの執念をもって臨む「生物」、特に「人間」のダイナミックな営為に、私は感銘を受けるとともに、ちょっと虚しさを感じたのでした。
Amazon 生物と無生物のあいだ
楽天ブックス 生物と無生物のあいだ
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