『増補 にほんのうた 戦後歌謡曲史』 北中正和 (平凡社ライブラリー)
明日、私にとってとんでもなく重要なイベントがあるんです。それについては明日の記事で報告できると思うんですが、それに備えてという意味も含めまして、この本を読んでみました。先日紹介した「読むJ-POP」とともに、日本の歌謡曲の歴史を知るための基本文献ですね。
私には「読む〜」の方が面白かったなあ。いや、資料としてはこちら「にほんのうた」の方が優れているでしょう。ある意味、淡々と歴史が語られていく。人名や作品名が上手に整理されていく。たしかに大きな流れと、それぞれのジャンルの音楽的特徴や社会的影響もよく分かります。文章も簡潔平明ですし。
「読む〜」の方は、筆者の個人的な経験や感慨なんかも挿入されてましたから、そういう意味で面白かったのでしょう。誰しもそれぞれの楽曲にそれぞれの思い出が乗っかるものですからね。それを書いていたのでドラマチックだったわけです。誰かレビューで書いてましたが、おおげさでなく「大河ドラマ」を観たような読後感があった。
その点、この「にほんのうた」は非常に客観的、学術的な姿勢で書かれています。文体が「ですます体」でなかったら、単なる論文だったとも言えるでしょう。だから勉強にはなりました。とっても。
この本でも、出だしはこうです。
「戦後歌謡曲の歴史をジャズからはじめるのは奇妙に思われるでしょうか。しかしこれはそれほど唐突な意見というわけではありません」
やはりジャズですね。それは「読む〜」と一緒です。しかし、たとえば「読む〜」の方で私が印象的だった「ビートルズ」については、こちらではほとんど語られていません。音楽的な衝撃や影響については一言も触れられていません。なんか拍子抜けでした。でも、もしかするとこういう冷静なとらえ方もありかもしれないな、とも思いました。なかば伝説化、神話化しているビートルズですが、当時の日本人の中には、彼らを疎んだ人も、あるいは彼らに全く無関心だった人もいたわけで、いや事実そういう人たちの方が大多数であったわけで、昨日の記事ではありませんが、実はビートルズの衝撃的影響というのは、マニアックな専門家とミーハーな女の子に限られたものだったのかもしれません。
この本で、ビートルズのそれよりも強調されているのは、諸外国の音楽の影響です。ラテン諸国、ロシア、フランス、朝鮮半島、アフリカ、アメリカ…たしかに、その通りですね。「読む〜」の記事でも書きましたが、日本の歌謡曲というのは本当に国際的であり、なんでもありのメルティング・ポットならぬごった煮状態です。それが独特の音楽性に醸成していき、そして世界の中の「J-POP」になっていったということなんでしょうか。今や、animeやmangaと同様に「J-POP」という単語も世界で通用するようになりました。それこそ外国のマネで始まったこうした文化的流れが、60年かけて大河となったと考えますと、なんとも感動的ですね。
さて、この本で印象に残ったのは、こうした外国の影響の中にも、都々逸、民謡、浪曲など、旧来の「ヨナぬき」音楽が重要な要素になっていたうという記述です。そういう点でも北中さんは冷静に歴史を観察していると言えましょう。当たり前のことですが、けっこう見落としがちな部分です。
あと、もう少し深く知りたかったなあというのは、田端義男のギターがジャンゴ・ラインハルトに似ているという、私にとっては衝撃的な記述や、日本の楽曲に特徴的な性転倒(男性が女性の、女性が男性の人格になって歌う)に関する記述の部分でしょうかね。非常に興味を持ちました。私も以前から性転倒については文化史的にいろいろと考えていたんで。ぴんからトリオの「女のみち」って300万枚も売れたんですね。冷静に考えるとものすごく変な事態ですよ。ぴんからトリオが「女のみち」ですよ。それがそんなに売れちゃうんですよ(笑)。
さてさて、私の明日のイベントに関する記述はどうだったでしょう。それがですねえ、ほとんどないんですよ。もちろん名前は出てきてますし、ジャケット写真も載ってますけど、あの「神」については、もっと書いてほしかったあ!
なんて、そんなこと言い出したらキリがないほど、いろんな「神」が出てくるんですよ。まさに八百万の神だなあ。すさまじく豊饒な世界です。たった60年の音楽ジャンルの歴史を語るのに、これだけの「濃い」人物、いや神が出てくるって、すごいですよ。他の国もこんなんなのかなあ。どうもそう思えないんですが。
さあ、というわけで、勉強もしたことですし、明日に備えて寝ます。おやすみなさい。
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