『林住期』 五木寛之 (幻冬舎)
母の日ということで、静岡の実家に帰りました。その母が読んでいた本をちょっと拝借。
「林住期(りんじゅうき)」…耳慣れない言葉ですね。古代インドでは人生を四つの時期に分けていたんだそうです。「学生期(がくしょうき)」、「家住期(かじゅうき)」、「林住期(りんじゅうき)」、「遊行期(ゆぎょうき)」…学生期は師に学んでいる期間でしょうか。そして、家住期は家族を養う時期、林住期は出家して森林に住む時期、遊行期は何ものにもとらわれない理想的な時期でしょうか。これらを現代日本に無理やりあてはめるのは難しいとは思いますが、まあ学生期は二十歳くらいまでかな。家住期は長いですよね。というか、普通の日本人はずっと家にいるわけだし、家住期で終わってしまう人も多いのでは。そこで、五木さんは50歳から75歳までの時期を「林住期」と規定して、そこを輝ける「第三の人生」だと説きます。すなわち、これは五木さん流の解釈であり、比喩であるわけですね。そこのところを注意。
ほとんどの人は、実際に森林に住むわけではないので(私は30代から森林に住んでますけど)、あくまでも精神的な意味での「林住期」だということです。その期間には定年を迎え、子育てからも解放されるわけですから、たしかにそういう解釈も成り立ちますね。
で、もうおわかりと思いますが、日本ではこれからこの精神的林住期の人が急増するわけです。団塊の世代の退職です。そういう人たちに対して、林住期がいかに素晴らしいかを語り、最終的に健康的な「出家(本書では家出とも書かれていますが)」を促すのがこの本の目的です。まあ、時流に乗った本、団塊の世代の購買力に期待した本とも言えますか。
ざっと読んでみまして、まあ可もなく不可もない内容だなと思いました。五木さん自体はもうそろそろ遊行期に入られるわけで、御自分の林住期を顧みてなかなか良かったなという感じなんですが、ま、五木さんはある意味生粋の遊行人ですし、実際遊行する才能の持ち主ですからね、ちょっと一般人の日常とはかけ離れているような気もするのでした。ですから、この本を読んで「よし!」とか「楽しそうだな!」とか思った人が、ではどうしようと悩む姿、あるいは経済力にものを言わせて(?)、結局社会の欲望に躍らされてしまう姿が目に浮かぶのも事実なのでした。
さてさて、ではワタクシの「老」観はどんなものかと申しますと、それは実にシンプルでして、歳をとればいいことが増えるに決まっている、です。
肉体の衰えはそれこそ二十歳くらいから実感していますし、頭脳の衰えは最近とみに激しい。やばいな、と思うことのしばしば、いやほぼ毎日です。しかし、その「やばい」はあくまでも現代的な弱肉朝食(?)資本主義に基づいたもので、ちょっと視点を変えれば、「やった!いいぞ!」になるんです。
お釈迦様がおっしゃるように、自己に対する執着を捨てて、自然体で他者に生かされるのを理想とするならば、私たちの「自己力」は衰えた方がいいんですよ。それは体力であり脳力です。まあ、簡単に言えば、人の世話になるというのが理想的なあり方なんですね。人に迷惑をかけるようになって、ようやく一人前ということです(笑)。
助け合いとか福祉とか難しいこと言わなくても、たいがい誰かが助けくれますからね。それを有難く受けながらニコニコ生きられるようになるためには、体力や脳力なんてさっさと衰えた方がいいんですよ。で、そのかわりに増してくるのは、そうですねえ、五木さん流に言えば「他力」の心、「他力力」っていうのは変かな、とにかく「我執を捨てる力」ですよ。だから「老い」には悪いことなんて何もない。得をするばかりです。
私は真剣にそう思ってるんですね。私流に言いますとね、「学生期」や「家住期」は理想とは反対のことを学ぶ時期なんです。自我にいかに執着すべきか、悪魔がたくさん教えてくれるんです。お金の魅力とか、自分の夢の魅力とかね。で、それに虚しさを感じて、なんか違うんじゃないのかって気づくのが「林住期」。そして、いろんな意味で自己力(自力力)が衰え、自然と他力力がついてシアワセになるのが「遊行期」と。ま、そんなイメージを持ってるんです。実にうまいプログラム、演出ですよね。
で、私はもう完全に「林住期」に入ってましてね、あとはもう少し自己力が衰えるのを待って、さっさと遊行したいんですけど、悪魔はなかなかそれを許してくれません。まあ、もう少し修行しろ!ってことでしょうね。でも、もう遡行して若返ることはないんですから、安心して老いていけますね。もう楽しいことしかないことは保証されてるんですから。
なんて、こんなふうに真剣に思っている私は変なんでしょうか。う〜ん、やっぱり変か…。
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