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2007.05.21

鈴木秀美・小島芳子 『ロマンス』

414me91s6xl_aa240_ 今年もまた、小島芳子さんの命日がやってまいりました。今年、私は彼女が亡くなった年齢になります。そんな意味でもいろいろと考えてしまった今日一日でありました。
 昨年は若松夏美さんとの共演によるモーツァルトを聴きましたね。今年はこちら鈴木秀美さんとの共演、少し毛色の変ったものをじっくり聴きました。これがまた素晴らしい。心が洗われました。
 昨日は興奮ぎみに妙なことを語ってしまいましたが、そこにあるのは共演者に対する信頼と愛情でありまして、基本的には間違っていないと思っています。
 このアルバムには、そうした二人の圧倒的な「思いやり」が溢れております。そして、単に共演者どうしのそれだけではなく、音楽に対して、そして楽器に対しての愛情を、これほど感じることができる録音はそうそうないと思います。本当に温かい。
 説明するまでもなく、鈴木秀美さんはバロック・チェリストとして世界的な活躍をされています。小島さんは特に古典派の演奏に優れたフォルテピアニストでした。そんな二人が、ここでは、なんと堂々と後期ロマン派を奏でているのです。
 使用している楽器は、チェロが18世紀イタリアのオリジナル、弓は19世紀フランスのオリジナル、ピアノが19世紀末フランスのエラールです。
 チェロの弦は当然ガット。なぜなら、後期ロマン派の時代にはまだスチール弦というものはなかったからです。エンドピンはちょうどその頃から使われ始めたそうで、鈴木さんも珍しく(?)エンドピンを使っています。スチール弦はもちろん、エンドピンの歴史もそんなに長くないんですね。
 やはりガット弦らしい倍音の豊富な柔らかい音が魅力的ですね。もちろん、鈴木さんは当時の演奏方法や習慣を研究された上で演奏していますから、ある意味いつものバロック的な表現とは一線を画しています。しかし、いわゆる普通の現代楽器によるロマン派のイメージからしますと、かなり意外な音楽になっているのではないでしょうか。私はロマン派はあんまり聴きませんので、この演奏こそが理想的なような気がしますけれど。たとえばヴィブラートも、ロマンチックな表現のための装飾音といった感じでして、あの貧乏揺すりのような恒常的な音程のズレとは明らかに違うものになっています。もちろんボウイングもです。健康的な浪漫ですね。
 そして、なんといっても小島さんの奏でるエラールの繊細にして豊潤な響き。ああ、フォーレやドビュッシーはこういう響きの中で、ああいう曲を作ったんだなあ。さもありなんです。ショパンの時にも書きましたけれど、こういう響きを聴いてしまいますとね、どうも現代ピアノのある意味均質な響きというものに、何とも言えない物足りなさを感じるようになってしまうんですね。もちろん、逆にピリオド楽器に不満を持つ人がいるのも理解できますけど。たしかに私たちは現代人なわけでして。でもなあ、やっぱり私はこっちが好きだなあ。これはもう趣味の問題でしょう。理屈ではない。
 ピアノについても、楽器だけではなく、小島さんの音楽性やテクニックというものが、この録音の個性を豊かにしていることを忘れてはなりません。チェロという雄弁な楽器をいかに支えるかというのは、いろいろな意味で難しいと想像されますし、鈴木さん同様、ある意味アウェーでの仕事ですから、単純に新鮮だったというような言葉では片付けられないご苦労があったものと思われます。
 そうした環境の中でこのお二人の残した素晴らしい音楽は、これからも多くの影響を与えるものと信じます。ロマン派を得意とされている現役の演奏家の皆さんにもぜひ聴いていただきたいですし、逆にバロックを主戦場にしている皆さんにも聴いていただきたい。ある種の精神性の高さ、すなわち前述した「思いやり」や「愛情」と知的な研鑽があれば、そこにはこうした豊かな泉のような音楽が溢れ出るということなのです。そして、それこそが音楽家の基本そのものなのでした。
 もっともっと、彼女の生の音楽に触れておけばよかった。正直そう思います。きっと、今ごろ天国で、温かくそして優しい音楽を、それこそ泉のように生みだしてくれているのでしょうね。
 最後に収録曲を紹介しておきます。

1. ロマンスop.69(フォーレ)
2. ロマンスop.62(エルガー)
3. 愛のあいさつop.12(エルガー)
4. 歌の情景(ヴェルクマイスター)
5. ロマンツェop.5(ポッパー)
6. シシリエンヌop.78(フォーレ)
7. 夢のあとにop.7-1(フォーレ)
8. アンダルーズop.54-4(ポッパー)
9. セレナードop.54-2(ポッパー)
10. 愛の情景op.12-3(ハーバート)
11. セレナードop.3(ハーバート)
12. ロマンス(ハーバート)
13. エレジーop.17(グラズノフ)
14. カプリースop.79e-1(レーガー)
15. 小さなロマンスop.79e-2(レーガー)
16. 無言のロマンスop.23(ダヴィドフ)
17. 孤独op.9-1(ダヴィドフ)
18. わが母の教え給いし歌op.55-4(ドヴォルザーク)
19. こもりうた(外山雄三)

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コメント

明日は追悼演奏会が浜離宮朝日ホールであります。行ってきます。

投稿: AH | 2007.05.22 21:59

AHさん、おはようございます。
今日、追悼演奏会なんですね。
私も気持ちだけは会場に赴きたいと思います。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.05.23 04:35

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