『昭和天皇伝説 たった一人のたたかい』 松本健一 (朝日文庫)
昨日の本にも書かれていましたが、最近になって、つまり戦後60年を過ぎて、かの戦争や昭和天皇に関する新資料が、国内外を問わずたくさん発見・公表されはじめました。多少世の中のムードも変りまして、今までタブー視されていたことにも言及しやすくなったとも言えます。
それでもまだまだ謎は多く、かつ禁中にチラッチラッと何かが見え隠れするものだから、一層いろいろな興味を刺激され、そこから様々な妄想も生まれたりするんですね。私は、富士山というもう一つの「日本国の象徴」に住み、当地に伝わるもう一つの「神話」を研究したり、その両方に関わっているもう一人の「現人神」出口王仁三郎のファンだったりしますからね、もう一つの「物語」の暴走をなかなか抑えきれません。
この本も、なかなかの「物語」ぶりです。かなり面白い物語と言えましょう。昭和天皇が生涯その名を口にしなかった(と思われる)3人、すなわち、北一輝、出口王仁三郎、三島由紀夫に、あえてスポットライトを当てることによって、そこに影として現れる昭和天皇を読み解こうという試みは、なかなか刺激的です。なにしろ口にしなかったのですから、いわゆる資料というものはほとんど皆無です。ですから、自然「物語」となってしまうわけですね。
この3人、つまり、昭和天皇を怒らせた(?)三つの事件、2.26事件、大本弾圧事件、三島事件の主役達ですね、彼らが目指したものと昭和天皇が目指したものとは、どのように関わり合い、そして、どのようにぶつかり合ったのか。たしかに大変興味のあるところです。
私は北とオニさんについては、まあそこそこ知っている方だと思うのですが、実は三島についてはまだほとんど勉強していないんです。もちろん少年時代から興味は持っていたんですが、なんでしょうね、それこそもう一つの禁中なんでしょうかね、いまだ踏み込めない領域なのです。近くに三島由紀夫文学館もあるのに、実は怖くてまだ行っていないんです。これは自分でも非常に不思議な感じがします。
その怖さは、ずばり霊的なものです。何言ってるんだって呆れないでくださいよ。これは理屈ではないけれども、たしかに存在する何かなので。仕方ありません。自分の感覚を信じるしかありません。ただ、最近ぼんやりと見えてきたのは、その霊的な一つの流れ、霊脈みたいなものがあって、それがたしかに万世一系の天皇制に寄り添ってもいるのですが、しかし一方ではそれと全く同じエネルギーの強さを持っているということなんですね。つまり、反宇宙のような感じで、まったく同価でありながら鏡像のような形で存在している。お互いが不即不離で相互依存的な感じ。あるいは互いに牽制し合って一つの均衡を保っているというか。
そのもう一つの「霊脈」に、どうも私は昔から反応しやすいんですなあ。そういう血が流れてるんでしょうかね。おそろしいことに、著者の松本さんも違う本で指摘していましたが、出口王仁三郎と三島由紀夫が有栖川親王を通じて、血がつながっている可能性すらあるんですよ。まあそれを差し置いても、三島が王仁三郎から思想的な影響を受けていることは間違いありません。また、三島から派生する、寺山修司や美輪明宏、さらにそこからつながる丹波哲郎、江原啓之といった流れ、王仁三郎から遡って行くと現れてくるもう一つの皇統、そして富士山と宮下文書…ああ、もう妄想の暴走を抑止できません。
ま、こんなことばっかり考えてるから、私はお変人扱いされるわけですけど、これは性分だし、どうも自分の使命のようなものだと思ってしまっているので、しょうがないっすね。
と、話がぶっとんでしまいましたが、この松本健一さんの本は、一つの物語であると同時に立派なノンフィクションでもあります。結局、禁中のことは私たちが勝手にいろいろ想像するしかないわけですし、それこそがまさに日本の伝統的な民衆文化そのものであったわけですし、そこにこそ不可解な「天皇制」の意味があると思いますので。皆さんも、天皇についていろいろと妄想しつつ、そこに立ち現れる「自分」を楽しんでみてください。
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