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2007.05.03

『日本人としてこれだけは知っておきたいこと』 中西輝政 (PHP新書)

4762jhjh この本はかなり危険な香りがします。かなり香ばしい。私はその香りがどうも好きらしく、全然いやな気持ちにならなかったのですが、世の中の半分くらいの人は、吐き気を催すのではないでしょうか。
 帯に「なぜ日本人は戦前を否定するのか?」とあります。まあ書かれている内容はその通りでして、戦前、すなわち昭和初期、大正、明治、江戸…古代までの日本の素晴らしさを説いて肯定する本です。戦後アメリカおよびソ連の巧みな洗脳によってしみついた自虐史観に物申すということですね。
 当然そうなりますと、先の戦争への道筋も肯定せざるを得ません。実際、あの戦争に突入していく事情については、詳細に書かれている。私も初めて知ることが多く、なるほどと思わせる部分も多々ありました。しかし、どうも香ってくるんだなあ。いい香りが(笑)。
 京都大学大学院の先生ですから、それなりの研究成果に基づき、それなりの客観性をもって書いているのでしょう。しかし、論文体ではなく(慣れない)口語体で書いたからでしょうかね、どうも「私情」が前面に出てきてしまっているんですね。そここそが「香り」の出所であり、かつ吐き気を催す原因になっていると感じました。
 そういう意味では、後半の皇室論の部分も、ややロマンチックになりすぎているような気がしました。ここでも私はたくさんの新しい知見を得ましたし、感動すら誘われましたが、どうも筆者のエモーショナルな部分が「痛い」んですね。
 まあ、それは分かってるし、分かったよ、と。筆者が自虐史観や外国人の日本文化論や左派を徹底的に糾弾すればするほど、どうも筆者自身の愛国史観(本人はそう思ってないでしょうけど)や日本文化最高論(?)が、鼻につくようになってくるんですよね。で、何度も言いますが、私はそれを嫌いでないので、充分楽しませていただいたわけですけど、一方でちょっと心配になってくるんです。せっかくいいこと言ってるのに、この一方的な言い方だと誤解されるし、反対勢力を興奮させるだけだろうなって。
 そういう意味では、あの藤原正彦センセーの「国家の品格」や、鈴木孝夫大明神の「日本人はなぜ日本を愛せないのか」に比べますと、より原理主義的なイメージを与えてしまっています。では、いったい、このお二人の巨人と、中西先生のどこが違うのでしょうか。それはずばり「ユーモア」だと思います。そしてそこから発するであろう「かわいらしさ」だと思います(失礼)。
 でも、これってとっても大切だと思いますよ。ツッコミどころ満載で、そのツッコミすら呑み込んで、一つの世界観を形成する。そういう度量の大きさというか、器の大きさこそ、日本文化の根本的性質ですから。日本文化に原理主義は似合わない。
 というわけで、この本ですが、読んでどのような感想を抱くか、いや感情を抱くか。「全くその通り!」と思っても、「けしからん!」と思っても、あなたは原理主義に陥っている可能性があります。では、どういう気持ちになればいいのか。それを皆さんで考えましょう。勉強になりますね。

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コメント

香ばしくない、まともな保守の人って、なかなかいないんですよね。

投稿: 貧乏伯爵 | 2007.05.04 15:49

伯爵さま、こんにちは。
そうなんですよねえ。
保守もそうですし、もう一方もですね。
その香ばしさのおかげで楽しませていただいてますが。
キャラの立ったレスラーと思えば…。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.05.04 16:13

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僕だって日本人 日本の事は知っておくべきだろう ★★☆☆☆ タイトル:日本人としてこれだけは知っておきたいこと 著者:中西輝政 1947年生まれ60歳 専門は、国際政治学、イギリス史、文明論。 安倍晋三の著書である「美しい国へ」は中西がゴーストライターではな..... [続きを読む]

受信: 2007.06.06 00:02

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