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2007.05.06

『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』 福田ますみ (新潮社)

Decchiage 皆さん、記憶に残っていますか?当時、週刊文春が「『死に方教えたろうか』と教え子を恫喝した史上最悪の『殺人教師』」と報道した教師によるいじめ事件。朝日新聞はもちろんのこと、各社マスコミがこぞって「とんでもない事件」としてとり上げていましたっけ。そういう報道に最も慎重であるべき同業者である私も、すっかりその内容を信じてしまい、こりゃさすがにひどいな、と思った記憶があります。
 その事件がその後「とんでもない」方向に動いていたなんて、私はこの本を読むまで全く知りませんでした。その驚愕の内容もさることながら、マスコミのいいかげんな報道と、それを鵜呑みにしてしまう自分に恐ろしさを感じました。ですから、このルポルタージュ本を読む自分も、常に冷静に、そして半分は懐疑的でありたいと思うのです。しかし…。
 全く不謹慎だと思いますが、正直に申しますと、とんでもなく面白くて、信じられないほどのスピードで読みきってしまいました。そして、読後の気分は「この親狂ってる!」でした。また、私は振り回されているのでしょうか。
 結論から言えば、マスコミが報道した「教師のいじめ」の内容は、そのほとんどが該当生徒とその両親による狂言であり、結果として彼らと学校関係者、自治体の教育関係者、司法関係者、そしてマスコミ及びそれに躍らされる私たち一般市民による、「教師へのいじめ」であったということなんですね。それが裁判を通じて明らかになってくる。
 細かい内容は実際に読んでいただくとしましょう。あまりにぶっ飛んだ展開なので、皆さん唖然としてしまうことでしょう。ふぅ…あれだけ攻撃的に報道していたマスコミは、なんでこの裁判の過程をもっと私たちに知らせてくれなかったのでしょうか。この本がなければ、私も「この教師狂ってる!」で終わっていたでしょうね。
 あくまで仮定ですが、この本の内容が正しければ、この国の多くの人が病気です(私も含めて)。虚言癖はある一部の人だとしても、それを取り巻く「人権病」「偽善病」は相当広範囲にわたって感染していますね。こんな結果になる裁判にあたって、生徒側についた弁護士はなんと550人(!!)、教師側は最初0人でした。
 それにしても、よくこの先生死ななかったなあ。なんとなくこの本を読む限り、この先生のキャラというのもやや特殊な気がしてきます。悪い人ではないのでしょうが、どうも妙に冷静というか、奥手というか、正直もどかしさを感じる人も多いはず。まあ、あらゆる面で不運が重なりましたね。
 ちょっと前に、学校に対する親のイチャモン(無理難題・いいがかり)をとり上げた「悲鳴をあげる学校」を紹介しました。あの本では、「イチャモン」こそが連携の種になるという結論でしたが、やはり「イチャモン」を受ける方の対処が間違ってしまうと、取り返しのつかない事態に発展してしまうんですよね。特に最初の対応。
 自分もこの先生と同じ立場にならないとは限りません。この親と同じ立場には死んでもなりたくないですけど(笑)。ああそうだ、よくクラスの生徒と笑いながら話すんですけどね、今おまえらに対して言ってる内容を活字にしたら、これ完全に「教師によるいじめ」だよなって。確固たる信頼関係が出来上がっていると、お互い言いたいことを言い合えるものです。一見(一聴)、そこまで言っていいの?という発言こそが、お互いの距離を縮めたり、お互いの心を解放したりするもんなんですよ。ああ、こいつあぶねえ教師だな、と思った皆さん、現実はそれほど単純ではありませんよ(いや、ある意味単純なのかな)。それよりですねえ、単なる言葉狩りや、腫れ物に触るようなつきあいの方が、ずっと危険だと思っています。
 ただなあ、相手が狂ってる場合はどうでしょうねえ。狂ってるなんて表現自体問題かもしれませんけど、実際そういうのもあるわけでして…。まあ我々教師は、時代に対応していろいろなテクニックを身につけて行かなければならないわけですね。ふぅ…とにかく勉強になる本でした。気は重くなりましたけどね。

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コメント

これも早速読んでみようと思います。

投稿: 貧乏伯爵 | 2007.05.07 11:11

ぜひご一読を。
いろいろな意味で言葉というのは難しいですね。
物語が人をこれほど動かしてしまうとは…orz

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.05.07 12:36

「でっちあげ 福岡殺人教師事件の真相」の著者です。拙著をお読みいただき誠にありがとうございます。教諭寄りの書き方をしたことなど、いろいろご批判もあろうかと思いますが、著者の意を汲み取っていただきうれしく思っております。
さて、耳寄りな情報を一つ。原告側親子は3月5日付で、教諭への控訴を取り下げました。しかし、福岡市との控訴審は続行する構えです。ややこしい話ですので、お時間があれば、「公式サイト新潮社」の下段の更新情報「『でっちあげ』事件、その後」を参照ください。
教諭は、1審判決で形式上、勝訴となったため控訴の権限がありません。原告側の姑息なやり方にはあきれるばかりです。今後ともこの事件に関心をお寄せいただければ幸いです。

投稿: 福田ますみ | 2007.05.13 15:13

福田さん、コメントありがとうございました。
著者の方から直接お言葉をいただき感激です。
「『でっちあげ』事件、その後」読ませていただきました。
まったく、何と言ったら良いのか…呆れると言うよりも怖いというのが正直なところです。
ほとんど病的ですね。
本当に福田さんの勇気ある取材がなければ、私も何も知らないまま生きていたでしょう。
きっといろいろと難しい「力」が働いたことでしょうね。
よくぞ書いてくれました。
この事件のみならず、マスコミやジャーナリズム、教育界、法曹界、そして家庭までもが、何かおかしくなっている現代ですが、福田さんのような正義感にあふれたジャーナリストの方がいらっしゃることに、私は救いを感じました。
私も教育者の端くれとして、また親としても、この問題はもちろん他人事ではありませんし、メディア論、物語論に興味のある者としても、今後とも充分に注意を払っていきたいと思っております。
また、何か情報がありましたら、どうぞ書き込んでください。
私も何かできることがあれば、協力を惜しまないつもりです。
がんばってください。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.05.13 18:41

ご丁寧にありがとうございます。恐縮です。
本書にも書きましたが、教育現場の現状に疎い私にとって、この事件は本当に衝撃でした。こうした冤罪(私の取材ではどう考えてもそう思わざるを得ません)をいとも簡単に許してしまう現場の体質やマスコミ、社会の構図にも改めて驚きました。
普通、良からぬ意図をもった人間が語る虚偽の物語には、どこかで誰かが「おかしい」と気づいて歯止めがかかるはずだと思うのですが。やはり何かが狂っていると思います。
今後も続報があればお知らせしますので、よろしくお願いします。

投稿: 福田ますみ | 2007.05.16 20:41

福田さま、再びコメントありがとうございます。
そうですね、物語には大きな力があります。
その力は良い方向に向く場合もあれば、
今回のように、あるいは戦時のように、
悪い方向に行く場合もありますね。
やはり、メディア・リテラシーといいますか、
批判的物語受容力といいますか、
そういうものを身につけねばならないと思います。
それこそが教育の役割でもありましょう。
その辺りもふまえまして、今後とも考えていきましょう。
ありがとうございました。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.05.16 21:39

TBさせていただきました。

本当にただただ驚くばかりで、もし自分が同じような苦境に立たされたら、この先生のように戦えるか自信がありません。

投稿: タウム | 2007.10.04 00:26

タウムさん、こんにちは。
まったく恐ろしいですね。
私たちがどれほど情報に振り回されているか。
そして病的な嘘つきの存在…。
あっ、TBが来てないようです。
もう一度試してみて下さい。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.10.04 14:33

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