『いちばん大事なこと−養老先生の環境論』 養老孟司 (集英社新書)
昨日も「コト」と「モノ」の話を書きました。思い通りになる「コト」と思い通りにならない「モノ」っていう、いつものやつです。今日もそれです。しつこいと思わないでおつきあいください。
私はここのところ「これからは心よりモノの時代だ」と言っています。「心」とは「意識」であり、自己の内部のことです。そして「コロコロ」変わります。言うなれば「want」の世界です。あれが欲しい、これが欲しい、あるいは「〜したい」ということです。この前、植木等さんの追悼番組を観ていたら、「やりたいことと、やらねばならないことは違う」というような話が出てきました。やりたいことというのは「コト」ですね。で、やらねばないないことは、たいてい自分の外からやってくる「モノ」であったりします。自分の「やりたいこと」、すなわち自分の内部ばかりに目を向けていると、それが実現されなくて不快になります。また、想定外の「モノ」を排除しようとすると、それもまた不快を招きます。ですから私は、内側にこだわらず、外には開いていこう、と言っているわけです。「コトよりモノの時代」「心よりものの時代」…世間とは逆のことを言ってますね。でも、実は単純な理屈ですし、数千年前にお釈迦さまも言ってますね。自己を滅して縁の中に生きよう、と。
養老先生もいつも同じようなことを言っています。ただし、切り口が違うので説明に使う言葉は私とは違っています。今回の養老節で言えば、「コト」=脳・意識・人工・都市・大人・スルメ、「モノ」=体・自然・田舎・子ども・イカ、って感じですかね。近代社会、科学文明というのは、言うまでもなく「コト」に向かったわけです。思い通りになるように。養老先生はそれを「脳化」「都市化」と呼んで憂えている。
こんなんですから、私は、この本で展開される、養老先生流の「環境論」に大賛成です。自然保護原理主義って絶対おかしいと私も思いますし、養老先生のおっしゃる通り、環境問題は最大の政治問題に違いありません。自分の体さえも、意のままにならない「自然」そのものだというのも納得。産業革命が環境破壊を招いたのではなくて、環境破壊が産業革命を招来したというのも、たぶんその通りでしょう。「モノ」が持つ、「可変性」「無常性」「多様性」に対して、私たちはそれらを「コト」にするようにコントロールするのではなく、相手を理解しようと努め、空気を読み、「手入れ」という発想で臨む。そして、どうしてもダメならなんとかやりすごす。私もそんな感じで「モノ」とつきあうのが好きです。
繰り返しになりますが、私は自分の思い通りにならないことを楽しむようにしていますし、そこからいろいろな智恵を学んでいるつもりです。それが結局「他力」を呼んだり、要領の良さとして表れたりしてですねえ、なんか得する生き方のような気がするんです。仕事上もそうです。先生ってどうしても生徒を思い通りに動かそうとするじゃないですか。それでたいていうまくいかなくてストレスためちゃう。私も昔はそうでしたが、今ではそういうのとは無縁になりつつあります。まあ、こまごましたことはいろいろありますけど、それは忘れればよい(笑)。
とにかくこの本は面白かったですね。養老さんの本はだいたい面白いし、目からウロコってことが多い。でも今回はそれだけではなくて、ずいぶんと勇気づけられました。最近環境問題でいろんな人と意見が食い違うことが多かったんですけど、少し自信を取り戻しましたよ。皆さんもぜひお読みになってください。
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