『こんなに楽しい江戸の浮世絵』 辻惟雄ほか (東京美術)
江戸の人はどう使ったか
最高!面白い!勉強になるし、全編にわたり、やっぱりねと納得すること多数。この本は買いでしょう。
まあ以前から江戸の文化には特段に興味を持っていた私ですが、特に先日さくらんを観てからというもの、その現代性というか、いや違うな、現代的なのではなくて、普遍的なんだよな、つまり、今も昔も人間なんてそうそう変らないと、そういうことに気づいて、俄然勉強したくなっちゃったんです。で、いかにもワタクシ好み風なこの本をまずは買いました。
この不二草紙をご覧の方はよくお分かりと思いますが、まさに古今東西・硬軟聖俗、共時的にも通時的にも、人間なんてみんな一緒、いろいろと分節して分かったような気になるのではなく、全体を俯瞰して本質に迫っちゃおうというのが、私の基本的に姿勢です。
ま、あの「萌え=をかし論」なんて、その最たるものでしょうね。あれに関しては、おかげさまで各方面から賛否さまざま賜っております。とりあえず、いろんな方の脳ミソに一石を投じることができた(なんか怖いなw)と。
昔のものを今風に料理して見せるというのは、たとえばアカデミックな世界では禁じ手になっていますね。非常に安易な感じがするからです。でも、人間って1000年やそこらで大きく変ってしまうものなんでしょうか。
今日も枕草子を授業でとりあげましたが、あれなんて、ホントいかにも女性的な「カワイイ〜」的感性の産物ですし、対する源氏物語も仏教的教訓で武装はしておれど、やはり女の子のミーハー心やエッチ心をくすぐるように書かれていますよね。誰ですか、あれらを高尚な文化に仕立て上げてるのは。あっ、我々教師たちか(笑)。
ま、もちろん、私は全てがポップだとは言いませんけど、ただ一つ言いたいのは、「昔の人間の方が高尚だったなんて許せない!」です。そう、今も昔も男も女も、みんなスケベで、金や権力に目がなく、あやしい宗教とかについついだまされちゃう、そんなもんでしょう?そこを起点にして、つまり自分を起点にして、自分と彼らを分断しないで感じて行きたいんです。
浮世絵なんか一番の被害者ですよねえ。芸術とか美術とか言われちゃって…。あれなんてまさにマンガやアニメと同次元ですよ。誰ですか、祭り上げちゃったの。あっ、フランス印象派の方々か(笑)。
さあ、こんなんですからね、この本はまさに私のためにあるようなものですよ。サブタイトル「江戸の人はどう使ったか」とありますように、あくまで「実用品」として浮世絵をとらえます。観賞する芸術ではない。で、その解説や案内が実に洒落ている。まさに江戸以来の「洒落」の系譜上にある。
監修者の辻惟雄先生は言うまでもなく、日本美術研究の第一人者ですし、実質メイン執筆者の浅野秀剛さん(SHUGO先生)や、彼をとりまく女性、田辺昌子さんや湯浅淑子さんも美術館や博物館のバリバリ学芸員でいらっしゃる。そういうある意味アカデミックな方々が、こうした本を作ったというのは、実に画期的だし、刺激的なことだと思います。きっと、研究の中での御自身の実感を具現化しただけだと思いますけどね。やっぱりそういうものだったと。
みなさん、現代的でポップなカタカナ語や英語まで駆使して、浮世絵の魅力を掘り起こして行きます。ファッションあり、エロスあり、ホラーあり、ファンタジーあり、スプラッタあり…。たしかに今と全く変らない。繰り返しになりますが、これは江戸文化が現代的だったのではなく、単に今も昔も人間はそうそう変らないということですからね。そこんとこ間違わないように。
今こうして当時の最先端の「商品」たちを見ますとね、まるでインターネットのなんでもありの世界に近いかのように感じます。欲望を情報に変換し、そしてそれで遊ぶ。ちょっと邪悪な心や秘密っぽいところを皆で共有しつつ、本能的かつ経済的な衝動を昇華していく。うん、これはまさち2ちゃんねる的世界だ。
簡単に言えば「オタク文化」花盛りってことでしょう。そう考えますと、「萌え」と平安の「をかし」を結びつけた私は、今度はその間を埋める作業をしなくちゃなりませんね。人は無常なる「モノ(自然)」の性質から目を背けるために「コト(情報)」に執着するのだ…これを多角的に証明するのが、私のライフワーク(おおげさ?)だと思いますんで。
しっかし、ホント面白いですね。妄想力で平和を保つ…これって最強でしょう。江戸は最強の平和を獲得していた。ああ、私なんか江戸に生まれたら良かったのに。きっとああしてこうして、ああなってこうなってただろうな…と早速妄想しております(笑)。
Amazon こんなに楽しい江戸の浮世絵
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