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2007.03.16

『悲鳴をあげる学校』 小野田正利 (旬報社)

親の“イチャモン”から“結びあい”へ
Himei いい本でした。仕事上参考になること満載。そして、親として、大人として、人間として、考えさせられる内容の本でした。
 イチャモン(無理難題・いいがかり)増えてるようですね。幸いにしてウチの学校は伝統的に平和なので、あんまりそういう事例は発生していません。でも、こんな田舎でも、保育所や幼稚園、小学校、中学校なんかでは、けっこう激しくなってきたとか。知りあいの先生たちの弁、「子どもより親の方が大変だ」。
 さて、イチャモンという言葉ですが、もうほとんど共通語化しておりますね。しかし、元は関西弁です。関東よりも日常的に使われているようです。関東だと、なんとなくその筋の方々を想像してしまいます。語源はよくわかっていないとのことですが、私の勘では、「いちゃ」は古語の「いさ」だと思いますね。大昔は「さ」は「チャ」と発音しておりました。「いさかい」って言うじゃないですか。漢字で書くと「諍い」、まさに読んで字の如し、「言い争う」という意味です。その「いさ」じゃないですかね。古語「いさかひ(動詞はいさかふ)」の「かふ(かひ)」は「交ふ(交ひ)」でしょう。「互いに〜する」という意味です。で「いちゃもん」の「もん」は「もの」の音便か、「文句」の「もん」でしょうかね。
 さて、そうしたイチャモンを引っさげて学校に乗り込んでくる親が増えていると。「校庭の砂ぼこりで洗濯物が汚れた」「運動会がうるさい」「あの子の親と私は仲が悪いので子どもたちを別のクラスにしてくれ」「なんで遠足を延期にした」…こんなのは序の口です。もっと過激でおかしい例がたくさん挙げられてますよ。イチャモンスターペアレントですね(笑)。
 著者は教育現場の「いちゃもん」研究家として有名です。大阪大学大学院の教授をされています。私は先月の初めにNHKのクローズアップ現代で小野田さんを初めて知りました。その番組も「要求する親、問われる教師」というタイトルで、この「イチャモン」増加に関する内容でありました。そこでは、けっこう悲惨な状況、たとえばイチャモンによって自殺に追い込まれた校長先生の話なんかも取り上げられていて、現場の一教師としては、なんとも暗鬱な気分になったのを思い出します。しかし、その時も小野田さんは、具体的な対処方法について語ったり、さらに一歩進んで、そうした「イチャモン」を親からのメッセージととらえよう、というような前向きな発言をしたりで、私は、ああこの人はそのへんの理屈だけの学者さんや、ただ不安を煽る偽善者さんたちとは違うな、と思った記憶があります。そして、この本を見つけて購入してみたというわけです。
 この本の内容は、番組を観て私が感じたイメージそのものでした。小野田さんは、現在の「教育を取り囲む状況」(「教育現場」ではありませんよ)を憂えており、単純な学校批判、教師批判、保護者批判には陥っておりません。あくまで、現場の状況を実地に収集して、その背後に何が起きているのかを分析する姿勢を貫いています。そして、そこに見えてくるのは、「学校改革病」、すなわち教師や保護者や子どもたちの「心の病」だったのです。
 私も仕事柄よくわかるんですが、イチャモンに限らず、必要以上に攻撃的な人、批判的な人、あるいはいじめの加害者というのは、かなりの「さびしがり屋さん」です。ネット上の掲示板なんかそのシンボルですね。ホントみんな極度にさびしがり屋なんです。何かの形で仲間(っぽい人たち)と固まりたいと思いますし、そして小野田さんも指摘していますが、結局は矛先ともコミュニケーションしたがっている。そういう意味では、こういうことは学校だけでなく社会全体に起きていることです。
 学校というところは、まるで善意の塊のようなイメージがあります。公的なサービス機関のような気がします。さらに先生はエライ人ではなくなっていまして、明らかに社会的弱者です。立場上ペコペコしがちですし、なんとなくいじめても反抗してきそうにない。つまり大人のいじめの世界のターゲットになりやすいんですね。
 学校、中でも保育園や幼稚園、小学校でイチャモンが多いと言います。それもよく分かりますね。子どもが可愛い盛りですよ。異常な溺愛、小野田さんは「自子中心主義」と書いていましたが、親たちが、そういう一種の病気の状態にあるんです。それって単に子どもに依存してるんだと思いますけどね。
 で、中学生、高校生にもなると、親も手に負えなくなりますからね、今度は学校の先生にお願いしたくなるんです。場合によっては、「こんな子どもたちを何十人も面倒見て、センセイはエライ!」なんて、手のひらを返したようにさえなります。
 この本を読んで強く感じました。これは親の心の病が主たる原因だなと。大人、それも20代から40代前半くらいまでの大人(自分も含めて)がおかしいんですよ。で、それを自覚してしまったそういう世代の大人たちは、すぐに他人のせいにする。やれ、先生が悪い、学校が悪い、社会が悪い、あの子が悪い、あの子の親が悪いって。自分も含めて大人は反省しましょうよ。そして、自分を鍛えて病気を克服しなくちゃ。さびしんぼうはカッコ悪いっす。寂しくてもたくましく生きていくことはできますし、その前に殻を破れば心から他者と関わり合えるはずです。
 この本では、こうしたイチャモンこそが連携の端緒になりうるという結論に至っています。さっき書いたように、みんなつながりたがってるんですね。ですから、イチャモンを受ける方も、その裏に潜む本当のメッセージを受け取る努力をしなくてはなりません。そのための具体的な方法もしっかり紹介されているのが、またこの本の立派なところです。私も参考にしたいと思います。
 この本を読んで、自分の立場というのを再確認できたような気がします。私はイチャモン(ある意味いじめ)の加害者にも被害者にもなる立場の人間なんだなと。親であり、先生であるわけですから。いや、私に限らずあらゆる大人がそういう立場なんでしょう。やる可能性もあるし、やられる可能性もある。単にそれに気づけば、こんな馬鹿げたコミュニケーションではなくて、もっと平和なつながり合い、結び合いができるんじゃないでしょうか。
 なんか、子どものいじめについての論議と同じになっちゃったな。大人よ!まずは自らを正したまえ!
 今日はなんか興奮してハチャメチャな文になっちゃいました。

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コメント

 4月から、イチャモンその他よろず相談処理係りになるので、買って勉強したいと思います。

投稿: 貧乏伯爵 | 2007.03.17 13:07

ありゃりゃ、それは大変ですね。
この本で紹介されている対応策は、即効性があるものではありませんが、冷静に考えるとそのようにじっくりやるしかないのかもしれませんね。
難しい時代ですね。
生徒もそうなんですが、反抗って甘えの裏返しなんですよね。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.03.17 13:24

 ブログ再開しました。まずはご報告。

 イチャモンねぇ。(^_^;) ちょうど嫁が小学校の教師なので、まさに身近な問題です。親も必死ですから、気持ちも分からなくは無いのですが、自宅にまで電話をかけてくるのはやめて欲しいですね。それが夕食中だったりすると、相手の親もさることながら、何故か律儀に応対している嫁に対しても、「後にしろっ!」と、怒鳴りたくなります。いけませんね。その時の私の心理状態は、親御さんと嫁の双方に対して、「公私の区別を付けなさいよ。」と、苛立っているわけなのですが、いつも心の中にしまっております。人間相手じゃ仕方がないッス!

 ご紹介の本、面白そうな本なので、早速嫁に買ってやるかな。

投稿: LUKE | 2007.03.17 21:10

LUKEさん、ブログ再開おめでとうございます!
楽しみにしてますよ。
ああ、そうでしたよねえ。奥様小学校の先生でらっしゃる。
本当に大変でしょう。
そう、教師は律義が当たり前な存在なんですよね。
私なんかテキトー教師なんで、あきらめてくれてるのか、いやそれ以前に高校だからでしょうね、あんまりイチャモンが来ませんけど、生徒も親も甘えが強くなっているのは感じますよ。
この本にもでてきますが、そういう部分にまで律義なのは、日本の先生だけだといいます。
それがいいのか,悪いのか、よくわかりません。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.03.18 08:09

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受信: 2007.06.27 21:34

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