『ぷちナショナリズム症候群』 香山リカ (中公新書ラクレ)
若者たちのニッポン主義
これまた今さらという本ではありますが、ささっと読んでみましたので感想など。
最近また若者やネット社会の右傾化ということが言われますね。本当でしょうか。私はある世代から見ればまだまだ若造ですし、ネットもよくやりますからね、右傾化していてもおかしくないわけです。で、実際どうかと言いますと、やはり右傾化していると、たとえば父親なんかに言われるわけですね。右傾化という言い方はされないが、しかしやや左シンパの父親からすると、大変に違和感があるらしい。
じゃあ、もっと若者、高校生たちはどうかと言いますと、これはもう全く何も考えていない。右か左かと問われれば、「右利きですよ」と答えるのが普通でして、お前ら右傾化してるぞ、と言われても何のことかサパーリ分からずキョトンとしています。
香山リカちゃん(ってことですよね)は、まさにそういう何も考えていない愛国ムードを「ぷちナショナリズム」と読んで憂慮しているわけですね。いずれフランスみたいになるんじゃないかと。
どうなんでしょう。私なんか、いちおう右も左もよく分かっている上で、ソフトな右派を標榜してはばからない輩なんですが、そんな張本人の実際の心の中はやはり「何も考えていない」なんですね。そういう対立軸に関する知識や思索は、ある意味人よりも多い方かもしれません。仕事や趣味の関係上ね。でも、頭と心は違うんですよ。語弊を承知で言えば、ファッションとしてライトな(軽い)ライト(右)を着こなしているという程度なんです。
なぜそういう服を着ているのか、それを分析してみますと、単にその方がカッコいいし気持ちいいからですよ。それと、やっぱり流行というのもありだと思います。自分の延長としての国家を肯定したいんです。自己否定がはやった時代もありましたが、今はその反動もあってか、そういう暗いのってダサいんですね。でも、単純馬鹿な発想からすれば、肯定の方が健康的じゃないですか。世の中が、そういうムードなんですよ。
2ちゃんなんか、あの街は渋谷や原宿以上にファッションにうるさいですからね。同じ格好して同じ言葉使わないと排斥されちゃいますからね。そりゃあ、ああなりますよ。かと言って、あそこで過激な発言している連中が、日常で思想的行動をしているかと言うと、それはほとんど皆無でしょう。渋谷でラッパー風の格好してるからって、みんながみんなラッパーじゃないってのと同じです。
では、そういうライトな似非思想というのが、ヘビーな思想になる可能性があるのかと言うと、ずばり「ある」と思います。それは実際にそういう歴史があったから、可能性は当然ゼロではない。しかし、流行がそのまま成長して本物になるかというと、それはまあ「ない」でしょう。つまり、当たり前ですが、国家なりなんなり、別の主体の意思が働いて、それに乗っかって本物風になっていくことはあると思うんです。でも、それはあくまで「本物風味」であって、「本物」ではない。
そこのところなんです。リカちゃんの憂慮するぷちナショナリズムの発展形は、その「本物風味」なんですね。その憂いが実現するためには、外部要因が必要なのです。私たち大衆には、心配するほどの主体性はありません。本物の思想をするほど、大衆は賢くないんです。いや、本物の思想家になったら、もうその時点で大衆じゃないっすよね、考えてみれば。
ですから、私たちが心配すべきは、大衆のそうしたファッション傾向ではなくて、主体たる可能性のある、もう一方のファッショ傾向なのです。もちろん世の中では、そっちの心配もたくさんしていますね。小泉さん以上に安倍さんは心配されちゃってますし。それでも、こういう軟弱な大衆社会になっちゃったら、いくら主体が笛吹いても、私たちは踊りませんよ。せいぜい2ちゃんで吠えるくらいが関の山です。
てな感じで、どうもこの本を読んでもピンときませんでした。だいいち、リカちゃんの話、ほとんどが他人の意見の引用と、ちょいと無理のある物語に終始してて、全然説得力ないんだもん。まあ、そもそもリカちゃん自身、それほど心配してないのかもしれませんね。ただ、流行にうまく乗れない自分の気分を慰めるために書いたのかもしれません。大衆に「集団気分」を催すほどの力はなく、まあ流行通信程度の本だということでしょうか。あっそうそう、齋藤孝批判は的を射てました(笑)。
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