『「世間」とは何か』 阿部謹也 (講談社現代新書)〜世間=空気?
私はフツーに2ちゃんねらーなのですが、2ちゃんの住人として常々思うのは、ああここは日本だな、ということです。何を言いたいのかと申しますと、そう、匿名掲示板にさえ「世間」が色濃く存在するということです。いや、あそこでの「世間」感は、リアル村のそれよりも強いかもしれない。つまりは、「空気を読む」ことが異様なほどに重視されているということです。
そのために、2ちゃんには高い高い城壁やら堀やらが巡らされる結果になっています。住人になるにはある種の経験と努力と勇気が必要ですし、その住人にもかなり明確な身分制度があるように思われます。すなわち、発言の頻度や影響力によって、たとえそこが匿名空間であれ、その人に対する格付けが行われているわけです。その格付けは決してパブリックなものではありませんが、住人個人にはプライベートなレベルにおいて、ある程度はっきりとした自覚のようなものがあります。
ある意味そうした「世間」的なもの…つまり「世間体」から解放されるべき空間であるはずのインターネットの掲示板までが、なぜこのような濃厚な状態になっているのか。2ちゃん村を渉猟して歩きながら、そんなことを考えたんですね。なんで、こんなにも不自由な村に好き好んで出入りしているのだろう。
なかなか答えが出ないので、むか〜し読んだこの本を図書室から借りてきまして、ちょっと復習してみました。ああ、そういえば著者の阿部謹也さん、昨年亡くなったんですね。まだまだお若かったのに。ケンカもしたけれど、結局影響を与え合った網野善彦さんの後を追うように逝ってしまわれました。あの世には世間とか、東洋とか西洋とかあるんでしょうかね。
おっと、話があっちに逝ってしまった。え〜と、そう、この世の世間ですよ。西洋を学んだ阿部さんの視点は、あくまでこの「世間」というヤツを対象化します。西洋における「社会」と「個人」を研究するがごとく、「世間」とは何か、と問いかけるわけです。で、専門家もびっくりの旺盛さで、古代から近代までの日本文学を分析していくわけですね。
ところが、面白いですね。まあ私の読解力がないのかもしれませんが、結局「世間」とは何かということが判明しないで本書は終了するんです。ただ、日本(だけ)にはそういうものがあるんだ、間違いなくあるんだ、で終わってる感じなんです。
それで、がっかりしたかと言うと、そういうわけでもありません。つまり、2ちゃんにも存在する「世間」とは、まさに「空気」であって、目に見えたり、システムになったり、言葉になったりしないんですね。理屈じゃない。みんなで醸す「空気」であって、常に変化する可能性がある。そう、つまり、私の言うところの「モノ」なのです。「コト」ではなくて「モノ」。縁起し、無常である存在。いろいろな意味で時間に依存する、すなわち、現在から未来へは不測の変化が100%起きるけれども、それは100%過去の「コト」の上に成り立っている。「モノ」とはそういうものなのです。だから、世間というのもそういう性質を持つと私は考えます。
西洋の「個人」は自我に基づいた存在ですから、ワタクシ的には随意な「コト」に属します。そして「社会」はあくまでも「個人」の「コト」を守るための組織です。論理や科学や法律という「ことわり」を使って個人の「コト」を守るんです。それに対して「世間」は「個人」にとって完全に不随意な「モノ」です。日本ではそちらが自然に発達した。一見不安定そうな「モノ」の集合体。実はその曖昧性が互いの緩衝になって安定した歴史を築いてきたんだと、私は思いますね。
そうして、日本ではここでもあそこでも、常に「空気を読む」ことを要求されるのでした。「空気を読む」とは「現在の観察」であり「未来の予測」であり「過去の読解」であるわけです。日本人はそういうことをずっとやってきた。「もののあはれを知る」というのは、結局「空気を読める」ということなんですね。
と書いたところで、土佐日記の一節の新解釈を思いつきましたが、それは明日にしましょう。なんだか阿部さんの本の内容からかけ離れちゃったな。
Amazon 「世間」とは何か
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