『不都合な真実』 アル・ゴア (ランダムハウス講談社)
父から借りてきました。単純な温暖化説にはとことん懐疑的な私です。したがって、この本にも懐疑的です。
私は科学者ではありませんので、ここでは科学的な反論はしません。ほかの方におまかせします。私はちょっと違った視点から考えてみましょう。
まず非常に単純な、そして利己的で不謹慎な実感から。今年は暖冬でして、ウチのようなメチャクチャな寒冷地では、非常に住みやすい冬を過ごさせていただきました。ああ、温暖化すると暖房費が浮いていいな、ウチのCO2の排出量も減ったな。間違ってませんよね。
このあたりや、東北地方なんか、縄文時代はずいぶんと暖かい期間もあったようです。いわゆる縄文海進の際には、海面も今より5メートル近く高かった。しかし、そこから1万年ほど遡ると、今度は大変な海退期です。なんと今より130メートルくらい海面が低かったとか。
もっと遡ると、このあたり、現在では海抜1000メートルを越えるんですが、海の底であった時代もある。サメの化石とか平気で出てきますからね。土地が隆起したこともあるんですが、今よりかなり温暖で海面もかなり高かったようです。
と、こんな程度の知識でも、今の論議のスケールがいかに小さいものかわかります。この「不都合な真実」には多くの資料が提示されているわけですが、どれもこれもここ数十年というスケールに限ったもので、私のようなアマノジャクには、それこそ不安を煽り集団気分を醸成するための、悪意ある演出にしか見えません。
もちろん、ここ数十年の地球の平均気温の上昇率はたしかに高い。それにCO2の増加が関わっている可能性も高い。だから、ここで提示されている資料たちを疑うことは基本的にしません。しかし、それらが全てだとも思わないということです。
たとえば、ここ数十年並みの急激な気温上昇は数十万年前にもあったようです。その時もCO2が急増しているんですが、当然その時は現代人はいません。では、その時はいったい何が原因でCO2が増加したのか。それすらよく分かっていないのです。その時のCO2の増加率と比べると、現代のそれは確かに高い。そこに私たち人類が加担しているのも確かでしょう。しかし、その増加率の割に、気温の上昇率は数十万年前の温暖化の時より低いようです。そのあたりもなかなか説明できません。
ようは、事態は単純ではないということです。マクロ的に見れば、我々の責任で温暖化するかもしれない、しかし、隕石でもドカンと落ちればたちまち氷河期です。あるいは太陽の活動が活発になれば、人間による温暖化とは比べ物にならないほどの高温化が進む可能性もあるわけです。
いずれにせよ、私たち、いや全ての生物たちは、気候の変化に対応しながら、住む場所を変え、ライフスタイルを変え、体を変えてきたわけです。海面が後退したから、今まで住めなかったところに移動した、しかし、またそこが海になろうとしているとなると、突然困った、なんとかしろ、と言う、そういうのはなんか自分勝手のわがままなような気がします。ちなみに私は将来を見据えて標高1200メートルに居を構えました(笑)。もし予想がはずれて寒冷化したら、単に暖い地方に移動するだけです。
誰か変わり者の学者さんが言ってました。もうこのまま石油なんかも全部使い尽くせば、人間も減るし、いずれ温暖化も止まると。まあ、結局そういうことでしょう。一部のずる賢い人が偽善的にふるまい、それに一部の純真で愚かな人が盲従する、という状況こそ、人類にとって危機的なことなのかもしれません。全ての「コト」は政治と経済のために産み出される。この世は「モノ」だらけなのに。いけませんね。
そういうことを学ぶ教科書としては、この本は学校でも大いに使えると思いました。ハイ。
Amazon 不都合な真実
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コメント
「CO2問題」がすりかえようとしている真の問題を見失ってしまうのに注意しなくてはなりません。今現在の欲望を、目先の変わった少々スマートな欲望に切り替えていくだけになってしまいます。
で、たぶん直球ど真ん中と思う結論です。
現行の政治経済を主導する賢者の皆様にとって一番恐ろしいのが、足るを知る心です。あるいは、庵主さまが以前ご紹介になった、幸福の追求には責任が伴うというブータン国の国是です。ここから始まる議論だったら、実のあるものになるのでしょうに。(賢者の皆様にとってはみもふたも無いものかな?)
投稿: 貧乏伯爵 | 2007.03.12 11:11
ええ、直球ど真ん中です。
私、(ジャイロボール並みに?)ずいぶんとぼかして言ってますが、それは身近にも賢者(&愚者)の方がいらっしゃるからです(笑)。
父親とも必ず喧嘩になります。
いずれにせよ、本当のことを言うに憚られるというのも、まあいつの世も同じとは言え、いやなもんですね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.03.12 13:13
困った直球でした。申し訳ありません。
せっかくの庵主様のご配慮が台無しです。
普通の考えの方々には、「それを言っちゃあお終えだ」、という感じを与えてしまうでしょう。
コメント削除していただきたくお願いいたします。
以後、注意いたします。
投稿: 貧乏伯爵 | 2007.03.12 16:56
いえいえ、大丈夫ですよ(笑)。
私のかわりに言っていただいて恐縮です。
私のは配慮じゃなくて「勇気がない」…でもなくて、実は変化球のすっぽ抜けの危険球狙いですから(?)。
真綿で…ってやつです。
ですからナイスストレートでしたよ!
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.03.12 17:04