おかたぶち講(富士吉田市向原地区)
今朝、クレマン・ジャヌカン・アンサンブルのコンサートの模様がテレビで放映されてまして、なんとなく見ていたんですね。それが終わって、さあそろそろ出勤しなくちゃ、と思っていたら、ティリリ〜ティリリ〜♪ってあの曲が流れてきまして、見慣れた富士山が画面に。NHKの「小さな旅」が始まったのです。国井アナが訪れたのは、地元富士北麓の富士吉田市小明見の向原地区です。4日に放送されていたんですね。今日のは再放送でした。
この地区は、民俗伝承や古い風習が色濃く残っている地域でして、私も何度か生徒と遊びがてらフィールドワークしたことがあります。というのは、私の取り組んでいる「宮下文書(富士古文献)」で展開されるドラマの中心的な舞台にもなっているからなのでした。まあ、そういったトンデモ伝承は、最近では当地の人もあんまり知らないようですけれど。写真でおわかりになるとおり、富士山の手前に小さな山がありまして(古代富士王朝の中央政庁があった!あたりです)、そのおかげで、噴火の際も溶岩流が流れませんでした。そういうところには旧石器時代から集落が形成されています。縄文、弥生、平安、鎌倉、江戸と、各時代の遺跡が多数発見されています。そういうところなんです。
で、番組では前半、当地で盛んな(盛んだった)織物業に関すること(これも元を辿れば「徐福」に行き着くんですけどね)が、後半は小正月の行事が紹介されていました。この地域では道祖神信仰が盛んでして、それにまつわる「ご神木」「ほうこう」「おかたぶち講」「どんど焼き」などを見ることができました。そうそう、先週は節分の豆まきが行われましたが、向原の豆まきもなかなかユニークなものです。
「おかたぶち講」は今回初めて動く映像で見ました。生徒からは「自分もやった」とか、いろいろと話を聞いていました。なんか面白い行事だなと思っていた。こんな感じなんです。前年に結婚した新婚さんの家に、中学生が扮する神様(天狗やおかめのお面をかぶっている)が訪れ、棒で畳をたたく。まあちょっと暴れるわけですね。で、家の主人がお金をつつんでお盆に載せて渡すわけです。それを受け取った神様たち(子ども)は中身をチェックしまして、これじゃあ足りないとばかりに、のし袋を投げ返したり、お盆ごとひっくり返したり、まあさらに暴れるんです。もっとよこせと。新婚の婿と嫁はただ困って座ってるばかり。それを取り囲む親戚衆や近所の衆は、威勢の良い野次を飛ばします。それがまた楽しい演出になっていたりします。それで、家中のお金を集めてきました、とかなんとか言って中身を増やして行くんですね。で、ある程度になったところで、神様たちも納得し、無病息災、家内安全、子孫繁栄なんかを約束して帰っていきます。
これって、やっぱり日本全国にある「神様の家庭訪問」の形ですよね。神様が乱入して大暴れして、それを一家の主が供物やお酒やお金で解決するというのは、たとえば秋田なまはげとも共通しています。昔は人身御供もあったんだろうなあ。
「オカタブチ」というのはどういう意味なんでしょうね。「お方」というのが「お嫁さん」だというのはなんとなく分かります。「ブチ」は「打ち」でしょうか。それとも「扶持」でしょうか。「嫁の座」だという説もあるようです。まあ、とにかく、新しいお嫁さんを迎えるちょっと荒っぽいセレモニーなんですね。お嫁さんは子どもを産み、地域を未来を担っていかなくてはならないんですね。そういう大切な人(遺伝子)を外から迎えるわけです。こうした激しさによって一気にこちら側の共同体に引き込んでしまう、そういう風習は全国に残っています。ある意味、日本の共同体の間に引かれた境界線の濃さ、強さを感じますよね。
こうした「おかたぶち講」や類似のものは、長野の佐久地方や山梨の奈良田などにも残っているようです。いずれも落人伝説の色濃いところです。てことは西から来たのかな、この風習。そして、それぞれの地域によってそれぞれのスタイルがあるんですね。そういうのを見て歩くのも楽しそうだなあ。ま、いずれにせよ、こうして共同体に守られる、世間に囲まれている個人というあり方こそ、今見直されるべきものだと思いますよ。比較的そういうものから遠いところで生活してきた私は、ちょっとうらやましく思いながら番組を見ていました。ま、原住民の生徒に言わせると、それがうざったいらしいですけど。
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コメント
早朝は本当にいい番組をやっていますね。
投稿: 貧乏伯爵 | 2007.02.09 17:40
そうそう、早起きは三文の徳ですよ。
静かにいい番組を見れるだけでも、起きる価値ありです。
夜遅くにやってる番組は見なくてもいいようなものが多いような。
深夜アニメなんかは録画しといて、早朝に見るのがいいんじゃないでしょうか。
そう、楽しみな番組をあえて、リアルタイムに見ないで早起きのモチベーションに使うっていう手もあるんですよ。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.02.09 19:48