『リンゴの唄』 並木路子
義理の妹の旦那さんが秋田の増田の方でして、毎年御実家からおいしい真赤なリンゴが送られてきます。そのリンゴの名産地増田で撮影されたのが、戦後初の映画「そよかぜ」。そして、その中で並木路子さんが歌ったのがあの「リンゴの唄」です。
私のような戦後世代でも、この曲はよく知っています(でも、1番だけだな)。映画も第1号なら、歌の方も戦後歌謡曲の第1号と言えましょう。毎年終戦の日になりますと、どこかのテレビやラジオで必ずかかっていますね。そういう意味では、今ではまるで夏の風物誌のようです。しかし、実際「そよかぜ」が封切りされたのは10月11日ですので、この曲がヒットしたのは、寒さの厳しい頃だったようです。寒々とした焼け野原で、いったいどれほどの人々がこの歌を口ずさんで頑張ったことでしょう。
実は、来月の歌謡曲バンドのライヴで、この曲をやろうと思っているんです。そのライヴのお客様はお年よりの方々がほとんどだということなので、今回は戦後の歴史を歌謡曲でふり返ってみようかと考えているところなんです。ですから、この曲ははずせない。
しかし不思議なもので、並木路子さんの「リンゴの唄」が手に入らないのです。レンタルされていないどころが、どうも現在は発売されていないようなのです。映画の方もいちおうビデオがあるようですが見つからず、オリジナルの曲フルコーラスを手に入れるのは無理でした。なんでかな。
とは言っても、アレンジして楽譜などを作らねばなりませんので、ネット上に公開されているMIDIデータを探してみました。すると結構あります。どれがオリジナルに近いものなのか分かりかねますが、いずれにせよ改めて聞いてみますと、実によく出来た名曲であることを再確認できます。例えばシンプルなアレンジのこちらなんかどうですか。聞いてみてください。
作詞は詩人サトウハチローさん、作曲は万城目正です。まず、前奏がすごいですよね。思いっきり長調で始まって歌に入る直前で短調になります。戦後日本を元気づけるという意味では、全体を長調にして明るくという手もあったと思いますが、そこはやはり日本人ですね。夢や希望だけではなく、どこか哀愁を要求するんですよね。それはそうです。ほんの数カ月前まであの悲惨な戦火にまみれていたわけですし。日本人は切り替えが早い能天気な民族ととらえられることも多いのですが、そうではなくて、案外哀しみを直視して、それをベースに明日を生きていく力を得るという部分があるように思えます。
映画で主役を演じ、この歌を歌った並木路子さんも、戦争で両親とお兄さんを亡くしたそうで、事情を知る人はなんであんなに明るく歌えるんだと思ったそうです。しかし、これはある意味哀しみの中の明るさであって、その結果として多くの日本人の共感を呼び、日本の復興のエネルギーになっていったのではないでしょうか。なんとなくですが、そんな気がします。万城目正さんは、藤山一郎さんをイメージして作曲したそうですが、藤山さんはまだ復員していませんでした。清純な中にかすかに哀愁をたたえた並木さんが歌ったことは、結果として良かったのかも。
間奏もなかなか面白いですね。全体を通して、日本の歌謡曲の特徴がよく出ています。いろいろな国の音楽が雑多に、しかし絶妙に配合されていますね。歌詞も面白い。リンゴと言えば、戦中は本当に贅沢なものでした。その憧れのリンゴを擬人化して、淡い恋心を歌う…今となっては単純なしかけとも言えましょうが、当時の方々にとっては、本当に心に秘めていた(秘めざるをえなかった)様々な心情が表現されており、なんともたまらない魅力があったのでしょうね。
そんなわけで、来月はこの曲も心を込めて演奏させていただきます。こんなふうに歌を通して、当時の人たちの心に灯った小さな、しかし強い光を感じることができるのは、私たちにとっても嬉しいことであります。うん、ホント歌謡曲バンドやってると勉強になるし、音楽がますます好きになりますね。
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コメント
NHKのドラマ「ハチロー」良かったですね。気づかず途中からしか見なかったのですが、大変気合の入った制作だったように感じました。単なる売れっ子作詞家でないことを知ることができました。リンゴの唄も本当にいいですね。
投稿: 貧乏伯爵 | 2007.02.14 11:13
伯爵さま、こんにちは。
ハチロー見なかったんですよ。
再放送しないかな。
昔の人はすごいですねえ。
私は今からあさっての予餞会に向けてAKB48「制服が邪魔をする」の練習です(笑)。
最新のこの曲、古くさくてけっこうスキです。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.02.14 11:34
ソ連の突撃銃かと思った・・・(嘘)。
投稿: 貧乏伯爵 | 2007.02.14 17:18
爆!
ま、似たようなもんです。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.02.14 17:22
庵主さんこんばんは~。歌謡曲バンド、来月演奏されるのですか!先日ビデオを見せていただいたときはとても感動しました。
美空ひばりさんの曲、奥様の美しい歌声が印象的でした。
「りんごの唄」は私も1番なら覚えてました。祖母がよく歌っていましたので。現代で私たちが歌に励まされるのとはあまりに時代背景が違いすぎますが、やはりいつの時代も歌を聴くとぽーんとその当時に戻りますよね。来月、庵主さんたちの歌に懐かしい思いをされる方がたくさんいらっしゃるでしょうね。今回もキッズちゃんたちが踊るのでしょうか?いつかライブで拝見したいです♪頑張ってください。
投稿: くぅた | 2007.02.14 23:26
くぅたさん、おはようございます。
そうですね。この前の旅もそうでしたが、歌の背景や歴史を知るということは、その歌の理解を深めることですね。
作った人たちや歌った人たち、聴いた人たちと何かを共有するということこそ、「歌」の本質なんだと思います。
来月は娘に「東京キッド」を歌わせようかと思っています。
お年寄りの心をゲットするには子どもが一番。
今、レミオロメンの自主制作盤を聞き込んでいます。
素の彼らに感動したり苦笑したり赤面したり…私も若かりし頃を思い出しています(笑)
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.02.15 06:10