『J.S.バッハ 時代を超えたカントール』 川端純四郎 (日本キリスト教団出版局)
来月、バッハのコラール前奏曲を中心としたコンサートをやるんですが、それをよい機にバッハとキリスト教のお勉強をしなおそうと思っています。こういうことでもないかぎり、勉強というのをしないたちだもので。
で、そのコンサートの会場となる教会の牧師さんが、この本を貸して下さいました。けっこう分厚い本ですし、なんとなく後回しにしていたんですが、今日の朝、ちょっとめくってみたら、これが実に面白い。非常に読みやすい。結局あっという間に読みきってしまいました。
ああ、なんかジ〜ンと来たなあ。もちろん、バッハの偉大さや、あるいは彼の人間的な一面に、今まで以上に心動かされたのも事実ですし、キリスト教に対する新しい知見も得て、それもまた充実感の種となったわけですけれども、しかしなんといってもですねえ、筆者の川端さんの、まさに愛に満ちた姿勢というか、人間性というか、そこに最も感銘を受けました。
膨大な資料にあたり、しっかりキリスト教神学の研究者らしい内容を書いてらっしゃるわけですが、なんともそこに優しい視線と言いますかね、バッハに対して、そして読者に対しても愛に満ちた視線と微笑みを投げ掛けてくれている。そんなことが心にしみる文章なんですよ。う〜む、文は人なり。
この本の元になったのは、「礼拝と音楽」誌に8年間にわたって連載された「CDで聴くバッハ」というシリーズだそうです。そのようにたっぷりとゆっくりと、そして万人にわかりやすいように書かれたということもあるんでしょうね、まさに小川(バッハ)が大海(メーア)に至るまでの、時間的にも空間的にも壮大な流れというものを、その河畔を自分の足で歩いて確かめたような文章になっているんです。筆者自身はあとがきで、自らがこのようなバッハ伝を書き得た理由は、次のような点にあると述べています。要約します。
1 自分が現代日本人のキリスト者であること
2 自分がキリスト教神学の学者であること
3 自分が平和活動・反核活動・政治活動に参加してきたこと
4 自分が教会オルガニストでもあり、バッハと同業者であること
5 自分がエキュメニズムの活動を経験したこと
6 自分がバッハのカンタータをほとんど全曲演奏したこと
たしかに、このような立場と経験は、他の多くのバッハ研究家とは一味違いますね。単なる研究対象としてだけではなく、いろいろな面での共感があってこそ、このような優れたバッハ伝を書くことができたのでしょう。
ところで、私自身で考えてみますと、上の六つのうちほとんどどれにも該当しません。あえて言えば1の前半部、「現代日本人」というところだけは自信があります(笑)。それだけです。しかし、そこのところの重要性を、川端さんは忘れていません。私はその姿勢に大きな感銘を受けました。
本書のクライマックスとも言える「マタイ受難曲」についての記述部分に、「信仰なしに理解できるのか?」という章があります。ここは本当に感動的です。その章に至るまでの「セバスチァンの音楽が、根本において、ユダヤ人の罪の追及ではなく、『私』の罪の告白に向けられている」という美しい考察にすでに私は涙していたのですが、そのあとに来る「信仰なしに理解できるのか?」という問いかけとそれへの川端さんの答えは、長年の私の迷いや疑いを一気にぬぐい去ってくれる、本当に素晴らしい内容でした。
興味を持った方にはぜひ読んでいただきたいので、あえて詳しく書きませんけれども、私は、『マタイの感動が決して「信仰」や「復活」を前提としたものではない、信仰は持ち物ではないので、筆者自身もマタイを聴く時、信仰を持って聴くことなどできない、非キリスト者と同じ立場で聴いている、そして皆がバッハの「問い」の前に立っている』というような記述にハッと気づかされ、安心し、しかし一方で身の引きしまるような感覚を覚えたのでした。
この本は最初から最後まで、バッハにとっていかに「コラール」が重要な存在であったかを強調しています。その点でも私にとって、まさにタイムリーであったと言えましょう。ある意味、コラールという信仰の形こそがバッハの源流であったということなのでしょう。この読書が、来月のコンサートに大きな影響を与えることは確かですね。ああ、本当にいい本でした。私の後半生におけるバッハの意味は、この本のおかげで大きく変ることでしょう。
Amazon J.S.バッハ 時代を超えたカントール
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コメント
この本、私も古本屋で入手しましたが、まだ読んでいません。
四月上旬にこの方によるヨハネに関するレクチャーがあります。BCJがらみです(この本の帯には「鈴木雅明氏推薦!!」と書いてあります)。
鈴木雅明さんとの対談でもあれば面白いのですが。
投稿: AH | 2007.02.27 20:22
AHさん、こんばんは。
そうです。
「ページをめくるたびに新たなバッハ像が沸き起こるのだ」
という雅明さんの言葉に偽りはないと思いますよ。
レクチャーがあるんですかあ!
ぜひ聴いてみたいですねえ。
バッハ関係の本で、こんなに感動するとは思いませんでした。
ぜひ御一読を。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.02.27 20:57