『日本の庭について』 山本健吉 (センター試験)
お〜なんということでしょう。私の予知能力には実は定評があるんですが、また当たったっすよ。地味に。ほとんど誰も得しなかったと思いますけど、私はおかげで助かりましたし、なにしろワクワクしました。
そう、昨日あれほどいやがっていたセンター試験を解くという作業、さすがに今日、マイメロを観たあとやったわけですが(ってどっちが大事なんだ?)、第一問の評論がですねえ、久々に山本健吉さんだったんです。ああ、こりゃ読みやすそうだなと。で、読み始めたら、あらら、おととい私が書いたことが出てるじゃないですか!いや、地味にですけどね。私にとっては実に大きい。
一昨日の記事「良寛→(漱石)→グールド?」に書いたんです。西洋的な「造型」について。で、良寛の書や漱石の草枕やグールドの54年盤ゴールドベルクは「造型」してないって。「コト」になってない「モノ」だって。
まあ、漠然とその時、西洋と東洋というありがちな対比を思い起こしたんですけど、あんまりに露骨なので引き出しに引っ込めました。
そしたら、健吉さん、露骨に書いてるじゃないですか。え?なになに、冒頭『日本の庭は時間とともに変化し、推移することが生命なのだ。ある形を凍結させ、永久に動かないようにとの祈念を籠めた、記念碑的な造型が、そこにあるわけではない。不変の形を作り出すことが芸術の本質なら、変化を生命とする日本の庭は、およそ芸術と言えるかどうか』とありますな。これは私のいつも言っている、「モノ」と「コト」ですよね。日本は「もののあはれ」だってことです。まあ、当たり前といえば当たり前。
で、ヨーロッパ式の庭園と日本の庭を対照したりして、これまたよくある論が展開していきます。つまり、問題文としては高校生にも分かりやすいでしょう、ということ。さらに造型の話が続きます。『ヨーロッパ流の芸術観では…造型し構成し変容せしめようという意志がきわめて強い。…造型意志が極端に弱いのが、日本の芸術である』なるほど、繰り返してますね。高校生にも分かりやすい…はず。
そして、生花、茶道、発句、連句などを例に挙げて、一期一会の歓びを説明していきます。後半は、志賀直哉の竜安寺石庭論を俎上にちょっと複雑な展開になっていきますが、まあ全体としては非常に読みやすい文だったと思います。一発で分かるタイプなので、本文暗記法でも満点可能だったのでは(難解な文はつきあわせ法を使います)。
と、こんな感じで、半分仕事で半分自分の趣味という読み方をしてしまいました。特に、文中引用されていた『造化にしたがひ、造化にかへる』という芭蕉の言葉には、はっとさせられましたね。おとといの記事を書きながらはっきりしなかったことが、少し見えてきた。「造化」とは健吉さんもおっしゃるように「自然」ということです。造化の妙。すなわち、芭蕉は「自然にしたがって、自然に帰る」と言っているわけで、それはまさにおとといの三者のあり方に通ずると思ったのでした。ああ、そうするとやはり、禅僧である以前に自然人であった良寛の書にも、西洋と格闘してふにゃふにゃになっちゃった漱石の草枕にも、外見は西洋人であるけれども実は宇宙人であった(?)グールドの内側にも、「俳句」が息づいていたんだと。むむ、なるほど〜。
ところで、山本健吉さんによれば、と言うか志賀も語っているんですが、あの竜安寺の石庭というのは、どうにも特殊で例外的だと。たしかにそうだよなあ、なんか変だ。石という西洋的な素材だけで造型された庭。ある意味変化のない風景。
ところが、お二人まだ甘いような気もしますね(笑)。あの石庭、私には「俳句」を超えたものにも思えるんです。何もないということは、何でもありだということです。空即是色。「もの」の性質である「変化」は、言い方を変えると「可能性」です。逆に造型が、すなわち人の意志(=こと)があればあるほど、その可能性は小さくなっていきます。色即是空。面白いですね。だから、あの石庭は十七字すら削り落としてしまった、不立文字、教外別伝なんですよ。中学校の修学旅行で初めてあの石庭を見た時から、私はそのことに気づいていました…なわけない!
だいたい、庭自身に変化はなくとも、もちろん時間によって影はさすし、雪も積もる。見る者の心も常に揺れ動いているわけですからね。
とまあ、妄想はこれくらいにしましょうか。生徒たちのケアしなきゃね。いずれにせよ、あれほど面倒くさがっていたことに、こういう出会いがあるんですよ。これも昨日の記事で書きましたね。「想定外」「え〜!?」ってことに福があるということです。
追伸 それにしても、あのセンターの小説の問題、なんとかしてもらいたいっすね。あれをちゃんと正解できる人いるんでしょうか。あまりに根拠が不明確です。文章は面白かったんですけどね。やはり文学的文章の一部を使って客観試験をするっていうこと自体に無理があるってことでしょう。
昨年、一昨年の笑えるセンターネタはこちらからどうぞ。
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