『社会的ジレンマ「環境破壊」から「いじめ」まで』 山岸俊男 (PHP新書)
こうすれば良いとわかっているのに、それをしちゃうとしない時より損をする、というのが社会的ジレンマです(いや、筆者はもっとちゃんと定義してますよ)。本書では、イソップのねずみの話(猫に鈴をつければいいのに誰もつけない)から始まって、「マイカー通勤」「ダイエット」「共有地の悲劇」「温暖化」「ゴミのポイ捨て」「受験戦争」「学力低下」「社会主義経済の失敗」「すき焼きの悲劇」「買いだめパニック」「いじめ」などが実例として取り上げられています。そして、もちろん説明のために、ゲーム理論で有名な「囚人のジレンマ」も出てきます。
こういう「わかっちゃいるけどやめられない」あるいは「わかっちゃいるけどやらない」、「自分一人くらいは」というのは、確かに困った現象です。もちろん私もそれにまみれて流されて毎日を生きています。つまりグータラなんですね、人間は。
でも最近、多少そのへんをコントロールできるようにもなりました。たとえば、早起きですね。今、合宿中ですが、私たち「朝型チーム」は午前4時起床です。私はそれが日常なので全然辛くありません。起きなきゃいけないんだけど、眠いし寒いし、ふとんから出たくないっていうのもジレンマですよね。それは克服した。それから、ここの食事はめちゃくちゃおいしいんですけど、私は一日一食生活者ですから、みんながおいしそうに食べてる横で、優雅にコーヒーだけいただいてます。朝と昼はね(夜は人の分まで食べますけど)。これもジレンマを乗り越えてます。
実は私、真剣に考えてるんですよ。みんなが私と同じような生活をすれば、すなわち早寝早起き一日一食生活をすれば、環境問題・資源問題は解決し、その結果平和になるに違いないって。世界中のみんながやればですよ。それから、あんまり外で遊んだりしないでひきこもる…ん?それってみんなが修行僧になればいいってことか(笑)。みんな修行僧になればいいとわかってるのに、誰もなりたがらない…う〜む社会的ジレンマだ…違うか。
ま、真剣な冗談はこのくらいにしまして、こういった?社会的ジレンマはどうやって解決していけばいいんでしょうね。この本の中で印象に残ったことを参考に考えてみましょうか。
まず面白いなと思ったのは、「予言の自己実現」という現象です。「〜が不足しそうだ」という噂が流れると、みんなが買い占めに走り、結果として本当に「〜不足」になるというようなケースです。私はこういうのをいつも「集団気分」という言葉で表現してますね。つまり,単なる「予言の自己実現」ではなく、人間には「予言の自己実現願望」があると解釈しているんです。そしてその予言はいつも「災い」です。「〜不足」もそうですし、不景気や温暖化や教育の荒廃や早期英語教育難民や富士山噴火や北朝鮮のミサイルや、とにかくいろんな災いを待望してしまうんです。いや、本人たちはそれらを不安に思い、憂えているわけでして、待ち望むなんてとんでもないって言いますよ。でも、その深層心理には、いや心理にすらなっていない深層気分には、絶対にそういう願望がありますって(表面上の願望は「幸い」なんですけどね)。台風ちょっとこっちに来ないかな、みたいな。日常に飽きて非日常を望むのかな。
だから、私は社会的ジレンマの解決には、まずこういう深層の気分を意識化してですねえ、みんながやっつけなきゃならないと思うんですよ。そういう気分を持つのをやめようって。筆者が社会的ジレンマとして挙げた例の全てが、まずはそういう気分によって醸成されていくと思うんです。学者さんたちは小難しく考えてますけど、私はシンプルになんとなくそんな感じで解釈してます(これもまた気分程度のものかも)。
あと、「徹底した利己主義が愛他的になりうる」という話も面白かった。そういうシステムも存在すると。ラブメイキングの話では思わず首肯しつつ吹き出してしまいました。つまり、自分が気持ちよくなるためには、相手にもサービスしなくちゃいけないってこと。なるほど。たしかに、そういうインセンティブ適合性の高い社会システムを作るというのも、ジレンマを乗り越える方法でしょうね。
それから「そうそう」と思ったのは、『社会的ジレンマの問題を心がけの問題だとする考え方だけでは、この問題に十分に対処できない』という部分です。「けしからん」「教育がなっとらん」が正しい反応ではないということです。そう、ちょっと前に読んだ、「行動経済学」にもありましたように、人間は理屈や倫理観だけで行動するのではないようです。教育にありがちな「アメとムチ」も動機付けとして長続きしないとのこと。また、『「本当のかしこさ」が表面的な「おろかさ」の中に隠されている』『合理的な「かしこさ」だけでは社会的ジレンマの解決に不十分』というのにも、なるほどと思わせられました。実例や実験例が示されてますんで。
「みんながやるなら自分もやる」「自分だけ損をしたくない」という「みんなが主義者」に関する部分も興味深かった。「みんなが主義者」がたくさん集まると、合理的利己主義者よりも多くの利益を得る可能性があるとのこと。
そんないろいろな考察をもとに、本書の最後には社会的ジレンマの解決策が示されます。とは言っても、筆者自身も書いてますけど、かなり歯切れの悪いものになってしまっています。まあ、歯切れがよければとっくに解決してるんでしょうし、それじゃあジレンマではなくなってしまうわけで、解決可能なジレンマというジレンマに陥っちゃう(笑)。しかたありません。
私は非常に単純にその解決策を考えていまして、つまり早寝…いやいやそうじゃなくて、いや、ある意味そうなのかもしれないぞ、そう、正しい宗教的生活をすればいいんですよ。仏教に限らずキリスト教もイスラム教もその他も、究極的には「利他」が「利己」を生むということを示しているんで(たぶん)。「利己」が「愛他」ではなくて、「利他」が「愛己」につながるようにすればいいんです。そういうパラダイム・シフトをするわけです…って誰がするんだ?誰が…そう、みんながすればいいんですよ。
「情けは人のためならず」いい格言ですねえ。ここのところ、私は体験的にこれが絶対正しいって悟ったんで、これからもずっとこれで行きますよ。で、最後は教祖にでもなってボロ儲け!…なんて全然修行が足りませんな(笑)。
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コメント
こんにちは
この本、だいぶ前に読みました。当時の私の仕事にも関係あったのです。第3章「不信のジレンマと安心の保証」の部分です。最近世の中を騒がせている「粉飾決算」とますます厳しくなる「会計監査」とか「内部統制」とかいう非常にコストのかかる制度の関係などは、この部分を読むととてもよく整理できました。世の中の経営者の方々や会計士にも読んでいただき、自分で自分の首を絞めることになりかねないようなことをすることがいかに損かを考えていただければと思っています。もっとも、法律違反をしても執行猶予がついてしまい、個人財産も失わないような大甘な法律運用では、インチキしたほうが得だ、と思われても仕方ありませんが。粉飾決算って、ばれたときにはやった本人より周りの人間の被害の方がはるかに大きいですから。きっとあの人たちも、正月はクサイメシではなく、おいしいおせち料理を暖かいところで食べていたんでしょうね。
とまぁ、こんな納得できないこともあって、この本を読んだ、というところです。
投稿: AH | 2007.01.06 13:56
AHさん、コメントありがとうございました。
なるほど〜、そちらの業界でも有用な本だったわけですね。
そう、やっぱり法制度を中心とする社会システムが、ジレンマを解決する方向で設計される必要がありますよね。
この本を読んでいて、そういうものを設計するのも面白そうだなと思いました。
自分ではできそうにないので、教え子にやらせてみます(笑)。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.01.06 18:58
「台風クラブ」って映画がありましたね。工藤夕貴が主演だったと記憶しています。台風の接近でわくわくする感じが、映画として十分成立するだけ多くの人の共通感覚だということでしょう(私を含め)。ジレンマの根は深いですね。
投稿: 貧乏伯爵 | 2007.01.15 15:10
「台風クラブ」今ここにあります(職場)。
そうそう、まさにあれですよ。
ちょっとした不幸願望みたいなもんですが、おそらく全世界の人が持ってるんで、それが集まると何かが起こりそうですよね。
これ、好きな映画の一つですよ。
工藤夕貴のけっこうやばいシーンもあるんですが、覚えてらっしゃいますか?
あの頃からすでに彼女は大物だったということですね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.01.15 16:40
こりゃあ釣られましたね(笑)。
でも、ぽっかり空いたスペースには走りこむしかありません。
なんで、庵主様がこの映画に言及なさらないなのだろうと思いつつ、直球ど真ん中投げ込んでしまいました。
しかし、思うに、工藤夕貴さんは、萌えの先駆者のような気がします。いや、そう思って見ている人たちこそ先駆者ですね。
けっこうやばいシーン、いまいち思いつきませんが、うーん宮崎監督系のシーンかな?
投稿: 貧乏伯爵 | 2007.01.15 22:11
そう実は好球でした(笑)
けっこうやばいシーンとは、彼女一人ふとんの中でモゾモゾってやつです。
私、何度も書いてますけど、萌えって平安時代からある日本人のお得意な感情だと思ってるんですよ。
ですから、私たちも先駆者ですけど、もっともっと大先輩がたくさんいるわけです(笑)
いや〜、深いですよ〜。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.01.16 08:29