ジャコ・パストリアス 『ライヴ・イン・モントリオール』
Jaco Pastorius 『Live in Montreal』
今は亡き天才の動く姿を観るのは感動的ですし、勉強になるものです。
現代になって、音楽というジャンルはすっかり一回性を失ってしまいました。この表現は悪い意味で使われることが多いのですが、まれにいい結果をもたらすこともあります。ライヴ録音やライヴ映像がそれでしょう。
演奏会(発表会)ではなくライヴです。その違いはあえて詳しく書きません。やはり、お客さんの一体になり、また演奏者同士も一瞬一瞬影響しあい、アドリブも含めた「生きた」音楽を奏でる、これが音楽のあるべき姿だと思っています。
ワタクシの得意な言い方、というか毎日それで申し訳ないんですが、「コト」の発表会はどうでもいいんです。「モノ」を産み出す場が好き。そういうことです。
で、そういう「モノ」が生まれる瞬間のエネルギー、魂、スピリット、波動、そういったものは、たとえばデジタル技術を媒体としても、しっかり刻印され、再生されるのです。それは私は何度も経験しています。もちろん、本物のライヴにはかないません。その場、空気、時、心、そういう総合体には及ぶべくもありません。しかし、そのエッセンスは不思議と記録されるんですね。私はそんなことからも、そういう魂みたいなものの存在を信じるんです。
たとえば、「書」というのを考えるとわかりやすいかもしれない。「書」は基本的に一回性の芸術です。優れた書家が、その場の空気や時の中から何かをつかみとり、しかしまた同時にその場と一体となって、「無」の空間に「気」を刻みつけていく。そういうシーンを目の当たりにする幸運を得る場合もありましょう。しかし考えてみると、その時にその場に同席しなくとも、たとえば千年以上前の中国の書家の「作品」から、それをしっかりと読み取ることができます。これは本当に不思議なことではありませんか。
音楽でもそういうことがよくあるわけです。「作品」としての「録音」だけでなく、その創造過程を観察することができる「録画」においては、さらにそういう可能性が上がるような気がします。
というわけで、私はいろいろなジャンルのライヴ映像が大好きでして、いつも楽しんでいます。本当に幸せな時代に生まれたなあと思います。
さあ、前置きが長すぎましたね。この天才の記録はどうだったでしょう。
このヴィデオ作品は、今までも何回か商品化されてきましたが、今月久々に再発されました。ちなみに私が観たのは一つ古い版のDVDです。中身はいっしょでしょう。この最新盤の宣伝文句ではどういうわけか84年の録画ということになってますねえ、1982年だと思うんですが。この2年は晩年のジャコにとっては大きな2年だと思います。82年だとすると、ウェザー・リポートを辞めて、自分のバンドで来日した年ですよね。ジャコ・パストリアス(b) 、ランディ・ブレッカー(tp) 、ボブ・ミンツァー(as) 、ピーター・アースキン(ds) 、ドン・アライアス(perc)というメンバーから見ると、やはりこの年でしょう。
で、結論を言います。なんか危ない「気」が出てきます、このDVD。ラリってるわけではないと思うんですが、ちょっと周りとのアンサンブルがなってないような感じです。あいかわらず音が多い(意味があるならいいんですが)。なんかいつもよりも浮き立って聞こえます。それは決して心地よいものではない。どちらかというと不気味な感じさえします。音だけ聴いていれば、たしかにいつものジャコの音ですが、やっぱり映像の方に何かが宿ってるんでしょうかね。私は怖い。一人だけふらふら歩き回ってますし。ある意味心霊写真みたいなもんかな(笑)。
ん?なんか違うぞ。周りが異常に冷静だから怖いのかも。それでジャコだけ浮いてるかなあ。妙な雰囲気だ。
という感じで、怖いものは見なかったことにするとですねえ、心に残るのはボブ・ミンツァーのバス・クラリネットだったりします。バスクラってこんなに表現力があってかっこいい楽器だったんだ。
なんだか、前振りは期待させといて、実は怪しい「モノ」 だったっていう感じになっちゃいましたね。実際はものすごくいいですよ。楽器の演奏者としての立場から観察しますと、彼の無駄のない運指は勉強になります。いや、それ以前にほれぼれしますよ。ジャコのヴォーカルも聴けますし。
Amazon ライヴ・イン・モントリオール
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