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2006.12.18

ジャコ・パストリアス 『ライヴ・イン・モントリオール』

Jaco Pastorius 『Live in Montreal』
Ucbu7001 今は亡き天才の動く姿を観るのは感動的ですし、勉強になるものです。
 現代になって、音楽というジャンルはすっかり一回性を失ってしまいました。この表現は悪い意味で使われることが多いのですが、まれにいい結果をもたらすこともあります。ライヴ録音やライヴ映像がそれでしょう。
 演奏会(発表会)ではなくライヴです。その違いはあえて詳しく書きません。やはり、お客さんの一体になり、また演奏者同士も一瞬一瞬影響しあい、アドリブも含めた「生きた」音楽を奏でる、これが音楽のあるべき姿だと思っています。
 ワタクシの得意な言い方、というか毎日それで申し訳ないんですが、「コト」の発表会はどうでもいいんです。「モノ」を産み出す場が好き。そういうことです。
 で、そういう「モノ」が生まれる瞬間のエネルギー、魂、スピリット、波動、そういったものは、たとえばデジタル技術を媒体としても、しっかり刻印され、再生されるのです。それは私は何度も経験しています。もちろん、本物のライヴにはかないません。その場、空気、時、心、そういう総合体には及ぶべくもありません。しかし、そのエッセンスは不思議と記録されるんですね。私はそんなことからも、そういう魂みたいなものの存在を信じるんです。
 たとえば、「書」というのを考えるとわかりやすいかもしれない。「書」は基本的に一回性の芸術です。優れた書家が、その場の空気や時の中から何かをつかみとり、しかしまた同時にその場と一体となって、「無」の空間に「気」を刻みつけていく。そういうシーンを目の当たりにする幸運を得る場合もありましょう。しかし考えてみると、その時にその場に同席しなくとも、たとえば千年以上前の中国の書家の「作品」から、それをしっかりと読み取ることができます。これは本当に不思議なことではありませんか。
 音楽でもそういうことがよくあるわけです。「作品」としての「録音」だけでなく、その創造過程を観察することができる「録画」においては、さらにそういう可能性が上がるような気がします。
 というわけで、私はいろいろなジャンルのライヴ映像が大好きでして、いつも楽しんでいます。本当に幸せな時代に生まれたなあと思います。
 さあ、前置きが長すぎましたね。この天才の記録はどうだったでしょう。
 このヴィデオ作品は、今までも何回か商品化されてきましたが、今月久々に再発されました。ちなみに私が観たのは一つ古い版のDVDです。中身はいっしょでしょう。この最新盤の宣伝文句ではどういうわけか84年の録画ということになってますねえ、1982年だと思うんですが。この2年は晩年のジャコにとっては大きな2年だと思います。82年だとすると、ウェザー・リポートを辞めて、自分のバンドで来日した年ですよね。ジャコ・パストリアス(b) 、ランディ・ブレッカー(tp) 、ボブ・ミンツァー(as) 、ピーター・アースキン(ds) 、ドン・アライアス(perc)というメンバーから見ると、やはりこの年でしょう。
 で、結論を言います。なんか危ない「気」が出てきます、このDVD。ラリってるわけではないと思うんですが、ちょっと周りとのアンサンブルがなってないような感じです。あいかわらず音が多い(意味があるならいいんですが)。なんかいつもよりも浮き立って聞こえます。それは決して心地よいものではない。どちらかというと不気味な感じさえします。音だけ聴いていれば、たしかにいつものジャコの音ですが、やっぱり映像の方に何かが宿ってるんでしょうかね。私は怖い。一人だけふらふら歩き回ってますし。ある意味心霊写真みたいなもんかな(笑)。
 ん?なんか違うぞ。周りが異常に冷静だから怖いのかも。それでジャコだけ浮いてるかなあ。妙な雰囲気だ。
 という感じで、怖いものは見なかったことにするとですねえ、心に残るのはボブ・ミンツァーのバス・クラリネットだったりします。バスクラってこんなに表現力があってかっこいい楽器だったんだ。
 なんだか、前振りは期待させといて、実は怪しい「モノ」 だったっていう感じになっちゃいましたね。実際はものすごくいいですよ。楽器の演奏者としての立場から観察しますと、彼の無駄のない運指は勉強になります。いや、それ以前にほれぼれしますよ。ジャコのヴォーカルも聴けますし。

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 ベースという楽器が注目を浴びるのは何もロックに限ったことではないのだが、それでもロックのフィールドにいる人間に訴え出てくるくらいの人ってのはあんまりいないよなぁ。ジャズの世界だって、そりゃいっぱい凄い... [続きを読む]

受信: 2006.12.24 00:37

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