『星の王子さま こころの旅』 (NHKプライム10)
〜サン・テグジュペリ愛の軌跡〜
先日訳した市丸利之助少将の「ルーズベルトに與ふる書」、大変多くの方に読んでいただいているようで、非常にありがたいことでありますし、あの日のちょっとした労苦が報われたような気がしてほっといたしております。また、同時に責任のような重みもずっしりと感じられるのでした。
さて、今日も「手紙」が主役です。それも戦地からの手紙。そして、時もほとんど同じ1944年頃…。昭和で言えば19年になります。私、何か暗示的なものを感じてしまい、ちょっと体調を崩してしまうほど衝撃を受けました。
一昨日NHK総合で放送された『星の王子さまこころの旅』を観たんです。最初はボーッと見始めたんですけどね、最後はすっかり引き込まれてしまいました。最近発見された新資料に基づいて、「星の王子さま」を読み直すという内容でした。
最近発見された資料というのは、サン・テグジュペリと妻コンスエロとの大量の往復書簡です。手紙です。ある意味、日本兵たちが残した手紙とは対照的かもしれません。恥ずかしいほどの「愛」の表現…いや、違うぞ。これを思い出さねば。日本にも山口多聞中将の手紙があるではないか。あれはびっくりしましたね。
ところで、「星の王子さま」って子どもの時に必ず読まされますよね。家にあったりして。私も何度も読んだんですけど、正直全然面白くなかった。けっこう周囲では「いい、いい」という評判だったんですけど、ホントにみんな分かってたのかなあ。だって、私なんか、今日初めて(少し)分かりましたよ。最初の献辞のところで、「子ども」でなければ分からないようなことを臭わせてますけど、完全にしてやられましたね。大人じゃないと分からないんですから。
さて、最近発見された往復書簡から分かったことは、サン・テグジュペリとコンスエロがあまりに深く愛し合い過ぎたということ。その激しさのために一時的な別れを余儀なくされたりして、苦しんだり淋しさを味わったりしたと。そして、皮肉にも、命をかけざるをえない「戦争」という悲劇を背景として、その愛の炎はさらに熱く明るく燃え上がり、美しく昇華するのでした。その中で生まれたのが「Le Petit Prince」であった。王子さまをとりこにし、ある意味苦しめ翻弄する赤いバラは、紛れもなくコンスエロであったわけです。
戦争が激しくなる中、生粋の飛行機乗りであるサン・テグジュペリは、自ら志願して最前線に赴きます。その時の気持ちは、彼の残した日誌や手紙の文面から読み取れます。
「人間であるということはまさに責任を持つことだ。人は星空の下、かたわらに憩う妻の眠り、いともはかなくたよりなく、つかのまのその眠りに対する責任に目覚める。愛は考えられるものではない。それは存在するのだ」
「私には祖国フランスをナチス・ドイツから救う責任がある」
「僕は戦争に行く。僕は死ぬために出発するのではない。僕は平和や僕が愛するものを守るために銃弾を浴びに行く。誠実、純真、忠実、心のこもった仕事を守るために」
日本人と何らかわりがないのかもしれません。
そして、妻への思いも極まります。
「かわいいいとしのコンスエロ。羽飾りのついた小ネズミ。少し変な僕の妻。最愛の人。どう暮らしていますか。本当に新鮮な水をたたえた泉のようなあなたがいなくて僕は淋しい。かわいいいとしのコンスエロ。あなたは一生死ぬまで僕の妻です」
「星の王子さま」が出版された翌年、1944年の7月31日、彼を乗せた飛行機は、地中海に消えました。
作中、地理学者が語る「はかない」ということ、そして、キツネの語る「大切なものは目には見えない」ということ、「バラのために失った時間こそが、きみのバラをかけがえのないものにしている」ということ、これはまさに「もののあはれ」であります。時間の経過に伴う無常性、不随意性への詠嘆に他なりません。彼は最愛の妻との別れも予感していたに違いありません。実際、死という現実が、二人を永遠に引き裂いた…ように見えましたが、しかし…
1998年、マルセーユ沖で、漁師があるものを引き上げます。それは、サン・テグジュペリとコンスエロの名が刻まれた銀のブレスレットだったのです。半世紀以上経っています。ほとんど奇跡といっていいことです。
私は思いましたね。この世の唯一の摂理である無常性を乗り越えるために、「愛」や「芸術」があるのだと。人間の意思の力は、この世の避けられない運命に懸命に逆らっているのでした。
そういう意味では、「星の王子さま」もブレスレットも、そして市丸少将の手紙も、偉大なる人間の思い、つまり「愛」が生み出した奇跡だったのかもしれません。その奇跡が生まれるのに、戦争という極限状況が必要だったというのは皮肉なことですが…。
最後にNHKさんにお願いです。てれび絵本特別編として「星の王子さま」をお願いいたします。今回の作画スタッフも声優さんも、とても良い仕事ぶりでしたので。
Amazon 星の王子さま−オリジナル版
| 固定リンク
「モノ・コト論」カテゴリの記事
- 悲観は楽観の母(2012.02.08)
- 『下山の思想』 五木寛之 (幻冬舎新書)(2012.02.07)
- 三路スイッチ・四路スイッチ…そして脱電力のお話(2012.01.25)
- 南方熊楠 『土宜法竜宛書簡』より〜「モノ・コト論」(2012.01.17)
- 相変わらず選択肢の日本語に難あり。(2012 センター試験 国語…評論)(2012.01.14)
「心と体」カテゴリの記事
- 悲観は楽観の母(2012.02.08)
- 嘘も方便(三車火宅の譬え)(2012.02.04)
- 「リリジョンフリー」というアイデンティティ(2012.01.27)
- 想像力と倫理(2012.01.13)
- 究極の不安克服法…?(2012.01.11)
「文学・言語」カテゴリの記事
- 嘘も方便(三車火宅の譬え)(2012.02.04)
- 夏目漱石 『素人と黒人(くろうと)』(2012.02.03)
- ネコと和解せよ(2012.01.29)
- 親指シフト対応!デジタルメモ 「ポメラ」 DM100 発表(2011.11.08)
- カタカナ社名の語源を楽しむ。(2012.01.24)
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 追悼 グスタフ・レオンハルト…映画『Chronik der Anna Magdalena Bach』(2012.01.19)
- 想像力と倫理(2012.01.13)
- 究極の不安克服法…?(2012.01.11)
- デジタル放送からDVD、1回を最大10回に(!?)(2007.07.12)
- 『スティーブ・ジョブズの子どもたち ~ハングリーであれ 愚かであれ~』 (NHKドキュメンタリーWAVE)(2012.01.08)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』 ケイレブ・メルビー&ジェシー (集英社インターナショナル)(2012.02.09)
- 悲観は楽観の母(2012.02.08)
- 『下山の思想』 五木寛之 (幻冬舎新書)(2012.02.07)
- 『迷える者の禅修行―ドイツ人住職が見た日本仏教 』 ネルケ無方 (新潮新書)(2012.02.05)
- 『舟を編む』 三浦しをん (光文社)(2012.01.21)
「歴史・宗教」カテゴリの記事
- 『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』 ケイレブ・メルビー&ジェシー (集英社インターナショナル)(2012.02.09)
- 悲観は楽観の母(2012.02.08)
- 『下山の思想』 五木寛之 (幻冬舎新書)(2012.02.07)
- 『迷える者の禅修行―ドイツ人住職が見た日本仏教 』 ネルケ無方 (新潮新書)(2012.02.05)
- 嘘も方便(三車火宅の譬え)(2012.02.04)

コメント
少し前に自分のブログにも書いたのですが、ちょうど二人の外国人生徒と『星の王子さま』を読んだばかりだったので、この番組を録画して二人に見せました。ひとコマの授業で途中を飛ばして見せようと思っていたのですが、二人とも真剣に見ていたので、もうひとコマ使って全部見せることにしました。いい番組でしたよね。『星の王子さま』の成立とコンスエロへの愛が、思っていた以上に深く関わっていたことを知らされました。
投稿: mf | 2006.12.22 22:34
mfさんこんばんは。今日は珍しくこの時間でも起きてます。
後半一気に盛り上がる番組でしたね。泣いてしまいました。
私も冬休みの補習でクラスのギャルたちに見せるつもりです。
英語版もこの機会に買ったので、宿題で読ませようと思ってます。
例の市丸さんのドラマを見せたばかりなので、対照的に何かを感じてもらえればと思います。
私はいずれにせよノーコメントですね。感じるところはいろいろありますが、偉そうに語れる立場ではありませので。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.12.22 22:51