『平均率クラヴィーア曲集』(バッハ) ロバート・レヴィン
J.S.BACH : Well-Tempered Clavier/Robert Levin
アメリカの鬼才ロバート・レヴィン。鍵盤奏者として、そしてモーツァルト研究者として、とにかく今年はお忙しかったでしょう。先月には来日して様々なスケジュールをこなしたようです。浜松でのレクチャー・コンサートの様子を紹介した文章を引用しておきます。これで、彼がどういう演奏家かおわかりになるでしょう。
『中村紘子先生の「NAKAMURA」と「HAMAMATSU」の文字を、フランスのルールにしたがって音列にし、そこに会場から募集した2小節のパッセージを織り込んで、その場で素晴らしい音楽に作り上げていく即興演奏は、まさに、現代にモーツァルトがよみがえったようでした』
そう、レヴィンさんと言えば、モーツァルトやベートーヴェンのピアノ演奏が一番有名でしょうね。現代ピアノでもフォルテピアノでも見事な音楽を作り出します。特にその場で作るカデンツァは毎度スリリングで楽しいらしい。まあ、カデンツァが楽譜になっていて、その通りに弾くという事態の方が異常なんですけどね、本当は。
で、彼はピアノだけではなく、とにかく鍵盤楽器ならなんでも器用にこなしちゃいます。クラシック界のキース・ジャレットっていう感じかな。そのキース・ジャレットは平均率第一巻をピアノで録音しています。第二巻はチェンバロです。そのアプローチ方法はある意味逆説的でしたが、結果は楽器の種類を超えた実に見事なバッハとなっていました。さあ、レヴィンはどんな平均率を録音したのでしょうか。
レヴィンは、「クラヴィーア」の意味を単純に「鍵盤楽器」としてとらえ、当時バッハが親しんでいた4種類の楽器を使い分けています。すなわち、チェンバロ、オルガン、クラヴィコード、フォルテピアノです。このようなアプローチは以前にもありましたが、それぞれの楽器をここまでのレベルで弾きこなし、また非常に安定感のある解釈を聞かせてくれたのは、レヴィンが初めてかもしれません。
各曲における楽器の選択は聴いてのお楽しみ。まあ予想通りが半分、予想外が半分でしたね。非常に変化に富んでいるわけでして、おかげで全曲飽きずにワクワクしながら聴かせていただきました。飽きないという意味ではこちらの平均率とともに双璧でしょうか。本当に感心するのは、テクニックはもちろん、それぞれ楽器の特性をよく考えたテンポやアーティキュレーションです。素晴らしい。また、クラヴィコードやフォルテピアノでのダイナミクスもいい。特にクラヴィコードの音量、音質コントロールは実に繊細。それこそキース・ジャレット以来でしょう。
本当に素晴らしい演奏であり録音なのですが、どうも日本では手に入りにくいようですね。私はナクソス・ミュージック・ライブラリーで聴きました。あらためてNMLはいいなあ、と思いましたよ。今日は久々に朝から晩までバッハ三昧でした。のべ12時間は聴いてたな。これだけ聴けて月1890円は安いですよね。
| 固定リンク
「音楽」カテゴリの記事
- ラモー 『優雅なインドの国々より未開人の踊り』(2024.08.12)
- ロベルタ・マメーリ『ラウンドМ〜モンテヴェルディ・ミーツ・ジャズ』(2024.07.23)
- まなびの杜(富士河口湖町)(2024.07.21)
- リンダ・キャリエール 『リンダ・キャリエール』(2024.07.20)
- グラウプナーのシャコンヌニ長調(2024.07.19)
コメント
先日はどうもありがとうございました。
おなじレーベルでロバート・ヒルがバッハの無伴奏を鍵盤のために編曲したのがあり、気に入ったので購入しました。
兄のキース・ヒルは楽器製作家で即興演奏もやるようですが、奥さんのマリアンヌ・プロジェとつくったホームページが非常に興味深いです。とくに即興演奏、演奏テクニック、アマティやストラディヴァリの楽器の音響構造についての文章が面白い。
チェンバロとかを自分なりに作ってみたいと考えていまして、最近このヒル氏とメールでやりとりさせてもらっています。
ホームページのなかで「私は音楽作品(literature)の立派な演奏よりも凡庸な即興演奏を聴くほうが好きだ」とあるのですが、東京に住んでいるときある時期からコンサートに行かなくなった自分にとって、なるほどと思わされました。
投稿: 龍川順 | 2006.12.13 10:52
龍川さんこんにちは。
そのロバート・ヒルの録音もよく聴いていますよ。
ライヴで聴きたいタイプの演奏家ですよね。
いやあ、まさかキース・ヒルと連絡をとっているとは…。
おそるべし!龍川順!って感じです。
ぜひぜひ、世界的なメーカーを目指して下さい(応援しちゃいますよ)。
年内に一度お会いしましょう(絶対)。
あっ、キース・ヒルのホームページのURLを教えてください。
面白そうですね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.12.13 17:29
http://www.keithhillharpsichords.com/
ヒル氏のホームページです。
女房と都合をあわせようとするとなかなかうまくいかないので、私単独でお会いできればうれしいです。もしくは引越し後少し片付いてきたのでよろしければ、そのうち家でもと思うのですが古い家なので寒いようです。
投稿: 龍川順 | 2006.12.13 20:11
龍川さん、ありがとうございました。
ヒル氏のサイト、すごいですね。
ゆっくり読んでみます。
あのヴィオラ・ダモーレいいなあ…。
実はダモーレ弾くの得意なんですよ。
密会(?)の件はのちほどメールにて。
では。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.12.13 21:17
盛り上がってるご様子、楽しく拝見してます。
龍川さん、お久しぶりです。
みんなできりたんぽ鍋したのを懐かしく思います。
ロバート・ヒル氏、いいですよね。私はガイゲンヴェルク
(チェンバロにガット弦張ったもの)のバッハ作品集を
持っていますが、なかなかでした。バッハ作品集って
普通、あんまし面白くないんですよ。
でも、何か楽器の新鮮味だけでない、演奏のフレッシュさを
強く感じたのを覚えています。
また、皆さん、お会いしましょうね!
投稿: よこよこ | 2006.12.14 00:14
よこよこさん、おはようございます。
突然のこと、大変でしたね。お悼み申し上げます。
ロバート・ヒルもロバート・レヴィンも、とってもファンタジー溢れる演奏家だと思います。
本当にバッハを面白く聴かせるのって難しいですよね。
だいたい弾いてる自分が楽しくないし(必死…笑)。
また、みんなで鍋したいですね。
最近古楽談義してないんで。
本土にお越しの際はいつでもどうぞ!
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.12.14 06:56