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2006.12.10

『ルーズベルトニ與フル書』 市丸利之助海軍少将

Iwo 昨日、「父親たちの星条旗」 に続き、クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」が公開されました。いずれは私も観てみたいと思います。
 さて、それに便乗したのか、昨夜フジテレビで「戦場の郵便配達」というドラマが放映されました。ドキュメント部分はよかったんですけどね、どうもドラマは安っぽさがぬぐえませんでした。特にあのCGはやめてもらいたい。ひどすぎます。ゲームじゃないんだから。あと当時は「いおうじま」じゃなくて「いおうとう」でしょう。
 さて、昨日のドラマに登場した実在の手紙の数々。これは本当に重いものでした。軽々しいコメントは控えさせていただきます。そして、その手紙の中の一つ、市丸少将がしたためたルーズベルトへの手紙。最後にほんの少し登場しただけで、その内容にはほとんど触れていませんでしたね。いろいろと難しい問題があるのは分かりますが、もう少ししっかり紹介してほしかった。
 死を決意した市丸少将は、ルーズベルト大統領に一通の手紙を書きます。それがアメリカ軍の手に渡ったのは、日本軍玉砕後でした。累々たる死体の中で、その英訳とともに、アメリカ兵によって発見されました。それが、ルーズベルトのもとへ届いたのか、それは謎です。その内容はたしかにアメリカに打電されているのですが、その数日後にルーズベルトは亡くなっているのでした。
 そんなわけで、私自身もその内容に興味がありましたので、ネットで原文を探して、自分流に現代語訳(口語訳)してみました。原文は当時としては当然のことですが漢文訓読調です。現代の私たちには難しい漢語や言い回しが多いので、意味が変らないよう留意しながら訳してみました。基本的に直訳ですので、やや文脈のねじれているところもありますが、真意は伝わるものと思われます。
 さて、市丸少将は、高邁な理想を掲げて純粋に何かを託したのでしょうか、それとも最期まである意味で洗脳されたままだったのでしょうか。私の訳を読んで、それぞれの方が思いを巡らせていただければ、と思います。

「ルーズベルトに与うる書(ルーズベルトに与える手紙)」

 日本海軍市丸海軍少将が、手紙を「フランクリン ルーズベルト」君にしたためる。私は今、私の戦いを終わるに当たり、一言あなたに告げたいと思う。
 日本が「ペルリー」提督の下田入港を契機として、広く世界と国交を結ぶに至ってから約百年、この間日本は国の歩みが困難を極め、自ら望んだわけでもないにかかわらず、日清、日露、第一次欧州大戦、満州事変、支那事変を経て、不幸にも貴国と戦争をするに至ってしまった。このことをもって日本を見て、ある者は好戦的な国民だとし、ある者は黄色人種のもたらす災いとして非難し、ある者は軍部の勝手な判断だとする。これらは全くの考え違いだと言わなければならない。
 あなたは、真珠湾の不意打ちをもって対日戦争の唯一の宣伝資料としているようだが、日本がその自滅から逃れるため、この戦いをするほかになくなるような窮境にまで追いつめた様々な情勢に関しては、あなたが最もよく熟知しているものと考える。
 おそれ多くも日本天皇は、皇祖皇宗建国の大いなるみことのりに明らかなように、養正(正義)、重暉(明智)、積慶(仁慈)を三つの大綱とする八紘一宇の文字によって表現される皇道の大計に基づき、地球上のあらゆる人類はその分に従って、その郷土においてその命を享受させ、それをもって永久的な世界平和の確立することを唯一念願されているにほかならない。
 これはかつて、
「四方の海皆はらからと思ふ世に
    など波風の立ちさわぐらむ
(世界全て皆兄弟だと思う世に
    なぜ波風が立ち騒いでいるのだろう)」
 という明治天皇の御製(日露戦争中御製)は、あなたの叔父である「テオドル・ルーズベルト」閣下が感嘆したものであって、あなたもまた熟知している事実であるにちがいない。
 私たち日本人は、各階級があり、各種の職業に従事するとは言え、最終的にはその職業を通じて、この皇道の大計、すなわち天皇の御事業を補佐しようとすることにほかならない。私たち軍人もまた武器をもって天皇の御事業を広めさせていただいているにほかならない。
 私たちは今、物量を誇るあなた方空軍の爆撃および艦砲射撃のもと、外見上は勢いを失わざるをえない状況に至っているが、精神的にはいよいよ豊かで、気持ちはますます明朗に感じられ、歓喜しないではいられないものがある。これは天皇の御事業補佐の信念に燃える日本国民の共通の信念であるが、あなたや「チャーチル」君たちは理解に苦しむところであろう。今ここにあなた方の精神的な貧弱さを憐れみ、以下の一言をもって、少し教えたいことがある。
 あなた方のしていることを見ると、白人、特に「アングロ・サクソン」が世界の利益を独占しようとし、有色人種をその野望の前に奴隷化しようとするにほかならない。このために卑怯な方法によって有色人種をだまし、いわゆる悪意の善政をもって彼らを失意無力化させようとしている。近世に至り、日本があなた方の野望に抵抗し、有色人種、特に東洋民族をあなた方の束縛から解放しようと試みたのだが、あなた方は少しも日本の真意を理解しようと努めることなく、ひたすらあなた方にとって有害な存在として、かつての友好国を公然と仇敵野蛮人だとして、日本人種の絶滅を叫ぶに至った。これがどうして神の意志に叶うものだと言えようか。
 大東亜戦争によって、いわゆる大東亜共栄圏が成立し、それぞれの民族は私たちの善政を謳歌し、あなた方が今これを破壊することがなければ、全世界にわたる永久的な平和が訪れることは、決して遠い未来のことではない。
 あなた方はすでに充分に繁栄しているにもかかわらず、それに満足することなく、数百年のあなた方の搾取から逃れようとするこれら憐れむべき人類の希望の芽を、なんのために若葉のうちに摘み取ろうとするのだろうか。ただ東洋の物を東洋に帰すに過ぎないのではないか。あなた方はどうしてこのように貪欲でかつ狭量なのか。
 大東亜共栄圏の存在は少しもあなた方の存在を脅かさず、かえって世界平和の一翼として世界人類の安寧幸福を保障するものであって、日本天皇の真意が全くこれ以外のことではないということを理解する心の大きさがあることを希望してやまないものである。
 ひるがえって欧州の事情を観察しても、また相互の無理解に基づく人類闘争がいかに悲惨であるかを強く嘆かざるをえない。今「ヒットラー」総統の行動の是非について述べることは慎むが、彼の第二次欧州大戦開戦の原因が、第一次大戦終結に際し、その開戦の責任の一切を敗戦国ドイツにおしつけ、その正当な存在を極度に圧迫しようとしたあなた方の先輩の処置に対する反発にほかならなかったことを見過ごさない必要がある。
 あなた方が善戦し「ヒットラー」総統を倒すことができたとしても、どのようにして「スターリン」を首領とする「ソビエットロシヤ」と協調しようとするのか。だいたいにおいて、世界の強者の立場を独占しようとするならば、永久に闘争を繰り返すことになり、いつまでも世界人類に安寧幸福の日はないであろう。
 あなた方は今、世界制覇の野望を一応成し遂げようとしている。あなた方は得意に思うにちがいない。しかし、君の先輩「ウイルソン」大統領はその得意の絶頂において失脚した。願わくば、私の言外の意をくんで、その轍を踏むことのないように。

 市丸海軍少将


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コメント

なかなか目にすることのないものを知ることができました。
大変参考になります。敗戦を確信し、死を前にしてこの聡明さはやはり考えさせられます。

投稿: 渡辺敏晴 | 2006.12.11 11:04

敏晴さん、コメントありがとうございました。
いろいろな意味で考えさせられますよね。
ある意味グローバルな視野に立っての内容ですし、
なかなか鋭い指摘もあります。
もっと知られていい書簡であると思います。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.12.11 12:55

こんばんは。手紙を理解しやすく載せてくださり有難うございます。
このドラマの特集で市丸少将のご次女とそのお孫さんそしてまたその方のお嬢さんがたが取材を拝見しました。きりっとした目元がどことなく市丸少将に似ていた、ひ孫であるその女の子は曽祖父のこの手紙をいつか保管されているアメリカの博物館まで見に行きたいと話していました。本当によくあの時代にはるばる届いたものだと思います。
この手紙はそのまま現代にも充分通ずるものだと思います。
今もなお愚かな戦いを繰り返している現実にそら恐ろしくなります。

投稿: くぅた | 2006.12.12 22:52

私もフジの番組を見ました。仰る通りに、CGの部分や主演の坊やの演技、彼とイーストウッドの対談などによりせっかくの題材に消化不良を起こさせてくれました。私自身の勉強不足から、ルーズベルトへのこの手紙の存在を知りませんでしたので、手紙の内容を知りたいと思っておりましたが、先の番組では知ることは出来ませんでした。今知る事が出来、貴兄に対し感謝をいたします。自分の死を前にして、この様に冷静で的確に判断をし、それをきちんと相手に伝えることの出来る文面を書けるものでしょうか?正に六十年後の現在を予見していた手紙ではないでしょうか?今夜は眠れそうにありません(笑)。ご苦労様でした。そして、有難う御座いました。

投稿: 伊藤正人 | 2006.12.13 00:35

くぅたさん、伊藤さん、
読んでいただき、そしてコメントありがとうございました。
私も訳しながらいろいろ考えてしまいました。
というより、霊的なものなのでしょうか、
ちょっと心も体もおかしくなってしまいました(笑)。
生徒達にも読ませましたが、やはりよくわからないようですね。
私も戦後ののほほん世代ですが、教育者としてどうすればいいかも含めて、
いろいろと迷う今日この頃です。
もちろん感動物や美談で片づけるわけにはいきませんしね。
それにしても「電車男」くんは、やっぱり電車男でしたね。
もう少し演技の幅を広げた方がいいようです。
一番よかったのは手塚さんのナレーションですかね。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.12.13 06:56

私は市丸少将の通われた唐津中学、つまり現在の唐津東高校の卒業生です。市丸少将のお名前は同窓会名簿にも銘記されていて、感慨深いものを覚えます。わが先輩方には数多くの著名人、偉人がいらっしゃいますが、この市丸少将こそはその筆頭に置かれるべきものでしょう。愛するものを守るためにぎりぎりの戦いをして、星になられた先輩の強い愛情と意思とをわれわれは受け継がなければなりません。さらに市丸少将の卓越した感性、情緒、未来を見抜く洞察力とは見事というべきものです。この手紙は当時の米国大統領に宛てられたものですが、その内容はこの時代に生きる日本人こそが読むべきものでしょう。力とは、平和とは。すでに日本人が失いかけているまっとうな感覚を受け継いで「いきたい、と思います。

投稿: 21世紀の後輩たちへ | 2006.12.15 11:40

21世紀の後輩たちへさん、コメントありがとうございました。
市丸少将の後輩でいらっしゃるのですか。
私は不勉強にもこの手紙の存在は初めて知りました。
それにしても、内容や文章に表れた少将のお人柄と感性には私も強く心を動かされましたね。
その後、興味を抱いて調べさせていただいたところ、立派な歌人でもあられたとか。
特に私が愛し居を構えてもいる富士山を歌った歌がたくさんあるということで、さっそくですが、氏の歌集を注文いたしました。
手許にまいりましたら、またここで紹介したいと考えています。
いろいろと難しい問題はあると思いますが、私も日本人としての誇りと伝統を伝えていかねばと、あらためて感じました。
こうして口語訳させていただいたことにより,私自身も勉強になりましたし、多くの方に読んでいただけているようで、たいへんうれしく思っています。
感想や感慨は人それぞれでしょう。それはそれでいいと思います。しかし、やはり一度は読んでいただきたいという一心で訳させていただきました。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.12.15 13:11

初めて全文を読みました。
市丸利之助海軍少将ですか・・・
こんな方もおられたのですね
自分の無知を恥じ入るばかりです。

投稿: 中村 | 2006.12.20 15:41

中村さん、コメントありがとうございました。
実は私も存じ上げなかったのでした。
いずれは歌人としての市丸さんについても書きたいと思っています。
いやあ、本当にいろいろと考えさせられますね。
まさに現代日本人に対するメッセージという感じです。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.12.20 16:29

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