『データの罠 世論はこうしてつくられる』 田村秀 (集英社新書)
この前、「行動経済学」の本を読みまして、いろいろと書きました。そこでも何度も述べた「気分」がどのように作られるのか。その影の立役者、いやけっこう露出多いかな、「データ」に関する本です。
ちょっと前にカレーンジャーの記事の中で、鳥取がカレールウ消費量日本一というようなことを書きました。その時もちょっと疑念があったんですよね。ホントかな?って。そしたら、今日読んだこの本にちょうどそのデータが出ていました。ネタにされてるんですね。結論としては、「全国一という地位を確固とするためにはもう少し詳細な調査や分析が必要であろう」ですって。
まあ、この例に限らず、どうも世の中には怪しいデータが跳梁跋扈しております。そして、我々人間はデータに弱い。なんででしょうね。はっきり示されると「ははぁ〜」となってしまうのは、日本人のサガなんでしょうか。
しかしいかんのは、こうしたデータ(数字)の魔力を悪用して、集団気分を意図的に醸成し、金もうけをしようとする怪しい、いや賎しい人間がいることです。私は、そういうヤツらにだまされない為の授業を心掛けておりまして、それなりに効果を上げているものと自負しています。何しろ、私の授業を受けた99.8%の生徒が、「人生が楽しくなった」と言っていますので(笑…冗談ですよ)。
もちろん、だまされて得することもあります。不景気なんかも半分は我々の気分の作り出すフィクションですので、そういうのに飽きてそろそろ自粛ムードから脱したいと皆が思い始めたりした時には、上手に数字でだまして劇的に場面転換するというやり方もあります。
この本では、主に悪い方、それも最近実際に発表され、人々が惑わされたデータが満載でありまして、なかなか面白い。そのカラクリやら、盲点やらを逐一説明してくれていまして、大変勉強になります。やや、そうした実例の分析が続きすぎて冗長な感じを与えますが。
ああ、そうだ、私、この季節には小論文の指導をすることが多いんですけど、そういう時にもこういったアマノジャク的視点というのは役立ちます。グラフや表が提示されて文章を書くということが多いんですよね。その場合、私はまず、そのデータが信用するに足るか、データとして問題がないかを検証させます。すると大概使えないんですよね。ですから、読み取れることを書け!という問題の場合、「この資料には〜問題があることが読み取れる」みたいなことを書かせちゃうんです。これで大概の場合受かります(笑)。人は裏技と言いますが、私にとっては表技ですよ。
この前も、どこかの民放で年末の歌番組をやっていて、出てくる歌手の支持層みたいなグラフがいちいち出てました。この人は30代の男性に支持されてます!とかね。ああいうのを真に受ける視聴者にはなりたくありません。楽しむ分には大いにけっこうですけど。
あと、これは数字のマジックだけの問題ではなく、たとえば次のような日本語全体の問題でもあるわけです、当然。本書にこういう例が挙げられていました。
「八割が就職の『勝ち組』 新入社員の意識調査」(共同通信)
「〈新入社員意識〉五人に一人が就職活動の『負け組』と認識」(毎日新聞)
同じデータによる記事の見出しです。面白いほど印象が違いますね。これもメディア・リテラシー、データ・リテラシーの教材として使えます。受け取る立場としてだけでなく、表現者としてもこの技術は身につけておきたい。
というわけで、人の心を動かすのが「言葉」の力。すなわち「言霊」ですね。私は古語の「ことたま」という言葉自体には違う定義をしていますが、まあ確かにこういう力はありますね。そして、いわゆる言葉だけでなく、「数霊」、「データ霊」みたいなのがあるというわけです。
そのへんについてはまたいつか書きたいと思っています。とにかく、この本は高校生にぜひ読んでいただきたいですね。賢い大人になりましょう。
Amazon データの罠 世論はこうしてつくられる
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コメント
基本、データなんて、研究者が都合良いように取られますからね。
『科学的』に証明されたという言葉がどれだけ信用に足りるのやら。。(笑)
ま、どこぞの高校のクラスで育った高校生は、賢く生きることができますよね。
理科と国語で(理系・文系両方から)そういうことを叩き込まれているのですから。。
人間を騙すのって簡単ですよね。。(笑)
投稿: たこたよ | 2006.12.20 18:27
たこたよくん、どうも。
あなたもまさに都合の良いデータの世界に生きてるんですよね。
なんだかそちらも大変なようで…w
こちらはおっしゃる通り、たくましい(ズル)賢い生徒が育ってます。
騙し騙されの人生ですけど、まあやっぱり賢く騙し騙されたいっすね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.12.20 18:44