『行動経済学 経済は「感情」で動いている』 友野典男 (光文社新書)
先日おススメした茂木健一郎さんの「ひらめき脳」にも紹介されていた「行動経済学」の本です。けっこうなボリュームだったので、ちょっと読みきるのに時間がかかりました。いつものとおり、他の本との並行読書ですし。
とても面白かった。興味深いテストが多数掲載されていて、それに答えていくことによって、いかに私(たち)が感情で動いているか、いかに私(たち)が論理的でないかを確かめられます。それだけでも、とっても楽しい。決して不快ではありません。私などはそこに安心すらしました。
お金にまつわる「経済」によらず、全ての営みである「経世済民」においても、私たちはかな〜りいい加減な決断をしながら生きております。そこだけは、私も自信があったんですね。だから、従来というか古来の経済学の基礎となっている「完全な経済人」というのに、どうも違和感があった。友野さんうまいこと言ってます。
「経済人は感情に左右されず、もっぱら勘定で動く人々である。経済人は市場は重視するが、私情や詩情には無縁である。金銭に触れるのは好きだが、人の琴線に触れることには興味がないような人々なのだ」
たしかに経済の教科書にはこう書いてあるけど、とりあえずオレは違うな。オレはどっちかって言うと、「感情」「私情」「詩情」「琴線」だな。みんなもそうなのか聞くのはちょっと恥ずかしいけど、いや、きっとみんなもいい加減なはずだ…なんとなく、そういう自信はあったんです。
で、ようやくそういう人間の基本、たぶん有史以来変らない基本「いい加減」に、学問の世界が追いついたと。ダニエル・カーネマン(金人!?)がノーベル経済学賞獲ってくれて、やっと「いい加減」が学問になった!おっと、「いい加減」と呼ぶのはやめましょう。学問に失礼です。「感情」です。
いえいえ、実はですねえ、私は「感情」という言い方にも違和感があるんですよ。「神経経済学」でシュルツの言う通り、「不確実性」そのものが脳にとっては「報酬」になりうる。それはわかります。で、ドーパミン放出に「不確実性」が演出効果として有用だというのも分かります(というか私はそう思います)。ただ、そこで働くのは、どうも日本語の「感情」ではないような気がするんですよね。
では、何かと言いますと、やっぱり「気分」だと思うんです。「心理」でもなく「感情」でもなく、もっと「いい加減(良い加減ではないですよ)」な「気分」だと思うんです。だから、私がノーベル賞いただくとしたら、「気分経済学」でしょう(笑)。「行動」とか「神経」なんて難しいこと言わないで「気分」、これです。
以前、こちらに「集団気分」について書きました。人は「気分」で動く。「感動」もするし「行動」もする。とりあえず私はそうです。
で、いつも思うんですけどね、お金の流通としての「経済」って、まさにお金を流通させてなんぼの世界ですよね。簡単に言えば、購買意欲の絶対量の問題です。いかに金をかけさせるか。もし完全なる経済人が本気を出したら、今のシステムの経済はすぐに停滞しますよ。無駄な買い物しませんからね。だから、不景気は人間が賢くなっている証拠なんです。景気がよくなるとお祭り気分になってくる。で、バブルはとんまつりですね(笑)。とにかく、深く考えずにだまされて、作られた流行という神輿に乗らされたり、神輿の担ぎ役になったり、そしてみんなでワッショイワッショイ。それが、今の経済システムの風景です。
さらにもう一歩。これもちょっと前に書いたような記憶がありますけど、政治の本質は「まつりごと」です。景気をよくするのが政治家の役目でしょ。だからお祭りの「集団気分」を醸成したら勝ちです。政治に限らず、商売人がやるべきことも、宗教家がやるべきことも、結局こうした「集団気分」の醸成なんですね。
この本は、ここ数年の経済学の流行である「行動経済学」がいかにカッコイイか紹介したものと言えましょう。人間の愚かさが学問になるんだと。人間の愚かさは学問になるほど普遍的で再現性があるんだと。なるほど、それはカッコイイことかもしれない。私が「気分」として片付けたものを、ちゃんと論理にしてるわけですからね。うん、カッコイイかもしれない!
しかし、そんな浮かれポンチな読者であったワタクシは、最後の最後、はっと正気に戻ったんです。これは、おそらく友野さんが私なんかよりずっとちゃんとした人だからです。さすがですね。「あとがき」にいきなりシューマッハが登場するんですよ。シューマッハは「仏教経済学」の提唱者です。知足と利他と布施の精神に則った第三の経済学。
あとがきの寸前に、こういう一節があります。
「自分自身の満足がまったく伴わない完全に自己犠牲的な利他行動は未だ観察されていない」
たしかにそうなのかもしれません。しかし、それを実現しなければ、真にsustainableな世界は実現できません。もうごまかしはきかないところまで来ているのです。この悲観的な現状と未来をひっくり返すには、やはり仏陀のような、人間以外の他者に迷惑をかけない生き方を目指すような「集団気分」を醸成してくれるカリスマが現れねばなりませんね。
繰り返し本当のことを言ってしまうとですね、現在のようなベクトルのあり方、つまり、祭方向に長ければ長い方が善ベクトルであるという、これも気分なのかな、そういう人間の性みたいなものの通りにしてしまうと、これはもう絶対バブルがはじけます。ドーパミンばっかりじゃあ、だめなんですよ。自殺行為です。
ウォルフラム・シュルツの言うこともわかります。しかし、その反対のベクトルのあり方というのも考えねばならないでしょう。それが、「ひらめき脳」のところでも書きました「お釈迦様の教え」なんです。日本流に言えば「もののあはれ」です。足りないことに満足する。完全でないことに「オシャレ」を見つける。そんな自分がカッコイイしカワイイ。たしかに日本人は江戸時代までそういう生活もできたんです。
なんか、長々と本書の内容に関係ない話をしてしまいましたが、こういうことを考えさせてくれる良書であったことは、最後にしっかり書いておきたいと思います。勉強になりました。
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